8.夜のサプライズ
「「「いっただっきまーす!」」」
全員でこんがりと美味しそうに焼けたドラゴンモドキの肉の串焼きを手に、一斉にかぶりついた……。
「うおっ!?」
「「「うっみゃ~い!」」」
俺は正直こんな物をという思いで恐る恐る口を付けたのだが、その思いに反して旨味の強いドラゴンモドキの肉の味は噛めば噛むほどに脳髄の奥にまで染み渡っていく様だった。
「――美味い。」
「美味しいねっ! お兄ちゃん。」
焚き火を挟んで俺の向かいに座っているリリアは串肉を頬張り、俺や猫たちと目を合わせて話しながら嬉しそうな顔をしていた。
「あぁ―――。」
パウロを中心として、特に繋がりもなく旅の途中にひとりふたりと増えていった猫たちも今や家族という雰囲気を感じ、実に和気あいあいと串肉を取り合って楽しそうにしている。
「これが『縁』というやつなんだろうな……。」
「ルカ様―――。」
「ん?」
隣に座っていたピエトロが俺の腰辺りを肉球でポンポンと叩いて名前を呼んできた。
「皆は初めて食べるドラゴンモドキの美味しい肉に舞い上がっていますが……こんなことをしてて大丈夫なんですかにゃ?」
そう言って丸く縮こまらせた体は毛は逆立ち、ピエトロの耳はペタンと後ろに伏せられて尻尾は体に沿う様に巻き付けられている状態で怖がっているみたいだった。
「黄色エルフが……怖いの?」
暫しの間が開き、俺の問いかけにコクリと首を縦に振ってピエトロは答えた。
リリアも他の猫たちも、黄色エルフがしたことに怒ってはいたがそれだけで、特に仕返しをしてやるだとかを考えるとかもなく、あっけらかんとして今は目の前の美味しい串肉の事だけを見ていた。
だが気弱なピエトロだけは悪い方へ悪い方へと考えてしまう癖でもあるのだろうか、まだ森の中とはいえ黄色エルフの村からだいぶ離れてしまった今になっても、ここに居るとまた襲われやしないかとビクビクと怖がっているのだった。
俺は落ち着かせようとそっと震える小さな背中を撫でた。
「こんな時間になってしまったから闇夜の中を行くのは危ないと思って一旦止まったけど、朝早くにここから発てば問題は無いと思うよ。大丈夫――。それに俺もリリアやイブにしたことが許せないし……あの村で何かが起こったとしても、悪いがあそこの住民だけでどうにかしてもらおうと思うんだ。神様から頼まれた事とはいえ、ちょっと………ね。だからもう関わることも無いのだし、ご飯を食べて今日は少し休もう。」
「………うん。」
まだ怖いという思いに変わりはないが、俺の言葉に少し安心したのかピエトロはやっと自分の串肉に口を付けた。
自分の食事を再開しようと俺が視線を上げると、その様子を向かい側から見ていたらしいイブはホッとしたように微笑み、パクパクと串肉に嚙り付く自分よりも若いピエトロのことを我が子でも見る様にジッと見つめていた。
そうして大きいと思っていたドラゴンモドキの肉をあっという間に食べつくし、安全で温かな精霊の手の中で皆で体を引っ付けて眠りについた。
しかし―――真夜中の事だった。
遠くの方からキャーという叫び声と共に地響きが鳴り、地震のようにグラグラと揺れたのを感じて目が覚めた。
「地震!?」
俺が飛び起きた時には既にパウロとアダム以外の猫たちは起きていて、「えっ!? 何?」と驚きの声をあげながらリリアも続けて起きてきた。
起きている猫たちは皆、耳をピクピクと前後左右に動かして何事があったのかと叫び声が聞こえた方向を探っていた。
「どうやら―――あの黄色エルフの村があった方角からこの煩い音が聞こえてきているようですにゃ。」
「何だろう……。」
アンドレアが言ったことに何か嫌な感じを覚え、ここにまでは影響がありませんようにと祈りながら一先ずは精霊の手の窓を開けて外の様子を確認してみた。
「った……助け、て……くれ―――。」
その声の存在に俺はギョッとした。
暗闇の中なので詳しくは分からなかったが、明らかにその声を発している主は俺たちの乗っている精霊の手を目掛けてフラフラと走ってきているのだった。
俺は急いで精霊の手に魔力を通してスイッチを入れ、人工精霊を操って正面に付けられているライトを灯した。
突如として目の前に現れた眩しい光にその声の主はウッと呻き声を上げ、立ち止まってバタリと前に倒れ込んだ。
明かりの中で見えたその声の主はバサバサと長めの髪にボロボロの衣服を纏い、とても健康とは言えない肌の色をしていたがこんな場所にいるにも拘らず黄色エルフというわけでもなく、エルフですらなかった。
「えっ!?」
驚きの中で俺はリリアらに小さな声で「ここに居て」と告げ、精霊の手の外へと出てとりあえずその声の主の許へと駆け寄った。
「どうしたのですか?」
「み……み、ず―――。」
泥だらけになって命からがらといった風体で、荒れた呼吸の中でやっとといった感じで俺に手を伸ばして声の主は話しかけてきた。
俺はポケットの中をゴソゴソと漁り、水の魔晶石を取り出してそこから水を出した。
「どう―――。」
どうぞと俺が言い終わらぬ内にその声の主は流れ出る水にバッと手を伸ばし、手の平で受け止めてから口を寄せてゴクゴクとかなりの量を飲んだ。
余程喉が渇いていたんだなとは思ったがなんとも妙な様子の人物に、俺は精霊の手の方を見て手の平を向けて差しだし、それと同時に首を横に振った。
万が一にも何か危険があってはと、精霊の手の中からこちらの様子を窺っていた猫たちにこっちに来るなと身振り手振りで伝えたかったのだ。
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