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そばにいて  作者: 大平麻由理
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14.新たな決意

 絵里、ありがとう。わたしのこと心配してくれてるんだよね。……わかってるよ。自分の言ったことくらい。

 でもわたしの苦しみなんて、麻美とは比べものにならないくらい、日常茶飯なちっぽけなこと。だって転校なんだよ? 吉永君と同じ高校じゃなくなるんだよ? 好きな人とも会えなくなるんだよ……。

 麻美のためなら、言える。吉永君に麻美の気持ちを伝えることくらい、簡単だ。


「優花……。いいの? 本当に?」


 麻美の目から涙が零れ落ちた。


「あたりまえじゃん! 今夜家に帰ったら吉永君に言うよ。それともマミが自分で言った方がいいのかな?」

「ううん。さっき告白するなんて言ったけど、彼を目の前にしたら、きっと恥ずかしくて何も言えないと思う。だから、優花に言ってもらえたら、助かる……」


 麻美が涙を拭いながらわたしに言った。


「優花、ちょっと……」


 怪訝そうな顔をした絵里がわたしの肩を後ろから押すようにして、麻美から少し離れたところで尋ねる。


「優花、あんたの言ったこと、とても本気だとは思えない……」


 絵里がわたしの耳元でボソッとつぶやいた後、麻美にちょっと待っててねと言って、彼女を休憩コーナーに残したまま、無理やり手を引かれて、トイレに連れて行かれた。


「優花、いったいどういうつもり? 自分のことはいいの? 吉永だっていい気はしないよ、きっと……」


 化粧室の鏡の前で絵里が顔をしかめる。


「もう決めたんだ。だって麻美は転校するかもしれないんだよ。あのまま放っておけないでしょ? わたしはね、もう脈がないってわかってるから、いいの。麻美の想いが吉永君に伝わるようがんばってみる」

「優花ったら……。わかった。そこまで言うなら、好きにしたらいい。どっちにしろ後は、吉永の気持ち次第ってことだから。もしもだよ、吉永がマミじゃなくて、優花が好きだって言ったら、ちゃんとその気持ちに応えるんだよ。いい? わかった? 遠慮はなしだよ。そんなニセモノの優しさの押し売りは、マミだって嬉しいわけないし……」

「絵里……。わかった。そうする。でもね、絶対にそんなことありえないから。1パーセントだって可能性はないよ。そうと決まったら、早く帰んなきゃ」


 絵里ったら、わたしが落ち込まないように気を遣ってくれてるんだ。なんでもわかってくれる親友がいると心強い。もっともっと麻美のためにがんばろうって、素直にそう思える。


 その後、すぐに麻美のところにもどり、それぞれの家の方向のバスに乗り込んで、ショッピングセンターを後にした。



 帰ってくるの遅かったわねと母さんにさんざん厭味を言われながら、食後の洗い物を手伝って、台所から解放されたのが八時頃。

 わたしは、自分の部屋のベッドに座って、カバンから取り出した携帯を手にする。

 吉永君に、あのことを告げるために。


 あれこれ文面を考えた末に、結局送ったメールはとてもシンプルなものだった。


 ──今から、一階エレベータ横の階段の踊り場に出て来れますか? 話したいことがあります。ゆうか。


 最後の名前は、「ゆう」で切ろうとして、やっぱり後から「か」を付け足した。だって吉永君に、これからもゆうって呼んでもらうのを期待してるみたいだもの。

 もし麻美との話がうまくいったら、吉永君がわたしのことをゆうって呼ばなくなるのも時間の問題だってわかってるしね。


 すると、すぐに着信を知らせるメロディーが鳴る。わたしは一呼吸おいて、そっと画面を開いた。


 ──わかった。すぐ行く。


 やっぱり短い。これが二度目の吉永君のメール。わたしはじっとその画面を見つめた後、昨日のと一緒に削除した。そして、登録していた彼のメルアドも……きれいさっぱり消し去った。



 わたしは母さんがお風呂に入っているのを確認して、そっと玄関に向かった。愛花は塾に行っている。仕事の忙しい父さんは、いつも十時を過ぎないと帰ってこない。

 わたしはこの願ってもないチャンスに、心の中でこっそりと感謝した。


 静かな階段をゆっくりと下りて行く。わたしの靴音だけがやけにはっきりと聞こえてくる。そして三階の踊り場でいつものように立ち止まり、吉永君の家の方向を見た。

 今夜で見るのは最後にしようと思った。明日からは、エレベーターを使おうとも。

 吉永君とはちあわせしないように、早めに家を出ればいい。そうだ、そうしよう……。

 

 わたしは、決意も新たに待ち合わせ場所に向かって、残りの階段を一気に駆け下りた。

 

 



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