2.少女の運命は…
「おぉ~い! 帰ってきたぞ~。」
村にだいぶ近付いてくると、家々が並ぶ手前に広がっている畑で作業をしていたりする人を見つけては俺をここまで連れてきた爺さんは手を振って村へと帰ってきたことを知らせていた。
村人たちの視線が爺さんの方へ向くと、横に居る俺は一応ペコリと一礼をしておいた。
「おかえり、グイド爺。その人だぁれ?」
10歳にもなるかならないか程の年頃の少女がこちらへと駆け寄ってきて、見慣れぬ俺の事を爺さんに尋ねた。
そういえば道中でお互い自己紹介をするのをうっかりと忘れていたなと、この少女が爺さんの事を名前で呼んだのにハッとし、この爺さんはグイドという名前なのかと今頃になって知った。
少し遅れてこの少女の母親らしき若い女性も、急に走り出した少女を捕まえる様にこちらへと駆け寄ってきた。
「ま、待ちなさい! リリア。急に走らないの。フゥ……。おかえりなさい、グイドさん。……その方は?」
「帰り道でな、車輪がちょっと壊れて外れてしまって…。儂が右往左往して困ってた所を偶然通りかかったこの兄さんが直してくれて助けてられてな…。オフィーリア国へ行く所だって聞いたから、ここが通り道でもあるしお礼も兼ねて村にお誘いしたのさ。」
「いや、そんな…。大袈裟ですよ。俺は直したって程の事はしてませんから……。」
俺はたいした事もしていないのに助けられたなんて言われて申し訳ない気持ちになり、手の平を左右に振って身を半歩引き、控え目に振る舞って訂正した。
「あんた…。服装からしても、見た感じそれなりに高い身分の人っぽいのに……良い人だな!」
俺の謙遜した態度に気をよくしたのか、背中をバンバンと叩いて褒められた。
「そういえば村長は今どこにいる? 儂が街から帰ってきたことも知らせにゃならんし…。それにこの兄さんを村に入れる為にも会わせにゃならん。」
「村長なら、昼頃から村長の家で村に居る大人ら全員を集めて話し合いをしているよ。なんか、あのヒュドラに頼まれ事をされたとかで………。」
リリアと呼ばれた少女がそう言うと母親らしき若い女性が少女を後ろからギュッと抱きしめ、俯いて唇を噛んで少し震えていた。
「母さん?」
母親のその様子に少女は何かを感じ、クルッと見上げて心配そうに母親の顔を確かめていた。
娘に心配そうに見られていることにハッとし、母親は何かを振り切る様に首を振って顔を上げ、娘を更にギュッと抱きしめるとグイドと再び話し始めた。
「ヒュドラに……、いつも通り昼頃に生贄のラクーゴートを山に持って行ったら『喰い飽きた!』って突然言われて………。今度は『人間の処女を持って来い。あれはこんな獣よりも、その辺の人間よりも美味いと聞く。』って言われて…………。」
母親は話をしながら段々と険しい表情になり、その目からは今にも涙が溢れてきそうだった。
「もし偽物を寄越したり、何も持ってこないなんて事があれば村の人間を全て喰ってここら一帯を荒らしてやるとも………。それで皆が村長の家に集まって…………。」
グイドと俺は驚き、この親子と共に急いで村長の家に向かった。
「村長!」
グイドは村長の家のドアを『バァン!』と音が鳴る程勢いよく開け、ズカズカと入っていった。
「おぉ! グイドか……。村の食料は無事買ってきてくれたかね?」
「そんな事よりも村長! 村の処女を差し出せとは……、どうするんで!?」
「なんだ、聞いたのか………。儂らもどうしたものかと話し合っておったのよ……。サウルんとこの娘か…、もしくはそこにいるリリアかとね…………。」
自分の名前を言われ、入り口に立っていたリリアは母親に抱き付き、母親も諦めた様な表情をして抱き付く娘の姿を見ながら頭を撫でて抱きしめた。
「ま、待ってくれっ! こんな幼い子を、魔物の許へと差し出すというのか!?」
俺はリリア親子のその様子に居た堪れなくなり、つい口を挟んでしまった。
「グイド、そこの御仁は?」
「この兄さんは……名前なんだっけ?」
俺はここで素直に本名を名乗って良い物かと一瞬躊躇ったが、フルネームでなければ役人や国王の許へも名前が届かないだろうと下の名前だけ名乗った。
「…改めて自己紹介をさせて頂きます。俺は訳あって旅をしているルカって言います。このグイドさんとはアシュワガンダの街からボポラ山へ向かう途中の道で出会い、荷獣車の車輪が外れてしまって困っていたみたいだったので俺が応急処置をして、道中だからとグイドさんに村に連れられて来たのです。」
「……で、その余所者が偶然やってきた村の問題に勝手に口を挟んで、何様のつもりだ!?」
村長と呼ばれた中年の男はそう言って俺をキッと睨んだ。
「確かに俺は余所者ですが……、ですが偶然とはいえ縁あってこの村に来たんだ。そこで幼い子が生贄にされるなんて話を目の前でされては黙っていられない!」
「じゃあどうしろと言うんだっ!? あのヒュドラが望んでいる生贄を捧げなければ、この村どころかここら一帯が喰い荒らされて、人の住めない死の地へと変わってしまうのだよ? それともなにか? あんたがどうにかしてくれるって言うのか?」
村長と数人の村人が俺に怒号を浴びせてきた。
「俺が……、俺が、なんとかする! だから、幼い子を生贄を差し出す前に……、余所者だから信用できないかもしれないが、俺が何とかしてみせるから、この問題を俺に預けてくれないか?」
さっき数分前に会ったばかりのリリアの辛そうな顔に胸が締め付けられ、村長の言葉を受けて俺は大見得を切ってしまった。
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