10.雨もなく…
「そんな…。まさか……。」
夜が更けて虫の鳴き声も無くなる程静まり返った頃、俺はトイレに行きたくなって目が覚めた。
雨が上がって晴れてきた空に、あの化けガエルの脅威ももう去ったと安心しきってぐっすりと眠っていたが、そんな中で目が覚めた俺は近くの草むらで用を済ませた後でテントに戻ろうと振り返った瞬間、背筋が凍った。
雨が降っている時以外は姿を見せないとアンドレアが言っていた化けガエルが今、目の前に居たのだ。
それも唐突に、足音もなく………。
テントを見ていた化けガエルは少し離れた場所にいた俺に気が付くと、ニヤッとこちらに気味悪く笑いかけた様であった。
「み、皆! 起きろ!!」
突然聞こえた俺の大声にリリアや猫たちは一応は目を覚ましたようで慌てふためく声がテントの中から聞こえた。
「フニャッ!?」
「にゃ、にゃんだ? にゃんだ?」
「どうしたの!?」
声はすれども中から出てくる様子はなく、ジリジリと化けガエルはテントに近づいて行っていた。
「早く! 化けガエルだ! 逃げろ!」
まさかそんな筈はないと「冗談はやめてにゃ~。」と気の抜けた声でパウロが返事をしながら外に居た俺の許に来ようと出てきた。
だがテントを出てから真っ直ぐ目線を前にやった瞬間、体中の黒毛が逆立ってボワッと尻尾も膨らんだ。
雨も上がったのだからここに存在するはずはないのに、化けガエルが気味悪く笑って自分に近づいて来ているのだから余程怖かったんだろう…。
「ほ、本当に化けガエルにゃ! 皆、出てくるにゃ!」
恐怖に戦いて声まで震えているパウロの様子にやっと異常事態を感じたのか、皆がバタバタとテントから出てきた。
そこを好機とばかりに、化けガエルは長い舌を伸ばしてイブをヒョイッと拾い上げると口に入れ、ゴクリと丸飲みした。
「「「イブ!」」」
皆で呼びかけたが化けガエルの牛蛙の様な低い鳴き声によってかき消されたのか返事は聞こえなかった。
この中で一番付き合いが古く、一番仲が良かったアダムは大切な相手が奪われたショックに頭がカッとなり、今にも化けガエルに飛び掛かろうとしていた。
「止すんだアダム! こいつとは真面にやり合って勝てる相手じゃない!」
俺が制止してもアダムの耳には届かず、止めるために咄嗟に抱き着いたアダムの体ごと、俺も化けガエルの腹の中へとあっという間に飲み込まれた。
化けガエルの腹の中は見た目の体の大きさよりもずっと広くて饐えた臭いが充満し、足元はグニグニと不安定に波打っていた。
化けガエルの腹の中に入って気を失って倒れているイブの姿を発見したアダムは漸く落ち着き、傍へと駆け寄るとペロペロとイブの顔を舐めて起こそうとしていた。
「月明り程の明るさではあるが、光る首飾りを付けていて良かったな…。」
ついこの間出会ったばかりのピエトロとアンドレア以外の全員に、何かあった時の為にとホレイショーの街で買ったライトになる石の付いた首飾りをつけさせていた。
イブの「うぅ~ん。」という呻きを聞いて生きているのだと少しばかり安心したその時、頭上からバシャリと大量の液体が落ちてきて頭から被った。
「これは……。化けガエルのやつ、俺たちを消化しようとしているな…。」
臭いからも胃酸が流れてきているのだと分かり、ここから早く脱出しなければと思った。
「だがどうやって出るのかが問題だ……。俺の剣で果たして出れるのか否か…。」
俺は剣を鞘から抜くとギュッと握り締め、胃壁へ思いっきり切りかかった。
だが何かに阻まれてしまって刃が刺さることもなく、後ろへ押し返されてしまった。
「何だこれは…?」
「ルカ様。森の主とも言える様なこんな大きくて強い魔物に、ただの剣では到底無理ですにゃ。魔法で攻撃するか、魔力の宿った武器でなければ……。」
魔法の使えない俺は愕然とした。
「じゃあ、一体どうすれば……。」
「私もイブも魔力が弱いので、そう大した魔法も使えにゃいので……。」
一刻の猶予もなかったが為す術もなく、このまま化けガエルに消化されて死んでしまうのかと上を見上げた。
「……! そうだっ! アダム。ここにある物を魔法で持ち上げてあの上にある喉の所のヒダにぶつけれる?」
腹の中からも見える位置に垂れ下がる喉ちんこの様な物を見つめているとハッと閃き、アダムにお願いしてみた。
「それぐらいならできるにゃ……?」
不思議そうな顔をしていたが、化けガエルの胃の中に転がっている色々な物を2人で喉にぶつけた。
すると俺の思惑通りに化けガエルはムズムズと動き出し、アダムとイブを抱きかかえていた俺をウェッと外へと吐き出した。
「お兄ちゃん!」
「アダム! イブ!」
化けガエルの消化液塗れになってはいたが、生きている俺たちが外に出てきたのを見て皆が歓喜の声を上げた。
しかし、ホッとしたのと共にベトベトでボロボロになった俺たちの姿を見たパウロが怒り出した。
「もう、お兄ちゃんもアダムもイブも中に居ないんだから遠慮なく攻撃できるにゃ…。フッフッフッフッフッ……!」
そう言うとピエトロとアンドレアを従えて、俺たちを吐き出した事で消化液塗れになっていた口周りを両手で拭っていた化けガエルに、パウロたちは魔法で作った水の刃を幾つも放った。
体への攻撃はそんなに効いてはいなかったが、煩い蠅を叩き落すという風な感じで再び伸ばしてきた化けガエルの舌に水の刃が当たり、スパンと見事に切れた。
化けガエルの舌の切り口からはボタボタと血が流れ、体内に溜め込んでいた魔力が少しずつ霧散していった。
その内に化けガエルは半分程の大きさにまで徐々に縮んでいき、失血死してしまった。
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