1.ボポラ山は遠く
「ハ~ァ……。馬に乗らないと結構遠いな……。」
俺はオフィーリア国から来た商隊のエルフたちに聞いた異変が起こっているというボポラ山を目指して街道を歩いていた。
神聖な山に魔物が住み着くという、本来あってはならない事態が起こったという話を聞いて「俺が調査をしなければ」と思い、次の日には早々に旅支度を整えてアシュワガンダの街を出た。
だがエルフたちに色々と話を聞いた時に、俺はオフィーリア国にこれから行くんだという話をしたら少しばかし注意をされた。
「オフィーリア国ではこの国の様に馬や馬車、荷獣車の類は使われていないの。私たちの国では時代遅れだからだっていうのもあるけど…、そもそもが動物たちに労働を強いることは悪だとされている風潮があるから……。だからあの国に行くのなら馬は置いて歩いていく方が賢明だと思うわ。そうでなければ地域によっては罰せられる恐れもあるし、まず周りからは冷たい目で見られる事になるしね。」
俺はその言葉を受け、それまで乗っていた馬を街の商人に売ってから歩いて旅に出ることになった。
パウロも最初は俺の横を歩いていたが、すぐに疲れたのか俺の肩にジャンプして乗ってきた。
「まぁ、パウロはまだ子猫だから仕方ないよな…。」
まだ遠くにではあるが、段々と視認できる程の距離に山が近付いてくると、目の前にはずっと向こうの方まで多くの柔らかい葉が風にそよぐ草地が広がっていた。
「すげー! こういう所で一度寝転んで昼寝してみたかったんだよな~。」
俺は地球では都会って程ではないが、そこそこの街育ちだったので自然に触れる機会も無く、ちょっとした憧れを抱いていた。
だが街道沿いは多くの旅人が用を足している確率が高く、決してキレイとは……、いや、汚いらしいのだ。
「奥に行けばたぶん大丈夫だろうけど……、さすがにそれは魔物が出て来て危ないだろうしな~。あ~…、残念……。」
野原でごろ寝をするという欲をぐっと堪え、街道を真っ直ぐ歩いていると向こうの方に何やら道の真ん中で立ち止まって右往左往している爺さんが居た。
「どうしたんですか?」
背後から声をかけたからなのかビクッとしていたが、その爺さんはそーっと振り返って俺の姿を見るとホッとした様にため息をついた。
「ハァ……。ビックリした………。いや…、轍に荷獣車の車輪を取られてしまってね、車輪が外れてしまったんだ。この辺は魔物に狙われ易いし動けなくなったから困ってたんだよ。」
「俺が直せるかもしれないから……、良かったら視てみましょうか?」
俺は割かし器用な方で、あっちの世界では使っている物が壊れても修理をして結構長く使っていたぐらいなので修理作業には慣れていた。
「あぁ……、これなら………。うん。ここをこうして…、こうで……ほらっ! 取りあえずそこの村か街に行くまで位なら動けるようにはできましたよ。」
荷獣車を視てみると、どうやら轍に嵌った衝撃で部品の一部分が欠けて他の部品との噛み合せが悪くなって少しずれていただけだったので簡単に治った。
「おぉ! ありがとう、兄さん。」
「でも細かい部品が衝撃で壊れたみたいなので、直すには部品の交換をしないといけないので……。全然直せてはいないのですが。」
「いや、ここから動けるようにしてくれただけで充分だよ。儂はあのボポラ山の麓にある村に帰る所だったんだが…、兄さんはどこへ行く所だったんだい?」
「俺は……オフィーリア国に用があってね。ボポラ山を目指して歩いていたんだ。」
大きな魔物が住み着いているという話は麓に住む村人になら有名になっていると思い、そんな状況になっている山に今わざわざ登ると言えば怪しまれるか、怪しまれなくても止められると思い、少しぼやかして言った。
「あの山に近付くのは止めときなされ…。山の中腹辺りにある“マルスの樹”の傍に今はヒュドラが巣食っておるから通れんよ……。今は皆、オフィーリア国との行き来にはボポラ山を越える道を通らずに、迂回して遠回りしておる。まぁ、どっちにしろ向こうの方に行くなら儂の住む村に一度寄るとええ。今からだと村に着く頃には日暮れになっておるしの。宿はないが、儂の家に泊まりゃええ。」
俺はそう言われて荷獣車の荷台に乗せられ、今夜はこの爺さんの家に泊まることになった。
道中、爺さんは山に住み始めたという魔物、ヒュドラについていろいろと教えてくれた。
ボポラ山にヒュドラが済み始めたのは今から2ヶ月近く前になり、最初は聖なる山を守らんが為に村人総出で退治に立ち上がったが…、あっさりとやられたらしい。
「国境付近にある村という事もあって聖書の加護も薄く、遠回りをすりゃ行き来もできるって事から国は動いてくれりゃせんのです。それでも長年暮らしてきた村を捨てるわけにもいかず…。ここらの者にとっては聖なる山として守ってきた場所だからねぇ……。それで近付いてくる者は皆喰っちまうヒュドラがずっと山に居ってくれるとも限らず………。退治もできないヒュドラが腹をすかせて村人を襲いに山を下りてくることを危惧して、村で飼っていたラクーゴートを生贄として3日に1度、ヒュドラの許に届けてやっているのさ。」
ラクーゴートとは、山羊の様な姿をしているが体毛は羊の様にモコモコとしており、成体になるとその印として額に若草色をした宝玉ができ、地球に居る山羊よりも3倍程は大きいらしく、この世界では唯一人間が飲食するのに搾乳をする為のごく一般的な家畜なんだと城で勉強した時に聞いていた。
この世界で乳製品といえばラクーゴートの乳で作った物であり、『牛』と言えばミノタウロスという、人を襲ったりする魔物の事で地球の様な『牛』は存在しないらしいのだ。
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