8.初耳
もう何が何やらという状態で棒立ちになったまま目をシバシバとさせ、一言も発することができずに黙ってそれを見つめていた俺は突如チクリとした痛みに襲われ、真っ白になっていた思考に色が走った。
「いてっ!」
痛みを覚えた足の方を見やると、そこには少しイラついた表情をしたパウロが噛み付いていた。
「やっと気が付いてくれたにゃ! 『お兄ちゃん!』って呼びかけても服の裾とか手を引っ張っても返事がないからどうしようかと思ったにゃ~。」
「ごめん……。ちょっと―――あまりの衝撃に言葉を失ってた。」
「うん……。ビックリだね、お兄ちゃん。」
俺の言葉にリリアも同意した。
「アージェが―――。アージェがこんな姿に……。」
目の前のベッドでスヤスヤと穏やかに寝ているのは昨日まで見ていたよく知っている姿ではなく、何故か可愛らしいちんまりとした大きさの子猫だった。
どっからどう見ても姿形が違うのだが、このベッドに寝ているという昨晩最後に見た状況からそうであるらしい――というよりも、俺は本能的にこの子猫が“アージェ本人である”ということは確信できるのだが………。
「俺の……所為なのか?」
一瞬こうなったのは邪神の呪いの所為かとも思ったが、それは俺が確かにキレイに排除したはずであるので俺が悪いとしか思えなかった。
「でも………なぜ?」
首を傾げるしかなかった。
戸惑って「ウ~ン」と唸りながら難しい顔をして考え事をする俺を見て、リリアと猫たちはザワザワと落ち着かずに不安そうにしていた。
ただ―――パウロだけは能天気というか、特に何か思うでもなくニャーニャーと鳴きつつ俺に抱っこを強請って万歳をするみたいに両手を上へと伸ばしてきていた。
「ハハッ……。パウロは無邪気で良いなぁ。パウロはアージェが猫の姿になったことに何も不思議に思わないのかい?」
自分に向かって伸ばされた手に応える様に、俺はパウロの両脇に手を入れて抱き上げた。
「ん~~~。別に吃驚はしないにゃ~。お兄ちゃんはワタチでもあるのだから、そういう事もあるかな~ってぐらいだしにゃ。」
「……へっ?」
俺が―――パウロでもあるとはどういうことだ……。
「んっとね~。お兄ちゃんがこっちに来るのを見つけた時にワタチ、虹の橋から急いで追いかけたんだけど、なんかね~混ざっちゃったらしいのにゃ~。」
「――混ざった? ――何が?」
「えっと~、魂が毛糸みたいに絡まって剥がすのに大変だったって神様が言っていたにゃ~。
しかもシンワセイ?――っていうのが高いらしくって、キレイに元通りの2つには分けれずに少し混ざっちゃったんだって~。」
「親和性? 俺と――パウロが?」
「うんっ!」
自分のした要求がすぐに叶った事でご機嫌になったパウロから元気良く返事が返ってきた。
「ワタチには神様がした話はあんまり分かんなかったけど、そうらしいにゃ~。」
たぶん……神様はもう少ししっかりと説明はしていたんだろうが、幼い子猫のパウロには理解ができなかったという事だろうと思われる。
そんなパウロから伝言ゲームの様にして聞いた話であるので分かりにくい部分もあるが、どういうことなのか多少は理解ができる―――かなといったところだ。
「つまり俺は………人間ではあるけども、一部は猫でもあるという事――か。それが俺の魔力にも影響していて、俺の魔力を大量に注ぎ込んだアージェをこうしてしまったということなのか………?」
前にテレビ番組で骨髄移植をするとドナーの血液型に変わるという話を聞いたことがあるが……これはそれと似た様な事なのだろうかと、そういう風に考えてみれば何となくではあるが理解ができる。
「いや……でも………。自分で考えれる範囲の事でしかないけども、他にこの事を説明できる理由が思いつかないな―――。」
そこまで考えが行き着いた所で、そういえば城で勉強をしている時に地球で行われていた輸血みたいなものをこの世界では血ではなく魔力でする医療行為があると教えてもらったことを思い出した。
魔力災害にあったり魔力が関係する病に罹ると、記憶を失うまでにはいかなくとも稀に意識を失ってしまう程の魔力を枯渇してしまうことがあるそうで……。
そういう時にA型の人にA型の血液を輸血するのと同じ様に、火属性の人に火属性の魔力を注入して回復させるという医療行為をこの世界では行うらしいのだ。
間違っても別属性の魔力を注入してしまうと………死の危険すらあるという話だ。
だが救世主や、王となる者やペガサスなんかの聖獣とも呼ばれる一部の者のみが持つ『聖』の魔力だけは別で、誰に注入しても問題のない特殊な性質をもつものらしい。
「俺が注ぎ込んだ魔力は一般人には持っている人が居ない『聖』という特殊な性質の魔力で、なおかつ大量だったからそれがエルフであるアージェの姿を根っこから変えてしまったという事か………。でも、ああしなければアージェの命が危うかったのは確かだし……。アージェが気付いたら怒られてしまうかな……?」
目が覚めたアージェが今の自分の姿に気付いたらなんて思うだろうかと、気がかりで俺はそれが怖くなった。
命を守る為とは言えアージェに責められる事も当然のこととして俺が受け入れなければと、湧いてくる怖さをかき消すが如く奥歯を噛みしめて覚悟を決めた。
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