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そばにいて  作者: 大平麻由理
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16.好きな人

 わたしは吉永君がいなくなった後も、しばらくそこにたたずんでいた。足が前に進まないのだ。今夜もまだ熱帯夜だと天気予報で言ってたのに、ロビーから吹き抜けてくる風が冷たく感じ、ぶるっと身体を震わせた。


 Tシャツのそでから覗く腕をさすりながら、ゆっくりと階段を上り始めた。二階に着いてそのまま三階に向かおうとしたけど、ふと思い直し、エレベーターのボタンを押していた。


 わたしはその日から、もう階段を使うのを……やめた。



 次の日学校に着くや否や、待ち伏せしていた絵里に校門のところで捕まえられる。


「ゆ、優花! まさかと思ったけど、そのまさかなんだよね?」


 教室に行かず、そのまま図書室裏手のベンチに無理やり座らされ、尋問が始まった。


「優花、本当に実行したんだ。吉永も吉永だよ。マジでオッケーするなんて……。信じらんない」

「夕べ遅くにマミから電話もらって、ありがとうって……。すごく喜んでた。これでいいの。うん……」

「優花。あんたよくそんなに平然としていられるね? このままでいいの? 優花の気持ちはどうなるの?」

「正直、辛い……。でもね、これでよかったんだ。吉永君、ちっとも嫌がってなかったし。わたしが彼のアドレスを消しちゃったことは怒ってたけど、きっぱり言ったんだもの。マミと付き合うって。どうせわたしのことなんて、彼の眼中にはなかったってことだよね」


 絵里が口をへの字にしてあきれたようにため息をつく。吉永君もわたしもどっちもどっちだって不服そうに文句を並べるけど、もう元にはもどれない。わたしはすでに彼から、絶交状も叩き付けられているのだから。


 その日、吉永君とはもちろん一言も口をきかなかったし、目を合わすこともなかった。でも、一学期と同じ状態にもどったまでのこと。この数日の出来事は夢だったと思えばいい。

 なんとか気持ちを切り替えて明るく振舞ってみた。絵里にこれ以上心配をかけるわけにいかないしね。

 授業が終わると、部活にちょっとだけ顔を出し、今週の予定だけ確認して部室を出た。

 すると、誰かがけたたましく追ってくる。


「おい、待てよ! なんでそんなに急いでるんだよ。俺も帰るから、ストーーップ!」


 わたしを呼び止めて、カバンを取りに教室にもどったのは、学校イチの秀才ともてはやされている勇人(はやと)君だった。


「お待たせ」


 廊下を教室二つ分くらい進んだところで、カバンを持った勇人君がわたしに追いついた。メガネをかけているけれど決してがり勉には見えないその爽やかな顔つきは、絵里がイケメンランク一位だというだけあって、惚れ惚れするほどかっこいいともはや認めざるを得ない。


「どうしたの? 勇人君。部活は?」


 いつも部活熱心な勇人君がこんな時間に帰るなんて珍しい。


「それを言うなら、おまえも部活はどうしたんだよ」

「わたしは……。今日は早く帰ろうと思って」


 わたしの所属しているボランティア部は、サークルみたいなもので、活動そのものは週に一回しかない。土曜か日曜に介護施設を訪問したり、夏休みや冬休みに保育園や児童館に行って、本の読み聞かせや、遊び相手になったりするのが主な活動内容だ。

 同じくそこに籍を置いている勇人君は、わたしと違って毎日のように部室に足を運び、運営の中心的役割を担っている。

 その責任感を買われて、次期生徒会執行部への立候補をも打診されているらしい。


「今日はって……。二学期になって、全然来てないくせによく言うよ。まあいいけどな。ちょっとゆうちゃんに尋ねたいことがあって」

「なに?」

「真澄のこと……」


 わたしはその名前を聞いたとたん、さっと血が引いていくのがわかった。なんで勇人君が吉永君のことを聞くのだろう?

 夕べのことと、何か関係があるのだろうか。


 下校途中の他の生徒もたくさんいたので、お互い口をつぐんだままバスに乗り、わたし達の住んでるマンションの裏手にある公園に向かった。


「吉永君が……どうかしたの?」


 錆び付いたブランコに腰を下ろし、ゆっくり揺らしながら隣の勇人君に尋ねる。


「夕べ、あいつが家に来てさ。俺のクラスの……大園のアドレス教えてくれって言うんだ。一学期に俺が委員長で大園が副委員長だったから、もちろんアドレスは知っていたよ。で、その理由を聞いて、マジかよって、あいつを問いただしたら、ゆうちゃんのためだって言うんだ。なあ、いったいどういうことなんだ? 俺にわかるように説明してくれよ。おまえ、大園と……確か、親友だよな?」

「そうだけど。でも、わたしのためって、そんなこと……。確かに、マミに代わって彼女の気持ちを吉永君に伝えたのだけど。でもね、吉永君もマミのこと、悪く思ってないみたいだったし。付き合うって言ってくれたから、よかったなあって、そう思ってた」 


 勇人君があまりにもすがるような目をして訴えかけくるので、わたしもありのまま答える。


「そうか……。大園は、やっぱり真澄が好きなのか……。陸上部のマネージャーだもんな。そんな気はしてたけど……。なあ、ゆうちゃん。新学期早々に進路希望調査出しただろ? 俺、なんて書いたと思う?」

「わかんないよ、そんなこと。でも勇人君は昔、研究者になりたいって言ってたよね?」

「ああ。そんなことも言ってたな。でも、もうはっきりと決めたんだ。医者になるってな。大園が行くって決めてる大学の医学部を俺も書いて出した」

「は、勇人君……」

「俺な、大園麻美が好きなんだよ」


 

 





いつも読んでいただきありがとうございます。


このたび優花を応援してくださる温かいメッセージを頂きましてとても嬉しかったです。

アドレスが記載されていませんでしたので、こちらでお返事させていただきますね。Aさん、ありがとうございました! これからもよろしくお願いします。


皆様の評価・感想、お待ちしてま〜〜す。


※メッセージは、右下にあります作者紹介ページというところをクリックしていただきますとメッセージを送るというリンクがあります。何か気がついたこととかありましたら是非お声を聞かせてくださいね。







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