10.異変
「明日でこの街に来て一週間か…。」
アシュワガンダの街に来てそれなりに時間も経ち、二日酔いで寝過ごした2日目以外は早起きをし、毎日通ったお店ではそれなりの情報も得ることができた。
今日の昼過ぎには一ヶ月に一度、西にあるオフィーリア国から大商隊がこの国では作れないありとあらゆる物を持ってやって来るという。
その商隊は不思議な乗り物に乗り、このサクラヴェール国で唯一国境に近いこの交易都市であるアシュワガンダにだけ、オフィーリア国の恩恵をもたらしてくれるらしい。
「不思議な乗り物って何だろう……。そういえばこの国の人たちとは見た目が少し違うって言っていたけども……、どんな人たちなんだろうな…。」
そんな事を思いながら、今日も早起きをして日々街を出入りしている行商人や旅人に話を聞いて周ってから茶店で一息ついていた。
オフィーリア国からの商隊は特殊な物ばかりが詰まれ、この街に着いた時には鐘が鳴らされ、一日中ちょっとしたお祭り騒ぎになるという。
俺の独り言を聞いていたのか、茶店の女将が俺に話しかけてきた。
「そんな事を考えられるのも今、オフィーリア国とは休戦しているおかげだねぇ。数年前の戦時中には隣の国から商隊がくるなんざ考えられなかったことだもの…。」
「特にオフィーリア国のやつらはプライドが高ぇから、自分より下に見てるこっちと商売する気なんざあると思わなかったもんな。」
「ちげぇねぇ。アッハッハッハッハッハッ!」
近くに居た他の客も女将の話を聞いて口々に言いだした。
その時、門のある方角から鐘の音が街中に鳴り響いた。
「おっ! 噂をすればアイツらが着いたみてぇだ。商隊は着くといつも街の中央広場に市を開くんだ。お前さんも後で行ってみるといい。置いてある物が全部珍しい物ばかりだから、なかなか面白いぜ!」
他人に勧められなくても、俺も情報収集の為に行こうとは思っていたので教えられた中央広場に市の賑わいが落ち着いた頃を見計らって数十分経ってから行ってみた。
「うわ~ぁ。すっげー! 確かにサクラヴェール国では見た事ない様な物ばっかりだ…。」
中央広場いっぱいに広げられた幾つもの簡易屋台のテントの下では、一ヶ月に一度の楽しみとばかりに街中の人が集まったが如く人で溢れかえっていた。
俺は売り物よりも、市を開いている商隊の人たちに用事があったので人だかりをかき分けてテントの奥を覗いた。
「えーっと………、どれだ? こう人が多いと分かり難いな…。」
俺はキョロキョロと辺りを見ていると、だいぶ時間が経ってから行ったので一部のテントでは品物が売り切れて片付けを始めている者が端の方でちらほらと居り、それがこの国の人とは明らかに違う背格好をしていて着ている服も全く違う人らであった。
「エ、……エルフ!?」
変な形の耳をした人間だとは聞いていたが…、オフィーリア国の住民があのファンタジー世界の有名人であるエルフだとは思わなかった。
信徒と信徒たちの住まう国を加護するという聖書の持つ働きにより、その聖書の加護の範囲で生まれた信徒は加護を受けた証として、言語のみならずその聖書の契約者であった聖人と同じ見た目になる様に変化するとは聞いていたが……。
「こことはまた別の異世界から来たっていうオフィーリア国の聖人がまさかエルフだったとはな~。サクラヴェール国はどこに行っても、髪や瞳の色こそ違えども日本人みたいなのばっかで異世界感があんまり感じられなかったんだよな~。や~っと、異世界に来たって感じがするぜ。」
神様はこの世界で長らく遅延していた文明の発展と繁栄をもたらさんとずいぶんと昔々から『救世主』を作り上げようとしてきたと話していた。
だがこの世界の元々の住民であり、一番古い国の聖人にもなった『救世主』を五千年前にやっと作り上げることに成功した後は行き詰まってしまい、この世界の住民だけでは発展が望めなくなってしまったと…。
そして2人目・3人目・4人目と、それぞれ別世界から呼び寄せて導き手とさせたのが『救世主』たちなのだが少しでも寂しくならない様にと、導かれる信徒たちが『救世主』と同じ言葉を喋り、同じ見た目になる様に変化するという理を神様は2人目の『救世主』を呼ぶ時からこの世界に生み出したらしいのだ。
「あの~、ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが………。」
俺は一通り片付けが終わって一息つこうかとしている数人のエルフの傍へ行き、ここ最近変な事故や事件が起きていないか聞いてみた。
「そーねぇ……。変って言えば変かもしれないけど………。」
「ちょっとした事でもいいんで教えてください!」
俺は些細な事でも聞き逃すまいと前のめりになった。
「最近って言えば、さっきここに来る時に通ろうとした道の事とかかなぁ。」
「あぁ! あれねー!」
1人が言い始めたのをきっかけに、他のエルフたちも話に同意してあれこれと言い出した。
「私たち、この街に商売に来る時はいつも国境付近にあるボポラ山を通ってくるの。でも最近その山に生えている禁断の果樹として有名な“マルスの樹”の周りに大きな魔物が住み着いてしまったらしくって……。」
「それで私たちも山に近づけなくなってしまってさ…。仕方ないからルート変更をして遠回りをしなければ来れなくなってしまったから今月は少しここに来るのも遅くなってしまったわ。」
「あの山は神聖な山だから魔物なんか本来は住めないはずなのに……。本当、どうしたのかしら………?」
俺は何かあるなと思って更に詳しく聞いてみたが、このエルフたちも一ヶ月に一度しか通らない道なので詳細までは分からない様だった。
でも、俺はあるはずの無い事が起こっているという事に、神様が言っていた「聖書の一部破壊の影響による異変」だと感じ、その山へ調査へ行こうと決意した!
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