1.国境での別れ
「おっ! そろそろだな……。」
サクラヴェール国ちおオフィーリア国の国境から黄色エルフの街まで、あの街での滞在期間を除くと歩きと精霊の手でだいたい二週間半もかかっていた距離があっという間だった。
食事だったりによる数度の休憩と、闇夜の中を行くのは少々危険なのもあって暮れてからは停車して休んでいたにも拘わらず、あの距離を僅か二日で目的地である国境まで着いてしまった。
そして今回は理由が理由なのもあって国境警備をしている衛兵には会うわけにもいかないので検問所の有る道は通ることができず、精霊の手で時に空を飛びながら道ではない場所を隠れる様にして国境を進んだ。
流石に国境のラインを越える時には俺も、リリアも、フェルモも……そして猫たちも息を潜めて緊張からドキドキした。
国境から数十メートルは行ったところにある交易路付近まで来ると「ここでいいから」とフェルモに言われて精霊の手を止めて降ろした。
「こんな所で良いの?」
「えぇ……。ここまでくればそう危険もありますまい。元より孤児の出です。誘拐されて行方不明になった時点で人との繋がりは切れ、あっしには頼れる者もいないのです。だからあっしには特に行く宛てもないんで――サクラヴェール国の中にさえ居れればどうとでもなりますよ。」
フェルモは明日への不安からニコリと寂しげな笑みを浮かべ、少し振り向いてこれから行く道の真っ直ぐ遠くの方を見ていた。
「あっ、あの! 少しだけどこれ、何かの足しにしてください! 多少は持っておかないと街の中に入ることも宿に泊まることも……何かを始める事だって困るでしょう?」
「あっ……あぁ――。ありがとうございます。」
フェルモは俺が差しだしたお金の入った小袋を俺の手ごと握り締め、何度も何度も「ありがとう」と繰り返した。
「いや、そんな――。大した金額は入っていませんよ。」
謙遜―――ではなく本当に大した金額は入れてはいないのだが、受け取ったフェルモは小袋の口を開けて中身を確認した。
「わっ! そんな―――こんなにも!」
「いやいやいや。殆ど換金してたからサクラヴェール国のお金は小銭ぐらいしかないから悪いけど。それでも、こっちのお金に換えれば一ヶ月ぐらいは宿屋に泊まって余裕で暮らせるぐらいには入れておいたから。これで何とかやり直してよ。俺に返すとか全く考えなくてもいいからさっ……応援するよ。」
「やっぱりあなた様は――お金持ちなのですね。そして伝え聞くどの聖人様たちとも同じで、お優しい……。」
フェルモはボロボロと涙を溢しながらその場に膝を付き、俺に向けて祈りを捧げた。
「あっし如きの小者があなた様にまた会うことはきっと叶わないでしょう。ですがっ! ――ですが、二度と会えなくともあなたに恥じぬ生き方をするとここに誓います。それがたぶん一番の御恩返しでしょう。」
「うん、まぁ――。そんなに難しくは考えなくってもいいんだけどさ、年下の俺が言うのもなんだけど人生まだまだなんだからこの先で幸せになってよね。」
「はい―――。」
こうして一人静かに道の向こうに去っていくまで手を振り、フェルモとは別れた。
「――いっちゃった……ね。」
フェルモの姿が見えなくなって振っていた手を下ろすと、リリアがポツリと呟いた。
「うん、そうだね。」
僅か二日ほどとはいえ、俺にとってはオフィーリア国――いや、この世界の知らなかった闇の一部を知るいい機会となった。
「城で勉強したことはキレイな事柄ばかりで、闇の部分なんて殆ど教えてもらえなかったしな~。元より知らなかったのか、それとも俺に教えたくなかったのかは分からないけど………。俺にとって必要なのは、こういう闇の部分を深く知る事なんだよな~。」
「王様が……知らないことなんてあるのかな? だって自分の治める国の国民が他国で奴隷にされているんだよ?」
俺の何気なく口から出た独り言に、精霊の手の縁に腰かけていたリリアは抱っこしていた寝ているパウロを撫でながら不思議そうな顔をして問いかけてきた。
「う~ん。その奴隷にされた人がよっぽどの重要人物でもない限りは関知できないんじゃないかな? 庶民一人一人にまで、人数とかそこまで細かくは把握できてないだろうし……。たぶんフェルモさんみたいなのだけじゃなく、戦争の為に他国の領地に行ってそのまま取り残されて捕虜になって、奴隷にされちゃった人も多くいる気もするし――。」
「それは―――ないんじゃないかな?」
「どうして?」
「だって戦争には神官様とその人たちを守る騎士様しか参加はできないし……一般人が他国の領地に行くことは勿論、神官様も騎士様も加護の力を最大限に生かす為に国境以上に前に出て他国の地を踏むことはないんだよ。だからあり得ないと思うんだよね。」
リリアの言葉に少し頭を傾げはしたが――話を聞いてよくよく今まで聞いた話を思い出して考えてみると、そういえばこの世界における『戦争』というものが俺の想像できる地球でのものとかなり違ったものだったなとハッとした。
この世界における戦争の本質は相手国の聖書をその一部でもいいから奪う事であり、聖書によって受けられる恩恵を自分の国へと移動させることである。
聖書の本体は王しか知らない場所に秘匿されるものであり、コピーされて力の欠片として分割された一部は国の重要機関にて保存されているという話で、それを奪うことができるのは髪の毛も目も黒い双黒の神官が使う極大魔法だけだという話だ。
その重要機関というのがどの国も防御力を厚くする為に国境に多く置かれているというのだから、確かに他国の中にまで入ることは無いに等しいという事なのだろう………。
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