7.驚きの朝
無邪気なパウロのお陰もあってか、どうにも気恥ずかしくなって言い訳じみたことばかり考えてしまって焦っていた俺の気持ちも和んだ。
「アージェは……まだ当分起きそうにないし、もうこの時間だ。お腹も空いたしご飯にしようか。」
「「「うんっ!」」」
気が付けば窓から見える外の景色はとっぷりと暮れており、それを見て時間の経過を意識すると途端にお腹が空いているのを自覚した。
「本当はもう一度アージェと一緒に食べようと思ってたんだけど……これぐらいしかないし、仕方ない。今夜は台所を借りてトマトソースのパスタを作って食べようか。」
「「「は~い!」」」
以前作った時と同じ様に皆で協力し、俺たちだけで食べるからと今回は干し肉を水で戻して細かく刻んで入れた特製のトマトソースのパスタを作った。
猫たちは肉食獣であるので肉類を食べなければ何を食べても空腹感は解消せず、別で用意するのも面倒くさくなった結果である。
そうしてできたトマトソースのパスタを前は美味しいと言って食べていたリリアやイブたちも、今回のは大丈夫だろうかと恐る恐る口に運んでいた。
俺には予想通りの味だったのだが……干し肉なんて保存食として作られているものでかなり硬かったりするもので、ものによっては保存性を高める為に結構しょっぱかったりして冬や旅先でそのまま齧るものであってこういう風な食べ方はしないので少し不安だったのだろう。
「美味しいっ!」
でも一口食べれば柔らかくなった干し肉から染み出た味が良い塩梅にトマトソースに混ざり合い、嬉しそうな顔をして告げられたその一言で俺は安心した。
「これを片付けたら今日はもう疲れたし休もうかと思うんだけど……リリアたちはピエトロとアンドレアも連れて以前使わせてもらったベッドで寝ててくれ。」
「寝ててくれって――お兄ちゃんはどうするの? あそこではさすがに7人全員では眠れないよ?」
「あぁ、それもあるし……アージェの事がまだ心配だから俺は今夜、アージェの傍に居ることにするよ。だから気にしないでベッドで寝ててくれ。」
「えっ……! でも―――。」
「大丈夫、大丈夫。そんなに心配そうな顔をしなくても……。大丈夫そうなら俺だってちゃんと寝るし。」
「うん………。」
心配そうな面持ちでリリアが止めようとしたのを押し切り、俺はアージェの看病――というか添い寝をすることにした。
膨大な魔力の証である色を失うほどの変化は、かなり体に負担をかけているんじゃないかと気遣っての事だろうが……俺自身、特に疲れたとかって事を感じても居ないし大丈夫だと思う。
俺はそれよりもアージェの事が心配だったのだ。
もしかしたら………俺と関わってしまったばかりに邪神に目を付けられてしまった末の事だったのではないんじゃないかと不安だったのだった。
リリアは心配そうな顔でおろおろとしていたが、俺の何度も言った『大丈夫』という言葉になんとか話を飲み込んでくれた。
夕飯後に全員で後片付けを済ますと、俺意外の皆はリリアに連れられて前に使わせてもらったベッドの部屋へと入っていく。
「「「おやすみなさい。」」」
「あぁ、おやすみ。」
就寝前の挨拶を交わすと俺は一人、アージェが寝ている部屋へと入った。
まだ目を覚ます気配の全くないアージェはスースーと静かな寝息を立てて穏やかな寝顔で寝ている。
俺は持っていた適当な布を床に敷いて毛布を体に巻き、ベッドを背もたれにしてアージェの顔を見ながらウトウトとした。
「アージェ……。」
何か異変があればすぐ起きられる様にと仮眠程度のつもりで、熟睡をしない為に横にはならなかったのだが……。
自分でも気が付いていなかったが余程疲れていたのだろう……ハッと目を開けてみれば窓からは朝日が射し込み、すっかりと部屋の中も明るくなっていた。
寝ている間にいつの間にか倒れてしまっていたようで、硬い床で寝てしまっていた俺の体は節々がピシピシと音を立てそうなほど痛くなっていた。
「いっ、たたたたたた……。」
まだ残る眠気から頭はすぐには働かず、ぼんやりとさせたまま痛くなっている体の所々を庇うようにしてむくりと起き上がった。
「やってしまったな……。朝まで寝るつもりは―――っ! アージェ!!」
やおら立ち上がり、欠伸をしたところで俺はハッとしてベッドの方へと振り返った。
「アー………ジェ――?」
たどたどしくも名前を口にするだけで精一杯で、俺は驚愕のあまり言葉を失い、自身の鼓動に飲み込まれそうになるほど心臓が大きく1つ脈打った。
目の前にあるのは一体なんだ……何なのだ………。
あるべきものが無く、そこにあっては妙なものがある―――。
これは夢か、幻か―――。
俺は何度も瞬きをし、ゴシゴシと目を擦った。
アージェは一体どこに…………。
「おっはよ~!」
そこへ静寂を打ち破るが如く、元気な声と共に背後にあったこの部屋のドアが開け放たれた。
たぶん目を覚ましたリリアと猫たち数人が俺を起こしに来たといったところなのだろう。
「どうしたの~? お兄ちゃん。」
無邪気にそう言ってパウロは俺の足元に擦り寄ってくるが、挨拶も返さずにベッドを見つめて突っ立ったままの俺の行動の異様さにイブは何かピンときたらしく、真面目に落ち着いたトーンで尋ねてきた。
「何か……あったのですか? ルカ様。」
俺は何も言えず、スッとベッドの上を指さした。
これは言葉で言えるほどの安易なことではなく、頭の中が真っ白になって何も話せなくなっていた俺にはそうするぐらいしか思いつかなかったのだった。
部屋の出入り口に居た皆はどうしたのだろうかとサッとこちらに近寄ってきた。
「アージェに何か―――っ!?」
それを皆は俺と同じ様に腰を抜かすほどに驚愕し、パウロに至っては耳をつんざかんばかりの叫び声をあげた。
「ギニャーーーーー!!!」
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