3.浮ついた俺の気持ち
俺たちはカルラが教えてくれた魔物の肉や素材を買ってくれるという商人が居る専門店へ行こうと、港の方まで来た。
「えーっと……ここ、かな?」
「ルカ様。そちらではなく、こっちにゃのでは?」
「そうだっけ?」
教えられた通りに歩いているつもりだったが、曲がり角を右に行かなければならない所を俺が左に行きそうになった所をイブに止められた。
「もう~。これで何度目ですか……。しっかりしてくださいにゃ。」
「仕方ないよ~。お兄ちゃんはあの女の人の大きな胸ばかり見てて、ちゃんと話を聞いてなかったんだからね!」
アンドレアにはやれやれといった雰囲気で溜め息をつかれ、リリアにはつんけんとした態度をとられてしまった。
確かにカルラさんをつい見つめてしまっていて心ここに在らずといった感じでボーッとしてしまい、せっかく教えてくれた専門店までの道順も聞いたそばから右から左へと耳から抜け落ちちゃってはいたが、それは巨乳に見惚れていたからではない。
………いや、少しは巨乳の方に目を奪われていたかもしれないが………少しだけだ……たぶん。
初恋で、しかも告白することもできないままもう二度と会うこともできなくなってしまった佐藤に、あまりにも瓜二つの顔に思わず見入ってしまっていたからなだけだ。
「巨乳は確かに好きだけどさ…。そうじゃなくて……。」
「何か言った? お・に・い・ちゃ・ん!」
「い、いや……。アハハハハハハハッ……。」
俺はブツブツとうっかり余計なことを言ってしまいそうなのを笑って誤魔化した。
カルラに『知り合いに似ていたから』と言った時の俺の反応を見た後から、リリアはトゲトゲしい物言いしかせずに俺のことをチラチラと見てくるので、色々と気になることがあるのだろうと思う。
だがここで「知り合いっていうのは初恋の人のことなんだ。」とでも言えば、既に不機嫌になっているまだ11歳の少女であるリリアが更に落ち込んだり傷付いたりするのは火を見るよりも明らかであった。
しかしそうやってリリアのことを考えている一方で、別人ではあっても久しぶりに見た初恋の女の子の顔に俺は忘れかけていた恋心を思い出し、胸がドキドキと高鳴って佐藤のことばかりが頭に浮かんではボーッとしてしまい、顔が緩んで周りが見えなくなっていた。
「お兄ちゃん……!」
そんな俺の様子のあからさまな変わりように何も思わないはずもなく、リリアが次第にどうしようもなくイライラとした気持ちを募らせていっていることに俺は気付いていなかった。
「ここみたいですにゃん。」
そんなドロドロとした雰囲気を気にすることもなく、アダムはあっけらかんと話しかけてきた。
「そう…だね。」
俺は頭上に掲げられていた看板に書かれている文字を目で読んで確かめ、少々迷ってしまったがやっとたどり着いたことにホッとした。
「すみませ~ん。…ドナートさんは居ますか~?」
扉を開けて中に入っても、店の中も外も近代的で少し派手な街並みとは逆でまるでひっそりと隠れているかの様に地味な印象しかなく、お店らしいものは出入口に掲げられた小さな看板以外には何も無かった。
「はいよ~。こんな時間にどなたかね……。」
そう言って店の奥のドアからまだ老人というには若そうな見た目の、少しくすんだ空色の髪をした長身の男が出てきた。
「あの~。カルラ・ディ=ツァートンさんに紹介されて来た旅人のルカって言います。ちょっと買い取ってほしいものがありまして……。」
「ほぅ…。カルラ様から……。で、旅人のあんたが一体何を持って来たんだね?」
たくさんの猫を連れた俺のことを怪しげにジロジロと見て、俺の後ろに隠れていたリリアにチラリと目をやった。
「これなんですけど……。」
そう言いながら、俺は提げていた鞄の中からミャエナの毛皮と、化けガエルの腹の中で見つけた手の平サイズの透き通った浅葱色をした丸い球体の水晶の様な物を取り出してドナートさんの目の前にあるカウンターに並べた。
「毛皮が4つと……、こ、これは! カエルの蒼宝珠じゃないか!」
ドナートはギョッとして驚き、俺に「どこで手に入れたのか?」と詰め寄ってきた。
俺は何か嫌な予感がしてそのまま答えるのではなく、森の中で偶然拾ったのだと嘘を吐いた。
「森の中で落ちていただと…? 信じられん………。」
「これってそんなに珍しいものなんですか? 俺、初めて見たし、何となくキレイだなと思って拾っただけの物なので何も知らなくて……。」
「まぁ、かなり珍しいものだからな…。ただの旅人であるお前さんが知らないのも無理はなかろう……。これはな、魔物が集まる様な魔力のより濃い場所で主となった、特殊なカエルのみが体内に持つとされている四色ある真珠の内の一つじゃ。だが主にまでなるぐらいだから死ぬことはなかなか無いし、生きている内に体内から出てくることもないから大変貴重なんだよ。」
俺はそんなに貴重な物なら幾らの値が付くのだろうとワクワクした。
「へ~ぇ……。それで幾らになるんです?」
「そうさなぁ……。ミャエナの毛皮の方は簡単に値が付けれるんだが、カエルの蒼宝珠の方は……難しいなぁ………。」
ドナートが「う~ん。」と唸りながら腕を組んで悩みだしたので、ここでお金に換えることはできないのかと落胆した。
するとドナートは組んでいた腕を離してポンッと手を叩いた。
「お前さん、旅人だって言ってたよな? この街での予定ってあるのかい?」
「あぁ。国中を巡る為に、このオズリックにはこの国特有の乗り物ってやつを買いに来たんだ。」
「そうかっ……! なら、その乗り物を買うお金を手前どもが全額払うって形でどうだい? 正直言って高額すぎて、儂なんかがカエルの蒼宝珠の値段なんか到底付けられんよ。」
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