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7.朝のひと騒動

「ルカさ~ん! 朝だよ~! 僕はもう仕事に行くからね~。」


 寝室のドアをノックする音と、アージェの俺を起こす為の大きな声によって目が覚めた。


「…ん。……ふわぁぁぁ~あ………。ありがとう、アージェ。行ってらっしゃい。」


「行ってきま~す。」


 アージェはドアを開けずに俺が起きたのを確認すると、ドタドタと仕事に出かけていった。


「朝から元気だな~。見た目はリリアと変わらない感じなのには幾つなんだろうな……。俺が知っているエルフと同じでオフィーリア国の住人であるエルフらも長寿だって言ってたし、働いているぐらいだからハーフエルフといえども実はけっこう年齢(とし)いってんだろうな~。しっかりしてるし、俺よりも割と年上な気もするな~……。」


 まだ頭が半分寝た状態で、天井を見つめたままボヤーっとそんな事を考えていると、リリアやパウロたちも起き出した。


「んん~……。もう朝~?」


「ふわぁぁぁ~あ……。まだ眠いにゃ~………。」


 俺の左側に居たはずのパウロは、まだ起きたくないと言って更に強く俺の腕にギューッとしがみ付いてきた。


「……っ!!」


 その時だった。

 左腕にプニプニとした柔らかいものの、そこに存在し得ないはずの()()の感触があった。

 それに俺は驚き過ぎて一気に眠気が吹き飛び、そこに居るはずのパウロの姿を確かめようとバッと勢いよく左を向いた。


「………えっ? ええぇぇぇぇぇー!?」


 俺の目に映ったのはあのコウモリの翼を生やした可愛らしい黒猫の姿ではなく、黒猫の耳を頭に付けて小さなコウモリの翼を背中でピコピコと動かし、黒髪をショートカットにした裸の少女の姿だった。

 自分とそんなに年齢(とし)の変わらない少女の姿の裸を初めて見た俺は顔全体が一気に紅潮してしまい、サッと逆方向に目を逸らした。

 突然の出来事に俺の心臓はバクンバクンと速くなり、混乱してしまっていた。


「だ、だ、だ、誰だっ? パ、パウロは……?」


 俺のおかしな様子にまだ寝ぼけ(まなこ)を擦ってうつらうつらしていたリリアが起き上がって俺の体を揺すった。


「お兄ちゃん。どうしたの~ぉ?」


「お、俺の横に…、知らない女の子が……!」


「えぇぇー! そんな事があるわけ……。」


 俺の言葉を受け、リリアも俺の身体を挟んでベッドの自分とは逆側の方を見た。

 見た瞬間驚いたリリアが見たのもやはり俺と同じ、裸で横たわって寝ている少女の姿だった。


「ちょ、ちょっと! あなた誰よっ!?」


 リリアの驚いている様子に俺の見間違いではなかったのだと分かり、その裸で寝ている少女を起こそうと俺の体越しに手を伸ばして体を強く揺すっていた。


「うにゃ~……。もうちょっと寝かせてにゃ~。」


 そう言ってなかなか起きなかったが数度繰り返すとやっと目を覚ましてむくりと起き上がった様だった。


「ふわぁぁぁ~あ……。なんにゃ、いったい………。」


 裸姿という事があって男の俺は直視ができず、ベッドから起き上がった俺はその少女が居るのとは逆側の壁をずっと見続けていた。


「あなたは誰?」


「誰って……。リリア、何を言っているにゃ~? ワタチはパウロだにゃ~。お兄ちゃんもリリアも……、いったいどうしたのにゃ~?」


「えっ!?」


 俺は仰天したあまりに思わず振り向いてしまい、リリアと一緒になって口をパクパクとさせてしまっていた。


「お兄ちゃんは見ちゃダメ! エッチ!」


 リリアは俺が振り向いてしまったのに気が付くと、俺の頭を両手でつかんでグイっと後ろの壁側を向かせられた。


「パウロって……、お前のその姿はどこからどう見ても人間みたいなんだが……。」


 何かにハッと気付いたパウロはベッドから降りて立ち上がり、俺が横目でチラリと見ていると、クルクルとその場で回って自分の姿を確かめる様に見ていた。


「人間にゃ…。尻尾とお耳と翼はそのままだけどワタチ、人間の姿になれたにゃ~!」


 パウロは人間の姿に変わった自分の姿に歓喜して叫んでいた。


「ワタチ、ワタチ…。人間の姿になりたいって(ルテナ)に向かってお祈りしたの。お祈りしたら……本当に願いが叶ったにゃ~!」


「ま、待った……。えーっと………。一旦落ち着こうか……。」


 嬉しすぎて興奮しているパウロと、話を聞いても未だに混乱したままの俺とリリアは一旦落ち着いてから話をしようという事になり、裸のままだと俺が顔を見る事も出来ないので、私はパウロだと言っている少女に一先ず予備の服は持っていなかったので俺のローブをリリアに着せてもらって場を仕切り直した。


「もういいよ。お兄ちゃん。」


 リリアに呼ばれて振り返ったが、首から下はローブで隠したとはいっても、裸の上に布を一枚羽織っているだけという姿はまだ16歳の俺には刺激が強すぎて鼻血が出そうになり、皆にそれを気付かせまいと深呼吸を二、三度して気持ちを静めようとした。


「えーっと…君はパウロ、なんだね?」


「そうだにゃ! さっきから言ってるじゃないさ、お兄ちゃん!」


 ベッドに腰掛ける俺の顔にズイッと自分の顔を近付け、少女は嬉しそうにニッと笑ってみせた。


「数日前に国境を通る時にもこの街に来てからもワタチは隠れさせられていたじゃにゃい? しかも街に居る時は喋るなとか、この国は危ないからこういう事がもっと増えていくみたいな話をしてて寂しくなったのにゃ………。」


 少女はしょんぼりとして項垂れた。


「だから……。だから、もしかしたら(ルテナ)にお願いしたらワタチの姿を人間に変えてくれるんじゃないかなって思って……。ママに昔ね、ワタチたちコウモリ猫は皆、(ルテナ)様の加護を受けて存在しているのよって聞いていたのを昨日の話で思い出してにゃ……。叶うかどうかも分からなかったから、夜中にそっと起きて、内緒でお祈りをしてみたのにゃ。そしたら……ウフフフフフフフフッ!」


 まるでゲームの世界の様に魔物があちらこちらに存在し、当たり前の様に魔法も存在するこの世界で起こった不思議な出来事に、話を聞いた俺は納得せざるを得なかった……。

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