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そばにいて  作者: 大平麻由理
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13.お願い。信じて。

「マミ……。部活、早く終わったんだ……」

「行ってない……。部活なんか、行けるわけない……。あたしは優花のこと、ずっと親友だと思ってたのに。なんで? どうして嘘なんかついたの?」


 麻美がわたしの方に一歩詰め寄るたびに、自動ドアが開閉を繰り返す。


「ちょ、ちょっと、あんたたち。そんなところで何やってるのよ。店に入ってくるお客さんの邪魔だよ」


 絵里が血相を変えて、わたしと麻美のところにやって来た。


「とにかく……。こんなところで言い合いしててもらちが明かない。外に出よ」


 絵里が麻美の腕を掴んで、店を出る。こうなることを予感していた絵里が、せっかくわたしを先に帰らせようとしてくれてたのに、とうとうその心遣いさえ台無しにしてしまった。

 仕方なく、わたしも二人の後をついて行く。


 ここは、大きな複合型ショッピングセンター内だ。各所に休憩コーナーがある。自動販売機がある一角のベンチにカバンを置き、わたしは麻美と向き合った。


「マミ。わたしは、その……。嘘つくつもりなんてなくて。たまたま、朝、マンションで吉永君と一緒になっただけなんだ」

「…………」

「ねえ、マミ。お願い。信じて。マミを困らせようとか、こっそり付き合ってるとか……。決してそんなんじゃないの」

「…………」

「マミ。ねえ、なんとか言って。わたし、わたし……。どうしたらマミにわかってもらえるの?」


 麻美は黙ったまま、わたしをじっと見ていた。時折、瞳が揺れるのがわかる。怒っているような、それでいてどこか寂しそうな目。

 わたしがわざとやったことじゃないにしても、こんなにも彼女を傷つけてしまったのは、紛れもない事実だ。どうしたらいいの?


「優花……」


 麻美がようやく、その重い口を開いた。


「あたしね、昨日あいちゃんが言ってたことは、何の根拠もない口からでまかせだって、自分にもそう言い聞かせたの。絵里も彼と優花は何でもないって代弁してくれたし。あたしの早合点だった、優花に謝ろうって、そう思ってた。なのに……。彼にカバンまで持たせて、いったい何様のつもりなの? あたしに二人の仲のいいところ、見せつけるつもりだったとしか言いようがないよね。それで親友だって言えるの? 信じられない……」

「そんなあ。見せつけるだなんて……」

「マミ。優花がそんな子じゃないって、マミも知ってるでしょ? 信じてあげてよ」


 わたしが言葉に詰まったのを咄嗟に察知した絵里が、助け舟を出してくれる。


「優花が病みあがりだから、吉永がカバンを持ってあげただけだって。そんな親切な吉永だからこそ、マミも彼のこと、好きになったんでしょ?」

「でも……」

「マミの気持ちもわかるよ。好きな相手が、違う女の子の世話を焼いてるのを見るのは相当辛いと思う。ただ、優花がわざとやったんじゃないってことだけ、信じてあげてよ。でないと、優花が、優花だって……」


 え、絵里っ! 言っちゃダメ! わたしが吉永君を好きってことだけは、絶対に麻美に言わないで。


「え、絵里。ありがと。わたしは平気だから。だって、麻美が怒って当然なことをしたんだもの。配慮が足りなかったよね。いくら同級生で、家が近所だからって、吉永君に今朝みたいに甘えるのはよくないよね。わたしがはっきりとした態度を取っていれば、マミを嫌な気分にさせることもなかった。これから気をつける。だから、お願い。もう、機嫌を直して。これからもずっと親友だって、そう言って」

「ゆうか……。そ、そりゃあ、あたしだって、優花がそこまで言うなら……信じる。だって、もし吉永が、体調の悪い子を見て見ぬフリするような冷たい人間だったら、それこそヤバイよね。……じゃあ、最後に一つだけ確認するけど」


 少しだけ頬に赤みが戻ってきた麻美が、念を押すようにわたしに言った。


「本当に、いいんだよね。あたしが、吉永を好きになっても。あたし、彼に気持ちを伝えるつもりなの。もちろん、すぐにうまくいくなんて思ってない。ずっと両思いになれないかもしれない。それでもいいの。思いを伝えないことには、何も始まらないし……ね。だって、あたしには、もう時間がないんだもの……」

「時間?」


 わたしも絵里も初めて聞く麻美のその言葉におもわず顔を見合わせた。


「どういうこと? なんで時間がないの?」


 絵里が麻美の首根っこを掴まんばかりに詰め寄り、問いただす。


「あっ、それは……」

「なんなのよ。言いなさいよ。あんただって人のこと言えないわよ。隠し事するのなら、吉永のこと応援してやらないから!」

「絵里! ちょっと、落ち着いて」


 わたしはムキになる絵里を、麻美から引き離した。


「絵里、優花、あたし……。来年、転校するかもしれないの。いや、転校させられそうなの」

「えっ……」


 あまりの衝撃的な告白に、わたしは絶句する。 


「今のままでは、パパの出た医大に現役合格が難しいかもって言われてて。今日の模試の結果と二学期の成績が思わしくなければ、来年から私学の医科歯科大特別進学コースのある高校に行けって。だからなんとしても今のうちに、彼に気持ちを伝えなきゃならないの……」

「マミ……」


 絵里も目を見開いて、呆然としている。

 なんでそんなことになるの? 麻美は今でも充分に成績がいいんだよ。しっかり学年で十番以内に入ってるしね。

 それとも麻美のお父さんの出身大学が、恐ろしく偏差値の高い学校なんだろうか。医学部のことはよくわからないけど、きっととんでもなく大変な道のりなんだろうなって、おぼろげにそう思う。


「マミ、わかった。わたし……。吉永君にマミのこと、お願いしてみる」


 麻美がはっとしたようにわたしを見る。


「な、何言うの? 優花、あんた何言ってるかわかってるの?」


 今度はわたしに絵里が噛み付いてくる。

 ……わかってるよ、絵里。わたしに出来ることはただひとつ。自分が言ったことに後悔はない。


 絵里の驚きの声が、その後、わたしの耳に何度も繰り返しこだました。




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