9.驚愕
ベッドの横で俺たちがワアワアと騒いでいる所為か、アージェが「ウゥーン」と唸り声みたいなのを上げた。
俺たちはその声に反応してバッと一斉にアージェの方へ視線を向けると、まるで何事も無かったかのように静かに目を覚ましている。
「アージェ!!」
名前を呼んだが返事はなくアージェは頭だけをコロンとこちらに傾けてゆっくりと瞬きをし、俺の顔をただ見つめてきた。
パウロが移動して肩の上へとちょこんと座り、両手が空いた俺はそっと手を伸ばして掛けていたベッドの毛布を捲ると、両手で水でも掬うかのようにして小さな子猫の姿になってしまったアージェを慎重に抱き上げた。
「小さくて……軽い―――。」
まるでここに存在していないかの如く重さを殆ど感じぬほどにその身は軽く、両手の中にすっぽりと収まってしまうほどに小さくなってしまったことを改めて実感し、そんな意識も無く俺の目から勝手に頬を伝って涙がポタリと落ちていた。
「ごめんな、アージェ――。今の状況、自分ではわけが分からないだろうけど……俺たちもどう言ったらいいか―――。」
子猫の姿のアージェは何も言わず、俺の頬にある涙の痕をペロリと舐めてからそこへ頭突きをする様にして額をグリグリと押し付けてきた。
「ア、アージェ……。」
「――ンニァ。」
「ハハッ……! そんな猫みたいな声を出さなくても―――。」
アージェから発せられた可愛らしい子猫の様な声にまさかと反射的に反応してしまったが……最後まで言いかけた所ではたと気付いた。
「もしかして………本当に人の言葉を喋れなくなったんじゃ――。」
「そんなっ――! そんなことがっ!?」
驚愕のあまり不意にこぼれてしまった俺の言葉に皆も驚いている中で、ピエトロが俺に訊ねてきた。
「俺も信じられないけど………。でも……。」
そこへイブがシュタッとベッドの上へと飛び乗った。
「ルカ様、アージェをここへ。」
「う、うん……。」
俺はイブに言われるがまま、アージェをベッドの上へとおろした。
するとイブはアージェに猫語で話しかけるも苦戦しているようで、首を何度も傾げて遂には降参といった状態で下を向いてしまった。
「……ダメです。幼過ぎてまだちゃんと喋れないって感じですね。赤ちゃん語――とでも言うんでしょうか……。それでもポツリポツリ聞き取れた言葉から察するに―――この子はもうアージェじゃありません。」
「「「――――えぇっ!!?」」」
イブから告げられた言葉に皆で衝撃を受けた。
「そ、それってどういう……?」
「『生まれ変わった』――とでも言いましょうか。アージェであった記憶も何もなく、どうしてルカ様が泣いて、私たちが騒いでいるのかも全く理解していないようです。ただ『ママはどこ?』と……。」
「また、俺の所為―――。」
「いいえっ! 違うわっ!!」
「うんっ! 違うにゃ!!」
自責の念にかられてぼやく俺を止める様にリリアが俺に抱き着いて否定の言葉を叫び、次いでパウロも俺の頭に抱き着いて叫んだ。
「これは仕方のないこと……事故だったのよ。お兄ちゃんも――誰も悪くないわ!」
「そうにゃ! そうにゃ!」
リリアの話へパウロが同意を示し、他の猫たちは俺の足元でウンウンと頷いていた。
「そうだぜ! ルカ様。誰もこんな事を予想なんかしていなかった、ルカ様がアージェの命を助ける為にって一生懸命になったってことだけだ。それらは褒められこそすれ、誰彼に責められることなんか1%だってないことなんだぜっ!」
俺を元気づけようとしてか、アダムがキザっぽくそう言った。
「フフッ……! ありがとう、アダム。でも………どうしよう?」
こんな状態のアージェを1人で置いていくことなんて勿論できないから俺が責任をもって育てなければとは思うが………。
「運良くって言っていいのか分からないけども、アージェには既に両親は居ない。特に頼れる大人は居ないって言ってたけども……確か友達は居るって言ってたよね。」
「そう……だっけ?」
「うん。リリアはパウロとかと遊んでいたからよく覚えていないかもだけど、前にこの家で皆でご飯を食べた時にそんな話をしたんだよ。この街で親しくしていたのはその友達だけって言っていたし、誰なのかは分からないけど黙って居なくなるわけにはいかないから探し出して伝えないとね~。」
「でも……なんて言うにゃ?」
リリアと話している途中で、パウロが俺の頭の上から話しかけてきた。
「う~ん………。そのまんまの事実を言ったって信じてもらえないだろうしなぁ……。ちょっと酷な言い方だけど、死んだって事にでもしなければ……。」
「そう………ですね。まぁ、姿も変わって記憶も無いとなればそれに近しい状態ではあるし、『死んだ』というのが間違いとも言えないでしょうしにゃ~。」
俺の発言にイブはウンウンと頷き、誰も何も言わない中でただ一人賛同の言葉を述べた。
唯一と言っていいほどにこの中で冷静に物事を考えれるイブを除き、『死んだことにする』って言葉は胸にズンと重しを乗せられた様な気持ちになった感じにお葬式みたいな空気になっていた。
俺だってそれは憚られたけども………他にどうもしようがなかった。
下手に希望を持たすようなことを言えば後々に帰ってくるかもしれないって思わせてしまう事になりかねない。
そう相手に思わせてしまったならば余計に悲しい思いをしてしまうだけだし、俺はこの言い訳が最も良いと思ったのだ。
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