ウソの落ちる日
エイプリルフールのお話。
今日はエイプリルフール。
嘘をつくことが許される日。
今日、私は些細な嘘をついた。
「俺さ、彼女できたんだよ」
「……そう、なんだ」
「本当にお前のおかげだよ。ありがとう」
ボロボロのフェンスから見える外の景色を見ながら、彼は笑ってみせる。彼の笑顔は爽やかだ。
私がついた嘘は、何のことはない普通の嘘。
あの子が彼のことを好きだと、嘘をついた。
クラスでも人気の高い、可愛らしいあの子。
あの子から好意を寄せられているよ。
そんな簡単で単純で些細な嘘。
嘘だと思っていた。
嘘じゃなかった。
確かにあの子は、目の前の彼のことが好きだったらしい。
私は些細な嘘を話してしまった。
でも彼にとってはその事実は嬉しいものだったのか。
「見てくれよ」
そう言って見せられた2人のツーショット写真。
仲の良さそうな彼とあの子が、肩を組んで自撮りをしていた。ぎこちなさそうなのは、まだ付き合いたての2人だからなのだろう。
2人の仲を取り持った私の嘘。
それが今、私を苦しめるなんて。
嘘なんか、つかなければ良かった。
きっと彼の背を押してしまったのは私。
彼女に寄り添わせたのは私。
だから彼の背を今一度強く押す。
力一杯、一生懸命、気持ちを込めて。
ふわりとした浮遊感を彼は感じているだろうか。
ボロボロの穴あきのフェンスから、落ちていく彼を見て呟く。
「……嘘なら良かったのに」
涙が頬を伝う。溢れ落ちて地面に消えていく。
この涙のように、私の些細な嘘が消えて無くなってしまえばよかったのに。
覗き込むと微かに彼の口が動くのが見えた。
──嘘なんか、つかなければ良かった。
読んでくださりありがとうございました。