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そばにいて  作者: 大平麻由理
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18.行き違う想い

 勇人(はやと)君ったら、ホント、失礼しちゃう。

 でも……。まだ笑い続ける勇人君の少し後ろを歩くわたしまで、なんだかおかしくなってきた。

 プッて吹き出すと、いっきに笑いがこみ上げてきて、それを見てまた勇人君が笑い、わたしも笑う。失恋した者同士、こうやって笑っているのもどうかと思うけれど。おかしさが収まらないままマンションのエントランス前で部屋番号を表示させ、家の中にいる母さんにロックを解除してもらった。

 最上階に住む勇人君もわたしに便乗して横をすり抜けるようにして中に入っていく。


「ああ、勇人君。ずるいっ!」

「へへへ。ラッキー。こうやって人が開けてくれたところを通り抜けるのがオートロックの醍醐味なんだよな」

「なに、それ。小学生の頃とちっとも変わってないじゃん」

「だろ? お互い成長してないってことで」

「やだ。わたしまで一緒にしないでよ……あっ」


 わたしが勇人君とじゃれ合うようにエレベーターホールになだれ込むと、その先に見知った二人の目がこちらに注がれているのがわかった。


「ま、真澄! 大園……」


 勇人君が突如視界に入ってきた目の前の二人に驚いたように立ち止まる。わたしだってびっくりした。なんで、麻美がここにいるの?


「優花? 優花じゃない。それに、成崎も!」

「マミ……」


 吉永君の横でこぼれんばかりの笑顔を見せる麻美が、わたしと勇人君の名を呼んだ。


「優花、昨日は……ありがと。あたしさ、真澄君にくっ付いてこんなところまで来ちゃった」


 真澄……君? そう言って麻美がほんのりと頬を赤らめながら吉永君の腕にしがみついた。わたしの心臓が、止まるかと……思った。


「おい、大園。やめろよ……」


 吉永君が怒ったような顔になり、突如、麻美の手を荒々しく振りほどく。


「真澄君……。ご、ごめんなさい。あたし……」


 麻美が行き場を失った手をもう一方の手で支えながら、怯えるような目をして吉永君を見た。


「あっ、いや。別にそんなつもりじゃ……」


 吉永君が幾分申し訳なさそうにそう言うと、突然勇人君が彼の前に立ちはだかって、吉永君の腕を捻り上げた。


「おまえ、彼女に乱暴するなよ! 付き合ってるんなら、もっと優しくしてやれ」


 目を疑うような光景にわたしも麻美もその場に立ち竦むことしか出来ない。


「勇人……。おまえ何言ってるんだ? 俺、そんなに乱暴なことはしてないつもりだけど? その手、離せよ」

「あっ、ああ……」


 勇人君は吉永君に言われて、初めて自分の取った行動に気がついたのか、慌てて捻り上げていた手を離した。


「勇人。おまえこそ、やけに楽しそうじゃないか」


 捻られていた方の腕を回しながら今度は吉永君が皮肉っぽくそんなことを言う。


「はあ? 俺のどこが楽しそうに見える?」

「そいつと、よろしくやってるんじゃないのか? おまえらさっき公園にいたろ? なあ、勇人」


 そいつって、わたしのこと? 吉永君がほんの一瞬だけわたしを見てそう言った。よろしくやってるだなんて、そんな……。


「おまえ、何を見てそんなこと言ってるんだ? 俺とゆうちゃんがどうこうなるわけなんかないだろ? おまえこそ、そんなにゆうちゃんのことが気になるんなら、しっかり手元に繋ぎとめておけよ」

「こいつ、言わせておけば……」

「何をっ!」

「やめてーーっ! 二人とも! なんでマミの前でそんなけんかなんかするの? マミが、マミが……かわいそうだよ」


 わたしは今にも掴みかかろうとしている吉永君と、挑発的な態度ではむかう勇人君の間に入って、なんとか二人の暴走を止めることに成功した。

 マミが青白い顔をして、がたがた震えている。

 それに気付いた勇人君が先に吉永君のそばを離れて、マミの前に立った。


「ごめん。大園。俺、なんてひどいこと言ったんだろ。今言ったことは忘れて……。俺が一人で勝手に思い込んでいただけだ。真澄とゆうちゃんは何も関係ないよ。その証拠に、真澄が選んだのは間違いなく大園なんだから」


 それだけ言うと、勇人君は力なくエレベーターに向かって歩いて行った。彼は、マミを傷つけないために、自分の言ったことを完全に否定したのだ。


「吉永君。マミのこと……頼むね。お願いだから、マミに優しくしてあげて……」


 わたしは残された勇気をふりしぼってそれだけ言うと、勇人君を追いかけて同じエレベーターに乗り込んだ。

 ドアの窓越しに、ホールにたたずむ吉永君と目が合う。最後まで吉永君の視線が、わたしから逸れることはなかった。



 

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