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4.作戦決行!

「よしっ! これでなんとか……。」


 リリアが攫われてからまだそんなに時間は絶っていないし、ヒュドラの許へ生贄を持って行ってもすぐには食べないらしい。

 それ故に、連れられて行ったリリアを助ける為の作戦の準備をする時間が、急げば間に合うぐらいの短い時間ではあったが残されていたのが救いであった。


「ルカさん、こんなに大量に酒を用意してどうするんで? しかも何やら薬草を入れていた様ですが…。」


 俺はヒュドラの居るボポラ山の中腹の“マルスの樹”の所まで、お酒がいっぱいに詰められた樽をヒュドラの首の数と同じ9個積んだ荷車を、俺に任せると言ってくれた村の若い男2人と共に押していた。

 本当は村にあった荷獣車で運ぼうと思っていたが、グイドが使っていた荷獣車のオプスウルフ達を残して殆どが生贄へとヒュドラに捧げられていた。

 その遺されたオプスウルフ達も『災害指定生物Aランク』という恐ろしい魔物が出している気配に、山の方へは一歩も動こうとはせず、足を踏ん張って抵抗していたので無理だった。


「これを使ってヒュドラを倒すんだ。まぁ、任せてよ!」


 ヒュドラのの居る“マルスの樹”に後1kmの所まで来た時に、生贄強硬派の村人数人が帰るところにすれ違った。


「あっ! お前……。」


 この山の道は1本しか通っておらず、中腹に休憩所の様にしてある“マルスの樹”の所もその道の途中だった。

 なのでその内すれ違うかもしれないなと思っていたが、生贄強硬派の村人らはこちらが文句を言う間もなく「これで良かったんだよ!」と言い残してササッと居なくなってしまった。

 重い酒樽を積んだ荷車を男3人で押して坂道を上がっていたのでそこから手を離すこともできず、3人とも反撃も何もできなかった。


「なんなんだよ、あいつら……。」


 一緒に荷車を押していた男2人は、今はただ悔しさを口から漏らすことしかできなかった。

 中腹の“マルスの樹”がある開けた場所まで着くと、下り道を隠す様にある大きな岩に隠れてヒュドラの様子を窺い、リリアの居る場所を確かめると、ヒュドラに聞こえない様に小さな声で村人に作戦を伝えた。


「いいか? 俺がヒュドラの前に出たら酒を勧めてなんとかリリアを食べ様とする前に飲ませる方向に持っていくから、貴方たち2人はその9個の酒樽を、それぞれ間を空けて並べてくれ。それで全部の蓋を開けたら危ないから後は俺に全部任せて貴方たちは急いで走って村まで逃げてくれ。その間に俺がヒュドラを倒してリリアを助ける!」


 俺の話を聞くと村人の男2人はコクリと頷き、3人でアイコンタクトを交わした。



「ヒュドラ様。」


「何だ人間。また来たのか…? 生贄はもう届いておるぞ。」


 ヒュドラが俺の方を見た瞬間、その迫力にピリッとそこら中の空気に電気が走った様だった。


「そ、そうなのですが…。今日はいつもと違い、特別な生贄なので御賞味いただく前に食前酒はどうかと思いましてお持ちしました。ちょうどお酒も大量に手に入りましたので…、ヒュドラ様がご満足いただける様にその頭と同じ9個の樽をご用意してございます。」


「ほう、人間…。なかなか気が利くではないか。たまに酒を差し出す人間が居ても全部の口では飲めぬから不満だったのよ。」


 そう言ってヒュドラが少し機嫌が良くなった間に、村人の男2人は全ての酒樽を設置し、蓋を開けた。


「ほう…、この匂いは……。ミキだな。あれは美味い。余の好きな酒だ。」


 前に勉強した時に知っていた情報通り、ヒュドラは酒好きというのが当たっていた様で、偶然ではあったが好きな種類の酒だったらしく機嫌は更に良くなった。

 ヒュドラは機嫌良く「美味い! 美味い!」と全ての頭にある口で合唱する様に言いながら、それぞれの樽に首を突っ込んでガブガブと飲み干した。

 気分良く酔ったヒュドラは早速生贄を食べようと、樽の中から頭を上げようとした。

 ところがヒュドラの頭にちょうどガッチリと嵌り、酒樽が頭から抜けなくなり、目隠しをしたようになってしまった。


「こ、これはどういうことだ!? 酒樽から…頭が抜けぬぞ? …? ……?」


 どうにかしようと、ヒュドラは9個の首全てをブンブンと振りまわしていると、程良かった酔いが一気に回り、目を回して倒れこんでしまった。

 俺はその機会を逃すまいと、事前に計画していた通りにヒュドラが気絶している間に首をはねようとした。

 だがここぞという時になって、俺は『殺す』という初めての行為に恐怖が先立ち、ガタガタと震えて嫌な汗をかいてしまっていた。


()るんだ! …俺は()れる……()ってやる! リリアを助ける為にも……。()らなくちゃ俺も()られてしまうんだ! これは俺がやらなくちゃならないんだ!!」


 鞘から抜いた剣を両手で握り締め、自分自身に俺は語りかけて鼓舞し、怖さによる震えを必死で抑えた。

 次に深呼吸をし、落ち着きを少し取り戻すと俺はヒュドラの首を1つずつ思いっきりはねていった。


「摂取すると間隔を麻痺させる毒草をお酒に仕込んでおいて良かった……。」


 ヒュドラ位大きな魔物だと、ちょっと食べただけで致死量がある程の毒物を用意するのは非常に困難だったが、感覚を麻痺させる程度の効能を持つ毒草は薄めれば薬となる為に、ハーブを伝えた聖人によって作られた薬草だけは豊富なこの国では、どこの村や街や旅人さえも何かあった時の痛み止めとして使うのに常備している物だった。


「流石に毒草だけだとヒュドラ位大きい魔物には効かないだろうと思って、相乗効果で強い効き目を出させる為にお酒に混ぜてしまえばイケるはずだとやってみたが……読みが当たって良かったな…。」


 9個全ての首をはね終えると、少しホッとして“マルスの樹”の傍で手足を縛られて気を失って倒れているリリアの許へと走った。

 しかし、その少し油断してしまっていた俺に警告を鳴らすが如く、こっちに向かってヒュドラから這い出た人間の子供程の大きさの黒い影の様なモノが襲い掛かってきた。

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