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7.悩み

 古いだけあって宿の中は少し薄暗く、受付カウンターの上に置いてあるランプの灯りに照らされて見える爺さんの姿は、まるで自分がオバケ屋敷の中にでも居るかの様に錯覚した。


「お客さんは、お前さん1名かね? うちの泊まり賃は1泊で銅貨7枚だ。この街で一番安い料金の代わりに、色々と古びちまってるからあまりあちこち触らないでおくれな。後、ここには食堂は無いから外で食べてきとくれ。この街は食堂や酒場だらけだ。困る事もあるまい。」


「はあ……。」


 力なく発せられる爺さんの口調はまるで怪談でも語っているかの如く感じられ、背筋が少しゾワッとした。

 その時、俺の身震いにビックリしたのかパウロが俺の懐からモゾモゾと出てきた。


「ゥニ~ィ?」


「ほぉ、珍しい…。お前さん、コウモリ猫を連れておるのかね……。コウモリ猫を連れた客なんて、他の宿だとやれ縁起が良いからとサービスしたりする所なんだろうが……、儂はしないよ。うちの宿は建物も人間も古くて苦しいもんでな。」


 俺はそれにどう返したら良いのか分からず、ひとまず愛想笑いを返しておいた。

 この街は交易都市というだけあって大きく、ここ以外の宿屋はどこも1泊が銅貨10枚を超えている。

 宿屋だけでなく、住民が商人だらけのこの街にあるものは何もかもが高かったので、ここで受付の爺さんが愛想のないからと他の宿に行くわけにはいかなかったのだ。

 旅人向けの宿や食堂でコウモリ猫連れによるサービスが謳われてたとて、この街では「サービス」というものにはさほど期待ができないから旅人だからと騙されるなよと、門で話をした衛兵に前もって注意もされていた。


「どうするかね? 他所(よそ)へ行くかね?」


「いえ、ここに泊まります。とりあえず……、3泊ほどお願いします。えーっと、銅貨12枚で銀貨1枚になるから…、これでいいですか。」


 そう言って俺は懐にしまった袋から銀貨1枚と銅貨9枚を受付カウンターの上に出した。


「はい、……確かに。部屋は階段上がって3階の左手にある部屋が空いてるから、そこを使っとくれ。」


 爺さんは俺の出したお金を数えて確認すると、受付カウンターの中から動くことなく横にある階段を指で指し示した。

 3階まで上がり、指示された部屋に入った俺は財布にしている布袋の中を確認した。


「この街の旅人専用の共同厩舎へ預けた馬の預かり賃が1泊銅貨4枚か……。世界を周らなくちゃならないわけだから、1つの国にだけ偏ったしがらみをなるべく作らない様にと、この国からの支援は最初だけという約束にしてもらったが……。流石に何かして稼がなきゃあっという間に金が底をつくな……。どこの世界でも都会は物価が高くなるのは分かっちゃいたが………。」


 この世界は魔法や魔物が存在する世界だが、ゲームに有りがちな“魔王”とか“冒険者”とかってものが存在しない、ある種リアルな世界だ。


「冒険者ってものが存在すればRPGみたいに簡単に稼げたかもしれないのにな~ぁ……。」


 魔王という絶対的な悪の存在こそいないものの、それぞれの国の文明発展度がそれぞれの国の聖書の恩恵によって違うが為に互いの国が持つ聖書を奪おうと、この世界ではどこかしらで常に戦争が起こっているという実に不安定な世の中である。

 そしてこの世界では聖書と国を守る為の戦力として神官が存在し、戦争時に魔物などの脅威から物資を守る為に神官に雇われる傭兵が存在する。

 そんな戦争には関わりたくないし、神様からの使命を果たさなければならない俺はどこかの国に付いてしまうと権力の偏りができてしまって非常に面倒くさい事になるので、面倒事にはなるべく関わりたくないと思っている俺は暫くの間は身分を隠していたい。


「身分を隠してできる仕事って……、何をするでも信用が全てだし……、できる事がすごく限られてくるよな~。」


 それ故に、魔物らが増えすぎて世界のバランスを崩し、世界に害をもたらさぬ様に、定期的に一定数を狩猟するという仕事である“狩人”ぐらいしか思いつかなかった。


「狩る対象が野生動物から魔物になっただけで、要するにマタギってやつだよな~。狩って得た魔物は商人に食料や素材として売れるっていうし、モノによっては良い値が付くって聞いたけど…。ただ……『殺す』っていうのがな~………。しかもけっこう危険だっていうからやりたがる奴も少ないみたいだし……。」


 俺は『殺す』という行為にどうしても躊躇いが出てしまい、決断ができずにいた。


「肉は好きだけど……、日本に居た頃こういう事に関わらないで居られた…、ある意味幸せな立場だったからな~。この世界で生まれ育っていれば普通の事として受け止められるんだろうけど………、精神的にキそうで、ヘビーだよな~。ハ~ァ……。」


 俺が悩みに悩んでも結論を出せず、ため息をついているとパウロが俺の横に座ってすり寄ってきた。


「パウロ…………。」


「ニィ!」


 パウロが「元気出せよ」とでも言っているかの様に俺に向かって鳴いてきた。


「そうだな…、うん……。とりあえずこれぐらいしか手段はないわけだし、今は仕方ない、か……。また他に手段ができた時にでも、改めて考えるしかないしな。とりあえず……お腹も空いたし、夕ご飯でも食べに行こうかっ! パウロ。」


 俺はパウロの無邪気な笑顔に癒され、頭を撫でているとゴロゴロと喉を鳴らしていた。

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