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6.笑顔

「流石、猫たちは身軽だなぁ……。」


 俺たちは昨夜野営した河原を立ち、新たにあの猫を加えて港湾都市オズリックへの旅路をまた歩きだしていた。

 昨日出会った時には時間的なこともあって森の中は薄暗く、また空腹で倒れているという緊急事態だったのでどんな姿をしているかなんて意識して見てもいなかったので分からなかったが、朝になってあの猫を陽の光の下で改めて見ると体中が薄汚れていて何色の毛並みをした猫なのかも判別できなかった。

 どうやら何度も狩りに挑戦してその度に何度も失敗した結果、落ちている木の実なんかを踏みつぶしてしまったりとか滑って転んでしまったりを繰り返し、木の実の汁や土埃で泥だらけになったということらしかった……。


 これは流石にと思い、河原にある石で囲いを作って河の水を引き込んだ後に火属性の赤い魔晶石を取り出してそれをお湯にし、簡易的な風呂を作って洗ってやるにした。

 この世界の猫も水は苦手らしく最初こそ風呂に入るのを嫌がってはいたが、それを見たイブの説得によって大人しく俺に洗われてくれたのでホッとした。

 何かと助けてくれて頼りになるイブはリリアに寄り添う様子からしてもいつの間にか皆のお母さん的な役割を担っており、あの猫を説得しているのを傍で見ていても迫力があるその様子から少し怖い印象を受けたので、この中で一番怒らせてはいけないのはイブだなとこの時実感した。


 風呂に入ってすっかりと汚れの落ちたあの猫は綺麗なキジトラ模様をしており、よーく見ないと分からない程ではあったがキラキラと光る目と同じく、毛並みも少し濃い色のセルリアンブルーをしていた。

 地球の感覚で見れば珍しい青色の毛並みも、この世界で水の精霊王の祝福を受けたそれなりに魔力の強い者にとっては当たり前で、同じネコ種であるアダムとイブは魔力が毛並みの色にまで反英されたその猫を羨ましがっていた。

 そんなこんなで寝起きからバタバタとしていて気付くのが遅れたが、昨日うっかり服や靴に着けてしまったインブリューの実の汁の匂いに誘われたらしく、あの猫とそっくりなキジトラ猫がテントの傍に寝ていたのには驚いた。


 聞けばこの2匹の猫は同じ日に巣立った兄弟猫で、今朝に見つけた方は昨日空腹で倒れていた方の猫と違って狩りも上手く、巣立つ前と何ら変わることなく順調な生活を送っていたらしいのだ。

 だが兄弟の中で一番不器用なこの猫の事が気になり、森の中を右へ左へと探し回っている途中で俺に付いた匂いに引き寄せられ、いつの間にかいい気持になって寝てしまっていたという。

 イブに通訳してもらいながらではあったが話をしていると、この兄弟猫の事が放っておけないから自分も一緒に旅に連れて行けと言い出した。

 俺もまぁいいかと思い承諾すると、兄弟同士で抱き付いて燥いで喜んでいた。


 そして名を持たなかったこの兄弟猫に、先に見つけた毛色の濃い方を“ピエトロ”、今朝見つけた毛色の薄い方を“アンドレア”と名付けた。

 俺がこの兄弟猫に名付けをすると、アダムとイブの時と同じ様に指輪からまた本が出現し、出会いの記録が一編の物語となって刻まれた。


「ピエトロ、すっかりと元気になったなぁ。昨日空腹でぐったりしていたのが嘘みたいだ。」


 道らしい道も無い中、山を越える為に川沿いにえっちらおっちらと坂を登っている俺とリリアの前を、倒れている木々などの障害物も気にせずに猫たちは話をする余裕がある程軽々と歩いていた。


「心配していた通りになっているなんてにゃ…。でもおいらが間に合わなかったらどうしようかとドキドキしてたからルカ様に助けてもらえてて良かったにゃん。ピエトロは優しくて、兄弟の中で一番仲が良かったから生きててほしかったし……。巣立てば別々に生きていかなければならないとはいえどうしても気になっていたんだよにゃ~。」


「アンドレア~。」


 俺が名付けをした後に起きてきたパウロと『血の契約』を結んだので俺やリリアとも話ができる様になったのでイブかアダムに通訳をしてもらわなければならないという不便さももうなくなった。

 初めは俺が『血の契約』を結ぼうとしたが、それではダメだとアダムに言われた。

 前世からの強い絆と共に魂が繋がっている俺との間にもたらされた純粋なる願いの力による能力の恩恵は、パウロの眷属になる事によって初めて得られるものなので俺では意味がないらしく、俺と『血の契約』を結んでも俺やリリアと同じ言葉で話をするという事はできないらしいのだ。

 だから俺やリリアと同じ言葉で話をする為にはパウロの眷属になること、その為にはパウロと『血の契約』を結ぶことが絶対条件ということだ。


「お兄ちゃん。あの子たちに置いて行かれちゃうよ~。」


 地球での事も含めて山道なんて歩き慣れてはいなく、フラットではない障害物だらけの道なき道の上り坂に、今日はまだそんなに長距離を歩いてはいなかったが、旅の荷物の大半を背負っている俺はだいぶ足腰に来ていた。


「ちょ、ちょっと、待って…。少し、休もう……。」


 既に息を切らしていた俺はハイペースな猫たちを呼び止め、少しばかし休憩する事にした。

 ちょうど座るのに手頃な岩があったのでそこに腰を下ろし、水属性の青い魔晶石を取り出して頭から水を被り、ゴクゴクと水を飲んだ。


「プハーッ! 生き返る~。」


 数日前とは逆で、俺がゼェゼェと息を切らして疲れている中で、リリアはケロっとしていた。


「ハハッ! リリアがこんなにも平気だとは思わなかったよ。」


「山道なら苦じゃないよ。今日はまだそんなに長くは歩いてないしね。村に居た頃はしょっちゅうボポラ山に登って木の実を採ったりしてたから慣れてるんだ~。」


 リリアは村に居た楽しい頃を思い出したかの様に笑っていた。

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