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そばにいて  作者: 大平麻由理
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26.いやだ、聞きたくない

「そ、それは……。どうしてそんなこと聞くの? 絵里や優花には関係ないでしょ」

「そんなことない。ねえ、今すぐ言ってよ。いいじゃない、それくらい教えてくれたって。あたしたちさ、マミのことこんなに応援してるんだよ。ねえ、言ってよ。やっぱ、キスくらいは……したよね?」


 き、キス……。麻美と吉永君がそんなことしてるなんて、考えたくないし、聞きたくもない。手で耳を塞ぎたい衝動をなんとか抑える。


「えっ? あ、ああ……。した……かも」


 麻美がしどろもどろになる。言いたくなければ言わなくてもいいのに。絵里はいったい何を考えているの? なんだか麻美がかわいそうだ。


「かも? かもって何よ。したか、しないかの、どちらかしかないでしょ? 気を失っててわからなかったなんて言い訳は聞きたくないし、信じないから」

「絵里……。わかった。言えばいいんでしょ、言えば! キス……した。したわ。ちゃんとキスした。だって、あたしたち付き合ってるんだもん。したって誰も文句言わないよね?」


 麻美……。わたしだってもう十六だ。恋人同士になれば、そういうこともするんだろうなって……なんとなくイメージできる。麻美と吉永君は付き合っているんだもの。不思議でもなんでもない。

 でも、頭ではそうとわかっていても、こうやって麻美の口から直接聞かされると、胸が痛い。鼻の奥がツンとしてくる。いやだ。本当はこんなこと聞きたくないよ。吉永君が誰か他の人とそんなことをしてるなんて、想像するのもいやだ。口の中に苦い血の味が広がる。唇を強く噛みすぎたせいだ。

 とうとう絵里も最後の麻美の気迫に負けたのか、問い詰めるのをやめた。


「マミ、ごめん。こんなこと無理やり言わせちゃって……。あたしってひどいよね。悪かったと思ってる。でも、最後にひとつだけ。お願い。正直に答えて。吉永とは、本当に付き合ってるんだよね?」


 絵里。なんでそんなこと聞くの? たった今、キスしてるって麻美が言ったばかりだよ。聞くまでもないことでしょ。それなのに……。


「……付き合ってる。テストが終わったら、遊園地に行こうって約束してる」


 麻美が抑揚のない声で自分の手の指をじっと見つめながら答えた。


「そう……。わかった。マミ、疑うようなこと言ったりして悪かった。でも……。もし何か困ったことや悩んでることがあったら、何でも言ってよね。あたしも優花も、相談にのるからさ」


 絵里が麻美の視線の先にある震えている彼女の手に自分の手を重ねながら言った。


「絵里。ありがと。その時は、よろしく……ね。今は、大丈夫だから」


 ようやく顔を上げた麻美が、精一杯の笑みを浮かべて言う。


「そっか……。マミはわたし達より、一足早く大人に近付いたんだね。なんだかわたしも早くカレシが欲しくなっちゃった。いいな、マミがうらやましい……」


 わたしは本当に心からそう思った。早くわたしも、みんなに胸を張って言えるような大切な人にめぐり会いたい。


「やだ。優花にはピッタリな人がいるじゃない」


 麻美が険しかった表情を緩めて言う。わたしにピッタリな人? 誰のことだろ。そんな人、いたっけ?


「鳴崎勇人。最近、優花とよく一緒にいるよね。彼ならわたしのオススメ物件だよ。クラスでも人気あるし、いい奴だしね。優花だって、まんざらでもないんじゃない?」


 わたしは麻美の言葉をしっかりと受け止め決意を新たにした。昨日のミイとサリといい、そして今日の麻美といい。勇人君との仲をこれほどまでに疑われるのは、やっぱりわたしにも原因があるんだ。明日からは疑われないように気をつけなきゃってそう思った。


 それにしても今麻美が言ったことを勇人君が聞いたらなんて思うかな。いやいや、絶対に聞かせられないよね。勇人君が気の毒すぎる。

 麻美の言うとおり、勇人君はいい人だと思う。優しいし、頭もいいし、おまけにイケメンだ。でも、だからって好きになるとは限らない。いじわるで、冷たくて、たまに怖い顔をする人を好きになることだってある。人生ってそんなものだ。


「マミ。わたしね、鳴崎君のことは、ただの部活仲間としか考えられないの。好きとか、付き合うとか、そんな風に思うことはできない。多分、これからもずっと……。それに、鳴崎君だって、きっと好きな人がいると思うし……」


 そう。たとえわたしが勇人君を好きになることがあったとしても、報われないってわかってるしね。だって勇人君が好きなのは、麻美なんだもの。


「そうかな? 一緒に委員をしてた時、確かフリーだったはずだけどなあ。あの整いすぎたきれいな顔をくしゃっと崩して、恋人募集中って言ってた。あたしがふざけて立候補しようかなって言ったら、彼マジになっちゃって。びっくりしたこともあったけどね……。でも優花にその気がないのなら、あきらめるよ。でもさ、クリスマスまでまだ二ヶ月近くあるし。もし優花の気が変わったらあたしに言って。鳴崎はちょうど席も隣だし、優花のことを持ちかけるのには絶好のチャンスだからさ」

「う、うん。ありがと、マミ」


 麻美は全く勇人君のことは眼中にないんだね。なのに勇人君ったら、実はもうすでにどさくさに紛れて麻美にアタックしてたんだ。麻美は軽いジョークとして聞き流していたみたいだけど、まさか彼が本気だったなんて思いもしないんだろうな。恋って、なんでこんなに切ないのかな……。


「さあ〜てそこのお二人さん。そろそろ勉強しませんか? マミ先生に質問するなら今のうちだよね」


 絵里が数学のプリントを広げ、難しい問題をピックアップして、麻美にすがりつく。二時間ほど勉強をして、母さんが仕事から帰ってきた時に、入れ替わるようにして二人が帰った。


 夕食も終えて、お風呂から上がったちょうどいいタイミングで、メールの着信音が響いた。絵里からだ。濡れた髪をタオルでくるみ、携帯を開く。

 

 わたしはそれを見て、言葉を失った。




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