5.初めての……
俺は驚愕した。
自分の身に起きた変化に我が目を疑い、その変化した場所をよく見ようと一歩身を乗り出して鏡にくっ付かんばかりに接近し、更には自分を確かめるようにして頭、顔、体とくまなくペタペタと触りまくった。
「頭が……いや、目も―――。」
母由来のイタリア人の血が混じっているにも拘らず、俺はそれが自分にも周囲にも分からないほどに父由来の日本人の血が表層に濃く出ている見た目をしていた―――はずだった。
なのに………。
「母に――う~ん……違う。母よりも色味が薄くて明るい………。なんだってこんな――。」
そこまで口に出てハッとした。
この世界において目の色や髪の色は人種や血筋によって違うものではなく、生まれもった魔力の質や属性によって違うのだという事を思い出したのだ。
だけど――成長期の子供時代だけではあるが、魔力が増えて色味が濃くなっていくことはあっても減って色味が薄くなるという事は無いと聞いた。
唯一その色が薄くなる時があるとすれば、邪神に魅入られて祝福を受けてしまった時に色を失い、その美しさから白銀色とも言われる真っ白な姿へと変わってしまった時だけなのだが―――。
一瞬嫌な予感がして、もしや邪神の祝福を受けてしまったのかと焦ったが、白い色になっていたわけではなかったのでそれはないかと一抹の不安もすぐに頭から消えた。
ともあれ――黒ずんだ目に真っ黒な髪といった日本人にはあるあるな色合いだった俺のコンプレックスだったものは、髪は母の持つダークブロンドよりも更に薄く少しくすんだ金髪に近い色合いへと変化し、目は地球でもこの世界でも未だ見たことも無い菫色になっていた。
「色が変わっただけなのに……まるで別人だな。」
俺は鏡で自らを見て今の『自分の姿』を認識し終わると、鏡に映る自分をジーっと見た。
「確かにコンプレックスだったし、黒は大嫌いで……。一時期は母さんみたいな色になりたいと思っていたけども……これは母さんとも――ましてや祖母ちゃんやあっちの国にいる親戚のオバさんたちとも違うし………。目なんて妖精そのものって色だ。―――なんだか寂しいな。」
そこにあったのはコンプレックスが解消されたら湧いてくるであろうと思われていた喜びではなく、俺にもたらされたものは父とも母とも繋がりを絶たれたような気持ちにさせる寂しさだった。
嫌い嫌いと言ってコンプレックスだと思いつつも、この世界――『聖なる庭園』に来て自分自身が家族にも知られていない存在だと知ってからは、家族との繋がりを体で感じられる大事なものだった。
目や髪の色なんて失いようの無い物で常にこの身にあるものだからこそ、魂一つで何も持たずに来てしまった『聖なる庭園』にて今までとは変わっていく自分の日常の中でも唯一それまでの自分を証明できるものとしてこの黒髪の姿をから繋がりを感じ、どこかで安心感を抱いていた。
「失って初めて気づく大事さ……か。まぁ、今はただ慣れていないってだけかもしれないしな~。」
そんなことを思いながらリリアたちの待つ部屋へと戻った。
「お兄ちゃん……。」
ドアを開けるとどう声をかけていいのか困ったといった雰囲気で、気まずくて話しかけづらそうにしているリリアを助ける様に猫たちはお前が話せとといった風に体をツンツンとし合っていた。
そこで自分の髪の毛の先を少し指で摘まんで見せ、「これ……」と俺が話し始めた。
「これを見て、皆は驚いていたんだな。」
「うん……。」
不安そうに小さく頷くリリア――、それとは対照的にパウロだけがまだどういう事だか理解をしていないようでただひとり寂しそうに床に寝そべり、少し低めの遠吠えの様な声でァオーンと鳴いていた。
俺はパウロを抱き上げてかかえてリリアの横に座り、リリアの頭にポンと片手を置くと撫でた。
「……少し抱っこしない間に重くなったな~、パウロ。」
「パウロはまだまだ子供だもの。これからもどんどん大きくなるわ。」
独り言のように話しかけた俺の言葉に、リリアは俯いたまま返事をした。
爪を立てた手で俺の服をガシリと掴むと、執拗に俺の体に何度も頭をスリスリと擦り付けてパウロは甘えてきた。
「大きくなっても、ワタチとお兄ちゃんは一緒で、お揃いで……。なのにお兄ちゃんが……。」
「ハハッ……! パウロはまだまだ甘えん坊だな。俺の髪の毛が黒じゃなくなったからって何も変わらないじゃないか。」
「だって――。だって―――。」
この中では俺とパウロだけが黒色の毛を持っており、お揃いであったことが余程嬉しかったのかそれが失われた今、すっかりと駄々っ子になって拗ねてしまっている。
「ねぇ、お兄ちゃん。その―――色が変わった理由って分かってるの?」
リリアはキュッと唇を噛み、意を決する様にして俺の顔を見上げて話し出した。
「何となく見当はついてるけど合っているかどうかって言うのは………。たぶんだけどさ、呪いから治す為に魔力を使った時に邪神の影響を少し受けちゃったんじゃないかな~って。それで絵の具を水で薄めていく様に薄まったんじゃないかと思う。ただ――目の色だけは、生まれて初めて見る色だから分からないけど……。」
「うん………。不思議な色だよね~。本来は火属性の赤と水属性の青は混ざらないはずなのに……。」
そう言って顔を近付け、マジマジと俺の目を見つめてきた。
「ちょっ、ちょっと! リリア。そんなにされると恥ずかしいってば。」
思わずキスをしてしまいそうになる程にあまりにも至近距離でジッと見つめられ続け、恥ずかしくなった俺はリリアの体を押し退けて抵抗した。
俺のその言動にリリアもハッと気が付き、さっきまで平気そうにしていた顔をポッと赤らめて目を逸らしてしまった。
「ルカ様もリリアも、両方とも顔が真っ赤ですにゃ~。」
「「真っ赤にゃ~。」」
その様子を見ていた騒ぐのが大好きなアダムが囃し立て、ピエトロもアンドレアもそれに乗っかった。
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