5.俺を狙う者
「……!!!」
ヒュドラから這い出た影の様なモノが俺を襲おうと接近する直前で、それの放つ禍々しい殺気によって気付き、とっさの判断でリリアを抱えて横へと飛び跳ねた。
俺が飛び跳ねるのと交差する様に、近くの岩陰に隠れさせていたはずのパウロが俺の危機を感じ取ってその影の様なモノにガブリと思いっきり噛み付いた。
だが影の様なモノはパウロが噛み付いたことなぞたいして気にせず、埃を払うかの様にブンッとパウロを投げて振り払った。
「チッ! 避けたか……。これは邪魔だ。」
「パウロ!」
その影の様なモノの中から聞こえたのは、およそ生き物が発している声とは程遠く、生物味の感じられぬおどろおどろしい『声』であった。
「お前は……。“ヤツ”が何かしておるとは思っていたが………。フンッ! こんな小僧を他所の世界から呼び寄せた所でどうなる……? 私をこんなので止められるとでも思うたかっ!」
俺はリリアを背に置き、その怪しい影の様なモノに向けて剣を構えて最大限の警戒をしていたが、影が少し動いただけで殺されているんじゃないかと思えるほどの殺気が一言一言に含まれており、振り投げられたパウロの事も心配ではあったが言葉を聞いているだけで次第に体が動けなくなっていた。
影の様なモノは明らかに俺を殺そうとしていて、『こんなもの』と俺を罵ってきた。
殺気を帯びた『声』によって恐怖で支配され、身動きが取れなくなっていた俺はようやく言葉を発することが少しできた。
「お、前は…誰、なんだ……?」
「生意気にも私の殺気に中てられても喋れるというのか…。良かろう……、その勇気を褒めて、我が手によるお前の殺害をもって答えとしてやろう。」
そう言うと、影の様なモノに顔はないがニタリと俺に笑いかけた様に感じ、ブルッと身震いがした。
影の様なモノは空中をゆっくりと歩く様に近付いてきて動くこともできない俺の頭に触れようとした。
その瞬間、左手に嵌めていた指輪から閃光が走り、俺の周囲が瞬く間に眩しすぎる光で覆われた。
「ゥギャアァァァァァァァァァ!!!」
影の様なモノはその閃光によって殆どが溶けるように消えていった。
それと同時にその一瞬の光の中で俺に見えたのは、閃光によって消滅をすることが無かったもう一つの未来……、影の様なモノが手の形となって俺の頭を体から果物の様にもぎ取る瞬間の映像だった……。
「覚えて、いろ………。」
その一言だけを残し、最後に残っていた微かな影もその場から消えた。
影の様なモノが消えたと同時に辺りに充満していた重くて邪悪な空気も消え去り、一度静まり返った後で鳥の鳴き声も遠くから徐々に聞こえてきた。
「助かった…のか……?」
俺はその場にガクンとへたり込み、両手を地面に着いた。
あれは一体なんだったのだろうかと考えたがそこでハッとして後ろを振り返った。
「リリア! リリア、大丈夫か?」
腰が抜けた俺は這って近寄り、リリアの両手両足が縛られた縄を解いて無事か確認した。
「リリア!」
「う、ぅんん~………。」
頬を軽く何度か叩くと反応があり、リリアが目を覚ました。
「ここは……? そうだ! 私、母さんの手伝いで薪割りをしていたら村のおじさん達がたくさんやってきたと思ったら気を失って…………キャーーーァ!!」
何があったか思い出そうと俯いていたリリアが周囲を見渡すと無残な姿となったヒュドラが転がっており、叫び声をあげて俺に抱き付いてきた。
抱き付いてきたリリアをそっと抱きしめ、落ち着かせようとした頭をゆっくりと撫でた。
「大丈夫。大丈夫だよ、リリア。俺が倒したからもう何も心配しなくてもいいんだ。」
「お、お兄ちゃ~~ん………。」
リリアはホッとしたのか、俺の胸の中で堰を切った様に思いっきり泣きだした。
「パウロ! パウロは大丈夫か?」
「ニァァァ~~ン……。」
パウロも無事かどうか確かめ様と呼ぶと、パウロとは違う猫の鳴き声がした。
鳴き声がした方を見ると、茶トラと白の大人の猫2匹が投げられてできたパウロの傷を舐めてやり、痛みでか細くなったパウロの声を代弁する様に変わりに返事をしている様子だった。
少し落ち着いてきたリリアから腕を離すと、俺はズリズリと次はパウロの所へと這って行った。
「ありがとう。俺たちが何もできない間、傷を負ったパウロを見ていてくれたんだね。」
俺は2匹の猫にお礼を言って撫でると、嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「猫さん? ヒュドラが居たのによく生き残ってたね。」
俺の後ろからリリアがひょっこりと顔を出してきた。
「この猫の事、知っているのかい?」
「ううん。私は知らないけど……、ほら、そこの…“マルスの樹”の奥にある小さな湖はこの辺に住む動物達がよく水を飲みにやってくるから…。そのままこの場所に居着いちゃう子もいるんだ~。だからその猫さんもここに住んでたんじゃないかなって……。でもヒュドラが来てしまって大体逃げ出している子ばっかりなのに……凄いね。」
「あぁ………。」
リリアも俺と一緒になって猫の頭を撫でていた。
するとその様子に気付いたのかパウロがむくりと起きて頭を上げ、俺の手にカプリと噛み付いてきた。
「痛っ! ごめんよパウロ……。お前も偉かったねぇ…。」
パウロは噛み付いた口を手から離し、俺の手を舐めてから手にスリスリしてきた。
どうやら俺が他の猫を撫でていたことに嫉妬してのことであったみたいだ。
「嫉妬で噛み付く元気があるんなら大丈夫だな、パウロ。」
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