1.検問所
「ダ・ン・ナ・さ・ま。ふふふふっ!」
俺たちはボポラ山を越え、オフィーリア国との国境を過ぎた後に一路、国境に一番近い街であるホレイショーへと向かっていた。
この世界に呼ばれてから1年、俺と同じ日本人を祖とするサクラヴェール国の王城にてこの世界の事について大まかに学び、あの王城のある街を旅立ってから2週間が経っていた。
「もう…、よしてくれよ……。」
半ば無理矢理ではあったが無事に母親を説得して許可を貰う事ができ、俺の旅に同行する事となったリリアはオフィーリア国に入るにあたっての検問所であったことにとても浮かれていた。
国境を過ぎてすぐの所にある検問所では数人のエルフの衛兵が自国と隣国サクラヴェール国とを結ぶ道を行き交う人らの検査を行っていた。
前にサントルの街に入る時に門の所で見た、あの手帳程の大きさをした透明なガラスの様な板を持つ衛兵が国境を通過する人らを待ち構え、俺たちにも“聖なる天空”と呼ばれている首から下げた石をを繋げろとまず始めに言われた。
俺とリリアがそれぞれ順番に別々の板に首から下げている石をくっ付けると魔力によって2つが回線の様なもので繋がれ、前に見た時の様に板が光って文字が浮かび上がってきた。
前に見た時は遠目だったので何が書かれているのか内容の詳細までは分からなかったが、改めて内容の確認ができる程近くで見ると、個人情報が結構細かく書かれていた。
「ルカ・トーミ…。16歳…。フム、成人したてか……。生まれは………。」
衛兵が内容を読み上げているのを聞きながら俺は首を伸ばしてガラスの様な板の文字が出ている衛兵側の方を覗き見すると、生まれた地域が本来書き込まれているであろう場所が文字化けした様に意味のない記号の羅列になっていた。
「なんだこりゃ? ……お前さん…一度死んだことでもあるのか? 出生地がグチャグチャになってて出てこないんだが……。それにリリアという名の妻ありってなってるが……もしかして横に居るちっこいのが、その『リリア』だっていうのかい?」
「アッ…ハハハハハハハハ……。つ、妻のリリアです…。」
衛兵が冗談交じりに質問してきたことに俺は右手で頭を掻き、顔を真っ赤にして照れながらそれだけ言うのが精いっぱいで、リリアが俺の左腕に抱き付いていてこんな動けない状況でもなければ恥ずかしさで逃げ出していたと思う。
俺のその様子にリリアは満足げにニンマリとし、『妻』と言われたことにとても嬉しそうに上機嫌で「フフフフッ。」と笑っていた。
「マジかよ……。…にしたってお前さんはまだ成人したての16歳だろ? 結婚するにゃ早過ぎやしねーかい? そっちのちっこいのの年齢だって………えっ? ………えぇぇぇぇぇぇぇー!?」
横にある台の上に置いていた、リリアの身元確認をしていたもう一枚のガラスの様な板を見て年齢を確認すると、衛兵は驚いて俺を見る目がヤバい奴でも見るかの様な目になり、若干引いていた。
「お前さん……妻っていってるこのリリアってお嬢ちゃんは成人年齢に達していないじゃないか………。いくら幼い子供が好きでも犯罪を犯しちゃいけねーよ?」
衛兵は俺の肩に手を置くと、「ふー、やれやれ。」といった雰囲気で呆れた顔をして首を横に振っていた。
「ちっがーう! 違いますー!」
必死で否定はしたが怪しまれ、危うく旅の序盤の方なのにあらぬ疑いをかけられ、犯罪者にされて捕まってしまうのかとヒヤヒヤした。
その後リリアによって俺が神より使わされた救世主だと説明され、自らが誘拐された所を俺が助けた事により眷属になったのだと、掻い摘んで話すこととなった。
でも「まさかっ!」となかなか信じてはもらえず、最後は伝家の宝刀とばかりに左手中指に嵌められた黒い石の付いた指輪を見せることになり、それによってなんとか誤解は解けて検問所をようやく通してくれることとなって今に至る。
「ハ~ァ……。この先リリアを妻だと言わなきゃならない事がある度に、こうやって俺はまた怪しまれてしまうのかな………。」
「お兄ちゃん。長寿で有名なオフィーリア国に来たから私たちサクラヴェール国の人間はちょっと目立っちゃうだろうから確かにまた変な目で見られることになるかもしれないけど…、今だけだから! すぐに大きくなるから! 5年なんてすぐだよ。そうしたら成人だから…、ネッ!?」
後の事を心配して溜め息を吐いていても、俺に『妻』と紹介されたことに浮かれていたリリアは俺が犯罪者扱いされかけたことなんか問題にもせずに明るく励ましてくれた。
成り行きとはいえ、もう村には居たくないと怖がっていたリリアを助ける為にと、渋っていた母親を無理矢理納得させるためにキレたリリアが言い出した『俺と結婚する』という話に乗っかってしまったことに少しだけ後悔をしていた。
この世界であっても成人してもいない、まだ10歳程の少女に対して俺はそんな意識も持てず、勿論16歳で地球での感覚がまだ残る俺はまだ大人と言う意識も薄かったので、『妻』という言葉を使ってはみたが結婚したという意識も俺にはまだなかった。
結婚したと言っても、流石にまだまだリリアとじゃイロイロナコトもできないしな~と、健康な男子である俺はボヤーと虚ろにそんなことぐらいしか考えていなかった。
「ニャッ? お兄ちゃん! ワタチが居ることを忘れていない?」
「ん…? あぁ、忘れちゃいないよ…。パウロ。」
ずっと俺の懐に潜り込んでいたパウロが長らく構っていなかったことを怒って這い出てきた。
黒いコウモリ猫は少し珍しいらしく、それが人に連れられて国を移動したとなると下手したら国際問題になりかねないからと、パウロには検問所を通る時だけ俺の懐の中に隠れてもらっていた。
「検問所だけって言ってたのにニャ、ちょっと長くなかった?」
「ぅん、まぁ……ちょっとしたトラブルがね………。」
そのやり取りを俺の足元の方から見ていたアダムとイブがパウロをたしなめてくれた。
「パウロ様。我らは新しい種族、ケットシーとなりましたが見た目はまだ依然と変わりませんにゃ。が、まだ暫くは拠点も無く、3人と数の少ない内は余計な事を知られぬ様にと誤魔化す為もあって隠れられたのですから…。私もアダムと2人でただの猫のフリをしてて疲れましたし、ご機嫌直してくださいにゃ。」
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