10.闇の祝福
「神様。教えられた街へ行き、そこで得た情報によって魔物を倒し、仲間も増えて、このオフィーリア国まで来ることができました。ですが少し気になることがあって…、お聞きしたいことがあります。」
「はい。なんでしょう?」
「…ゥアッ!?」
突然耳元で聞こえてきた声に俺は驚き、ビクンッと後ろに仰け反ってしまった。
「……えぇっ?」
目を開けた俺の前には軽四自動車ぐらいの大きさをした黄色い鳩が居り、周りは以前と同じく温かな光に包まれていて、外とは時間が切り離された亜空間の中だった。
「おはよう、ルカ。」
その鳩は俺と目を合わせると、ニッコリと微笑んだ。
「もしかして……神様? この国ではその姿なのか?」
「えぇ。君の反応はいつ見ても面白いですね。」
「聞いてはいたけどさ…。前とは見た目が違うし、突然耳元に話しかけるからちょっと驚いてしまっただけだよ。でも大きくて黄色い鳩って……、昨晩聞いた精霊の話に出てきたやつみたいだ。」
神様がフフッと楽しそうに笑っているので俺はなんだか少し恥ずかしくなってしまい、慌てて神様に聞こうと思っていた事を話し始めた。
「…あっ! あのさ! ……ヒュドラの事で聞きたい事があったんだよ。神様に言われた街へ行って情報収集をしたら、近くにある神聖な山って言われている所にヒュドラが突然住み着き始めて変だって聞いて…。それで俺、調査に行ったら傍にある村の人を生贄に出せとか言ってるって聞いてさ、仕方なく倒したんだ。」
地球で“魚類・爬虫類・哺乳類”といった様に生物が分類されているのと同じ様に、この世界『聖なる庭園』では“火・水・大地・風……そして光と闇”の6種類の属性ですべての生き物は分類されているらしい。
そして魔法の存在する『聖なる庭園』では、量の多少の違いはあれども全ての生きとし生けるものが魔力を持ち、その6種類の属性バランスによって世界は安寧を留めている。
しかし何れかの属性の生き物がもし増えすぎたり減り過ぎたりすれば世界はバランスを崩し、大きな災いが起こってしまうとされているのが常識であるのだ。
それ故に増えすぎた魔物を狩る職業である狩人や、酪農を行っている農村などが祭りの為だったり街へ肉を出荷する為に生き物を絞める時にはまず始めに神様の御声を賜る為にお祈りをし、天啓によって決められた日に決められた数だけしか殺してはならないという絶対的な世界のルールが存在する。
だから魔物と言えども殺すとなるとその都度必ず神様にお伺いを立てなければならず、それがある一定のレベル以上の生き物だと1個体殺しただけでも世界のバランスに影響してしまうらしいので迂闊なことはできない。
「そうですか……、村人を襲おうとしていたのなら仕方がないですね。ヒュドラは水属性…。ちょうどそろそろ水属性の生き物を減らす時期ではあったので然程世界バランスには影響は出ないでしょうから問題はないです。しかし聖なる山にですか……。あそこは特殊な場所で、神聖なる力が強すぎて弱き者しか近寄ることすらできなかったはずですが……。やはり何者かに聖書が破壊された影響によるものでしょうか……。」
神様が考え事をしだしたのでそれを遮る様に俺は語気を強めて話を続けた。
「それでさ、神様! そのヒュドラを倒した後に体の中から黒い影の様な物が出て来て俺を襲って来たんだ。『“ヤツ”が何かしておるとは思っていたが』とも言われたんだけど……あれは、何?」
俺が『影』と口にした瞬間、神様の体はビクッとなって強張り、タラリと冷や汗を掻いて顔色が悪くなった。
「…あれは……、あれ、は…………。」
「ん? どうしたんだ?」
神様は何かに怯え、その恐怖からワナワナと小刻みに震えている口からは先に続くべき言葉がなかなか出ない様であった。
「あれは……、邪神です。この世界において闇を司るもの……。ヒュドラの体から影が飛び出してきたという事は、邪神の祝福を受けていたという事なのでしょう。恐らくはそのせいで神聖なる山に住み着く様になり、人を欲していたのだと……。」
「祝福?」
「えぇ……。生き物たちには皆等しく、この世に生まれ出づる時に私の子供たちである四大属性の精霊王の内、何れかの属性の祝福を授けるのです。そして四大属性とは違って光属性は特別なもので、聖人の子孫たちの中で王位を継ぐ者や神聖なる生き物といった一部の生き物に限り私から祝福を授けているのですが……、闇属性の誕生は更にそれらとは全く異なり、すでに別の属性の祝福を受けて生まれ育っている個体の中から邪神が気に入った者が眷属として祝福を受けることで存在する様になるのです。また闇属性の祝福を受けると身体の構造も変わり、人間を好んで食べる様になります。しかも闇属性に限っては屍の状態でも祝福を受ける事ができ、それはアンデッドとなって純粋なる闇属性の力によって凶悪化してしまうので危険です。けれどもそんな者たちもまた、この世界のバランスの為の大切な一部なのです。」
そこまで言うと神様は目を閉じて俯いた。
俺の質問にはある程度答えてはくれたが、神様はまだまだ俺に大事な事を隠している様子だった。
「邪神か……。聖書の破壊による世界の異変はその邪神のせいなのか?」
「いえ……、それはまだ………分かりません。ですが今回の事で邪神は君の存在を邪魔だと思ってまた殺しに来るでしょう…。充分にご注意ください。」
神様がチラリと横を見ると、そこにはリリアやパウロたちの姿があった。
「君にも大切な人ができたのですね。大切な人たちの為にも注意を怠ってはなりませんよ。」
「あぁ……。そうだ! パウロが地球で俺と暮らしていたって言ってたんだけど…。」
「君の思っている通り、地球で共に育ったあのクロです。彼は死後、君が寿命を終えるのを虹の橋で待っていたのですが、私が君をこちらへ呼んだ時にその近くを通ったのでうっかりと付いてきちゃったんですよ。君とは違って赤ん坊からのスタートなので記憶は無いはずなのですが、君への思いの深さから少し残ってしまっている様ですね。そこまで思われているなんて君は幸せ者です。」
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