9.領都へ
神様は俺へひとしきりの懺悔を終えると、右手を軽く上げて何もないはずの空中で何かを掴んだ様な仕草をしていた。
そして軽く握られた右手を俺の目の前へと持ってきて、そっと手の平を開いてふうっと息を吹きかけると、神様の手の平から俺の胸の辺りにまでフワフワとした光が川の様に流れてきて体の中に吸い込まれて行った。
すると俺の体が薄ぼんやりと徐々に光り出し、体全体に広がると次に左手の一部に一気にその光が全て収束していき、左手だけがパーァっと強く光り出した。
「こ…これは……、なんだ!?」
俺はその眩しさから左手を思い切り遠くへと突き出し、右手で両目を覆った。
左手の光は数秒もしないうちに突然フッと消え、俺が何だったのかと自分の左手を確認しようとすると、中指には一瞬で黒くてキラキラと光る石が嵌め込まれた指輪が出現していた。
俺が左手をヒラヒラと、裏返したり表にしたりしながら指輪をマジマジと見ていると神様は言った。
「これで契約は成りました。契約書はその指輪の中にあります。君が死ぬまでその指輪が外れることはありません。」
「これで俺も神力とやらが使えるようになったのか?」
俺は期待を込めて聞いてみたがその返事は残念なものだった。
「いいえ。これはまだその資格を得たというだけで、神力の種を与えたに過ぎません。これから君が己を鍛え、努力し、君がそれぞれの神力を使うに値する様になるまで育つ度に、種から1つずつ能力は解放されていきます。」
「1つずつ? 一遍には…やっぱり無理なんですね。」
俺は少しガッカリとしていた。
「えぇ、それは危険ですから…。ですがオマケで与えていた能力と同じ様に、この世界との繋がりが深くなれば深くなる程に、君の神力は強大な物へとなっていきます。多くの者と手を取り合い、世界の異変を正すのです。さぁ…、時は来ました。お行きなさい!」
そう言って神様はキリっとした表情になったかと思うと、スッと人差し指を立てた左手を上げ、俺の後ろの遥か向こうの方を指差した。
「えっ? ちょっと…、まだ聞きたいことが……。」
俺の話を遮る様に、神様と話をしていた温かな光に包まれた空間は、神様の『お行きなさい』の言葉を合図にして靄が晴れる様にスゥっと消えていき、「一年後を楽しみにしていますよ。」という神様の言葉が、最後に少し遠くから聞こえただけだった。
次の瞬間には神様と会う前に居た礼拝堂の鳥居の形をしたオブジェクトの前に俺は横たわっていた。
どうやら気絶をしていたらしいが、起き上がって周りをキョロキョロとしてみても神様と話をしていたのは結構長い時間だったはずなのに誰かが俺の様子を見に来た感じも無く、何も変わらずにこの中は俺1人きりだった。
しかしさっきは気持ち悪いぐらい静かだったはずなのに、表で遊ぶ子供の声や近くにある商店の人の話し声がワァワァと礼拝堂の中にまで漏れ聞こえてきていたので変な感覚がした。
この異様な不自然さに、あの静けさは神様が何らかの手をくだしていたからなのだろうかと思った。
座った姿勢から立ち上がろうと床をグイっと押すと左手の方からカツンッと小さな音がした。
「あっ…あの指輪だ……。」
音のした場所を見ると確かにあの指輪があった。
取りあえず神様との話も済んだので隣の部屋で待たせているアルテロの所へ行こうとドアをノックした。
「アルさん、儀式が終わりましたよ。」
ドアの前に立っていると、中からガチャリと従者が開けてくれた。
礼拝堂の半分程しかない広さの部屋の中では、机に向かい合わせに座ってこの教会のシスターと終われる女性とアルテロがお茶を飲んで話をしていた様であった。
「おぉ! 神官様。思ったよりも早かったですね。まだ10分ぐらいしか経っていませんよ。無事に記憶を手に入れられましたか?」
「あっ、あぁ……。えーっと………。」
アルテロは椅子から立ち上がり、俺が部屋の中に入るとすぐ俺の前に近寄ってきていたが、アルテロの質問にどう答えて良いのか分からず、俺は自分の顔を指でポリポリと掻いて笑って誤魔化した。
「そ、その指輪はまさかっ! ルカ様は神話に伝わる神より選ばれた旅人、救世主様なのですか!?」
顔を掻いていた方の手に付いていた指輪に気付いたアルテロは目が点になって驚き、指輪を再度確認する様に俺の手を握って自分の目の前へと動かした。
「ア、アルさん…。」
「こうしてはいられません! ここで一泊して明日ゆっくりと領都へ行く予定でしたが、すぐさま準備をしてすぐにでも赴きましょう。領都へ行った後にこの国の聖都まで行く必要が出てきましたので!」
アルテロは従者に指示を出すと、従者が出ていった後に「ここで少々お待ちください。」と俺に言ってシスターにペコリと一礼すると自らも外に出ていった。
暫くするとアルテロは戻り、先程乗っていた馬車まで連れていかれた。
何をしていたのか聞くと、サントルの役人詰め所まで行って急いで俺についての報告書を書き、それを使いの者に持たせて領都に居るはずの領主の許まで早馬を走らせたらしいのだ。
そうしてこの街での準備も済ませ、戻ってきた従者と共にまた3人で馬車に乗って今度は領都を目指すことになった。
「そういえば領都までどれぐらいかかるの? アルさん。」
「そうですね~……、この街は割と領都に近い方なので早くて3日ですかね~ぇ。」
「ふ~ん、そう………。えっ! …3日!?」
車社会の日本の生活に慣れた俺に早速の苦労がやってきた。
★ブックマークや感想などありがとうございます。
更新の励みとなっております!




