皿持参の腹ペコ少女
夜になった。
家に帰って、バジル様に踏まれた右足の甲に湿布を貼り、やっと落ち着いたところでお楽しみの夕飯タイム。
商店街にも行けていないので、家に余っていた数きれの豚肉と一口大にカットした野菜を炒めている。
こんな有り余りの食材でも、愛情を注いで丁寧に作ってやりゃ、なかなかの料理になる。
俺は人に作る料理はもちろん、自分に対して作る料理にも手は抜かない。
良い感じに熱が通ったところで、大皿に移す。
あとはまったりとテレビでも見ながら、肉と野菜のハーモニーを堪能するだけだ。
「そんじゃ、いただきま――」
ピンポーン。
……なんで最近、人が飯を食おうとすると邪魔が入るんだ。
ひとときの幸せは一旦お預けとし、玄関の前で待っているであろう来客の顔を見に行く。
「はい、何のご用です……か」
そこには、真っ白な皿を持ち、黒いローブを被って顔だけ出したティアラちゃんがいた。
パタッ。
よし、見なかったことにしよう。
俺は鍵を閉め、食卓に並ぶ自前の野菜炒めに再び向かい合うと、箸を持ってもう一度仕切り直した。
「いただきま――」
「いやー! 閉めないでお願い!」
……いくら気まずいからって、流石に酷かったか。
ゆーっくりと扉を開けて、彼女の様子を確認する。
「なんですか」
「もーおにぎりくん酷いよー!」
ローブを取り、制服姿のティアラちゃんが大皿をぶんぶん振っている。
「いやぁすみません。体が勝手に。……で? 何かご用ですか?」
その皿は何かな? と、目で聞いてみる。
「お昼、リロルが持ってきた野菜とかがあったじゃない?」
ミルクリゾットの材料にしたやつか。
「はい。それが何か?」
「あれ、勝手に使っちゃったことがバジルにバレて……お家追い出されちゃったの」
「え、マジですか」
バジル様、実の姉にもこんな厳しいのか……。
こうなると俺にもちょっと責任が出て来ちまうな。ティアラちゃんを助けるためとはいえ、料理をしたのは俺だし。
こんな可憐な女の子(皿持参)を追い返すのもなんだか良心が痛むし、一応俺、この人のファンだしなぁ~。
しゃーない。
「どーぞ」
俺はデジャヴを感じながらも、ティアラさんを家に招き入れた。
今回は銃も持っていないようだし、感情弾を突然ぶっ放される心配もないだろう。
「やったー! お邪魔しまーす♪」
「ティ、ティアラ様ー! ちょ! お待ちくださいー!」
「あ、リロルも追い出されたの?」
目を見開き、血相を変えて走って来たのは、昼と変わらず紳士用スーツを纏ったリロルさんだった。
相変わらずスーツ姿のくせに胸の揺れ方がおかしい。ぷっちんプリン並におかしい。
「だ、大丈夫ですか、リロルさん?」
「す、傑殿……。ご迷惑をかけて申し訳ありません。ティアラ様のことなのですが……」
「はい、とりあえず家に入ってもらおうかと」
「リロルも入れば?」
「い、いいのですか?」
息を乱しながら、俺に顔を向けるリロルさん。
ここでダメですとか言ったら、どんだけ俺鬼なんだよ。
「いいですよ。お茶もありますし、どーぞ上がってください」
ティアラちゃんだけじゃ詳しい話は聞けないかも知れないしな。
「かたじけない」
こうして俺のまったりした夕飯タイムは、始まることもなく終わってしまった。
8話目です!
皿を持った美少女に押しかけられたい人生だった……。