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3.生贄か…俺か…

 村長を始め、この村の大人らの殆どが集まっている中で大見得を切った俺は、その発言によって生贄に少女を差し出して事を収めようと纏まっていた場をザワつかせてしまったので、グイドに急いで自分の家へと引っ張って連れて行かれた。


「お前さん…、相手はあのヒュドラだぞ!? お国が災害指定生物Aランクに指定している奴だぞ? あんな化け物(ばけもん)に勝てるわけないだろう……。なんとかするってったって…、お前さん一人でどうする気なんだ? 落ち着いて考え直してみろって………。」


 グイドは俺を椅子へ座らせ、自分はその向かいに座ると俺を説得し始めた。

 ヒュドラが災害指定生物Aランクだと聞き、なかなか高いのに何故なのかと驚いた。


「だって“A”って………。確か一番最悪なのが“S”で、その次が“A+”、そしてその下の3番目に危険とされているのが“A”なんだよね……? “S”ランクの生物は滅多と姿を見る事なんて無い百年以上に一度あるか無いかの危険度だし、実質“A”が日常で会う確率の高い、最も危険な生物であるって聞くよ? なんで……そんなランクの高い魔物が神聖な山に居着いたのに国は何もしないんですか!?」


「…今この国は北にあるアダマント国と戦争中だ。国にヒュドラ退治を訴えても、だから無理だと断られた……。戦争に行ってない近場の街の衛兵だっているだろうと言ったが、あいつらはヒュドラ退治なんて怖いから嫌なんだとさ……。放っておいてもうちの村が潰れるぐらいだから問題ないだろうって…、儂らは捨てられたのよ。」


 それを聞いて俺は何とも言えない気持ちになり、吐き出し様の無い思いにギリリと奥歯を噛み締めた。


「でも! 俺は修行もしたし、剣の腕には覚えがある。あんな可愛い子が生贄にされて死ぬなんて知って…、何もしないなんてことができないっ!」


 俺は城を出る時に騎士長に貰った、左側の腰に下げた剣をギュッと握りしめていた。


「ありがとよ。その気持ちだけで充分だ……。もう外も暗いし、夕飯を用意するからそれを食べてから今日は休め。」


 それだけ言うとグイドは俺に悲しそうな笑顔を向け、台所へと去っていった。

 その後食卓に呼ばれたがお通夜の様に静かにお互い黙りこくり、出ていった息子の部屋だから気にするなと言われた寝室のベッドで寝た。



 翌朝、少し遅くに起きてしまったのでもうグイドは家に居なかったが俺の為に簡単な朝食が用意されていた。

 俺は顔を洗ったりと身支度を整え、朝食を食べるともう一度昨日の話をする為に村長の家に行こうと外へ出た。

 グイドの家から少し離れた村長の家へと小さな村の中を歩いていると、村人らが数人集まって何やら騒いでいた。


「なにかあったんですか?」


 集まっていた村人の一人に話しかけると、少し涙を浮かべた目で睨まれた。


「お前が昨日あんな事を言うからっ! サウルんとこの娘がどっか行きやがったのよ! どうしてくれるんだ? 余所者のくせに!!」


 その一言を皮切りに、村人が二派に分かれてワアワアと言い出した。

 俺の下げていた剣がそれなりに良い物だったこともあり、俺の発言によって「余所者だが、この人は腕が立ちそうだから任せても大丈夫そうだ」と言ってくれた人が数人出てきたことで俺が村を分断させてしまっていた。


「このルカさんが、なんとかしてくれると言ったんだ! 立派な剣も下げてるし、ここは任せてみても良いんじゃないか。第一、生贄に処女(おとめ)を1人捧げた所で終わりになるとは限らないんだぞ? 昨日言った事なぞ知れたことかと、そのまま村の人間を全員喰っちまうかもしれないんだ……。」


 昨日来たばかりの余所者の俺に任せてみようという派閥の1人が、語気は強めで力強いが体はガタガタと震えながらそう言った。


「なら、イチかバチかでも賭けてみても良いんじゃないか!?」


 同じく俺に任せようと言っている派閥の他の者らも「そうだ! そうだ!」と賛同の声を上げていると、徐々にその賛同者が増えていった。

 村人がそうやって騒いでいると、アシュワガンダの街がある方角からあのエルフたちの商隊が近付いてきた。

 商隊は村の横を通り過ぎてオフィーリア国への帰路を進んでいるだけだったが俺が呼び止め、訳を話して一緒にヒュドラを倒してくれないかと頼んでみた。

 だがエルフたちは他人事の様に「それはできない」と言うばかりだった。

 その時、あのリリアの母親が慌てふためきながら泣き叫び、俺の許へと飛び込んできた。


「ルカ様! 貴方だけが頼りです! どうか…、どうか娘の命を……。サウルの所の娘が、失踪したのを知った生贄強硬派の人たちが…、娘を攫って……。生贄の話は一旦ルカ様の許へと預けられ、送られたはずですのに………。」


 リリアの母親はボロボロと泣きながら喋っていたので言葉が少したどたどしかった。

 俺はギュッと拳を握り、その自らの拳を見つめると意を決した様に村長の方へ向いた。


「この村にある酒をありったけ出してくれ。」


 そしてエルフたちの方へと向き直ると別の協力を求めた。


「他国の、それも自国との国境付近での問題という事で直接手を出せないのも分かる。だから……、その乗り物の荷台に載せてある酒を俺たちに分けてくれるだけでもしてくれないか?」


「何をするというんだ? それにこれはオフィーリア国に持って帰る為に仕入れた、我らの国にはない貴重な酒だ。タダでは……。」


「勿論お金は払う! だが緊急時なので手持ちもあまり無くて少ないかもしれんが…そこは少し堪えてくれ。頼む! ヒュドラの許へ人が行っているという事は派手な攻撃手段はとれないんだ。だから特殊な手法で()る為に酒が必要なんだ! だがこの小さな村にはそれほどの量は無い……だから不足分をどうか助けてほしい! どうか頼む!!」

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