へそ姫との出会い
ドアを開けると、長物の銃を持った女の子がそこにいた。
「手を挙げて! ぶっ放しちゃうよ!?」
脊髄反射の如くスピードでハンズアップ。
静寂音傑、もうすぐ高校二年生。この俺の十六年と数ヶ月の人生が、今まさに終わろうとしている。
よし、OK。状況を確認しよう。
日も暮れてきた春の日。俺は春休み終わり間近というこの日を盛大に終わろうと、一人暮らしにも関わらず腕によりをかけてハンバーグを焼いていたんだ。
外はこんがり、中はじゅわっと肉汁たっぷり。俺の持つレシピの中でも特に得意なのが、このハンバーグ。
調味料やら細かい材料やらを丁寧に丁寧に下ごしらえして、二時間もかけて作り上げたものだ。調理者本人である俺ですら、見てるだけでよだれの止まらなくなる一品。後は盛りつけと、溢れ出た肉汁にオリジナルソースを絡めるだけの段階。
そう。その至福五秒前の瞬間に、けたたましくドアが叩かれたのだ。
今すぐにでもとろけるお肉様を堪能したいのを我慢して、口に唾液を溜め込みながらも接客しようと思ったら――コレだ。
「つーかあんた……皇ティアラじゃないか!?」
「な、なんで私の名前知ってるの?」
「なんでも何も……」
キャミソールにショートパンツ。ラフすぎる格好にアサルトライフルを構えたこの彼女こそ、今健全な男子の中で大流行中のグラビアアイドル、皇ティアラだ。
金髪蒼眼でハーフというスペックもさることながら、その爆弾級のスタイルはそこら辺のアイドルの比にならない。
ボッキュッボンとかはよく使われる言い回しだが、彼女はまさにそのボッキュッボンなのだ。
張りのある胸! 引き締まった腰回り! 程良く肉付きの良いお尻!
そして何より彼女を際立たせるのは、その中心にあるへそだ!
ティアラちゃん世界一へそが魅力的な女性として大ブレイクしている。
世界七十億の人類のうち、その半数以上が認めたと言われる奇跡のへそ。
その価値はもう世界遺産と言っても過言ではない!
女性の魅力としては、さっきのボッキュッボンの他に、細くて長い脚などが上げられるだろう。
だが、ソレがどうしたと嘲笑うかのように、彼女のへそはとにかくエロい!
正確に言うとその妖艶さは、下乳からデリケートゾーンに行くまでの女性的なラインなわけだが。
つつきたくなる膨らみはもちろん、そこから続く撫でたくなるような曲線。言葉にするのももったいないほどのエロス! 男の欲望を掻き立てんばかりのぷにっとした柔肌は男だけでなく、女性までも虜にしたという噂だ。
彼女のせいで、否、おかげでへそフェチに目覚めた人間が何人いるだろうか。何を隠そう、この俺もその一人で、皇ティアラの大ファンでもある。
そんなわけで、彼女の正体に気付いた俺には恐怖半分、興奮半分、それと溢れ出るよだれが混在している。
ところで、このグラドル様はなぜ俺の家の前なんかで銃器をぶっ放そうとしているわけだ? なんかのイベント? 一般人の家来てこれってどういう企画だよ。
「あのぉ」
「な、何?」
「何しに来たんですか?」
「そ、それはぁ、あれよ。……あれよね?」
「どれです?」
「もう、つっかかってこないでよ! 本当に撃っちゃうよ!?」
「すみません黙ります」
ダメだ。結局全然分からない。
あれ? あれとはなんだ? 業界用語で言うところのザギンでシースーとかそういう類いのあれなのか?
とにかく、彼女の目的が分からない以上、今はこの人を怒らせるのは得策ではないな。あの銃がモデルガンという可能性は大いにあるが。
ならどうすればいい? 映画や漫画なんかではだいたい何か要求してくると思うんだが、その素振りも……
くんくん。
その素振りも……?
くんくんくんくん!
素振り……。
くんくんくんくんくんくんくんくん!
すっげー素振りしてたわ。
なんかよく分からんが、さっきからずっと鼻をひくらせてやがる。
……それにしても顔ちいせぇな。なのに鼻とかはしっかりしてて、流石はハーフ。
ファンタジー世界のエルフを思わせるような顔立ち。
神秘の中に天然な感じもあって……なんつーか反則だよな。
「あなた!」
「はい!」
やめて! 銃口を胸に当てないで! 本物じゃなかったとしても結構恐いから!
「この美味しそうな――じゃにゃくて、お肉を焼くような匂いは何! しかもこんなに脂たっぷりそうな……!」
ぺろっと舌を出してよだれを舐めながら言われた。唇が濡れているのをこんなときなのに凝視しちまう。そのおかげで恐怖は半減したが……まさかこの人、食い物強盗か?
ここ最近の深刻な食料問題のせいで、食目的の犯罪者が民家に入っては食事を要求するという事案が多発しているらしい。うちに押しかけてきたのも、実はティアラちゃんが初という訳ではない。
大体そういう人たちは、素直に食事を分けてあげると満足して出て行ってくれるのだが、この人は食事に困るようなたまか?
今人気絶頂のグラビアアイドルだぞ? 俺の家なんかに来なくたって、それこそザギンでシースーも夢じゃないくらい稼いでてもおかしくないと思うんだが。
「ハンバーグ焼いてるんですよ。ちょっと奮発して……良ければ食べていきます?」
「ほんとに!?」
あ、へそが見えた!
薄っぺらいキャミソールだから、少し跳ねたり動いたりするだけでへそがちらちら顔を見せてくれるんだよな。
人呼んで第二の谷間。胸に劣らず、そのくぼみには多くの夢が詰まっているんだ。それがちらちらと見えるんだから、こっちとしてはたまったもんじゃない。たまったもんじゃないというのは理性的なこともあるのだが……俺の体質的にもちょっとなぁ。
「ほんとですほんとです――あ、ううおおおぉ……」
や、やばい……!
「え、どうしたの!?」
「な、何でもなんおおおおおおおおおおおお!?」
「ちょっと君大丈夫!?」
腹を抑えて丸まる俺を心配してか、ティアラちゃんが前屈みになって様子を見てくれる。
し、心配してくれるのは天にも昇れるくらい嬉しいんだが、その体勢は俺の体調をさらに悪化させるからダメ!
実は俺、エロい気分になると腹壊すみたいなんだよね。
くそっ! へそも胸の谷間も目の前にあって夢みたいなのに、この状況を楽しめないなんて……!
「だ、大丈夫です。そ、それよりハンバーグのこと、、俺は気にしませんよ? ティアラちゃんとお食事するなんて、なかなか出来ることじゃないし。何より――」
皇ティアラと食事とかどんなご褒美だよって話ですよ!
「ほんとにほんと!? ……誰にも言わない?」
おうふ。
俺の首から上をなぞるように見上げられると、ちょうど良い感じに上目遣いになるんだよな。その動きがまた無邪気なのに隙があって――いや、無邪気だから隙があるのかもしれないが。こんな頼み方されて断れる奴いんのかよ。もっと見つめてくださいお願いします。
ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる。
あ――で、でも、お手柔らかにぃ……。
こんなときにトイレの住人になるのはヤダ!
チャンスをものにするのが俺、静寂音傑だからな!
「はい! 今日のことは、この俺の心の中に留めておきます! ですから是非中へ!」
扉の横に立ち、ちょっと散らかっている我が家に誘導する。
ティアラちゃんは周りを確認するように少し辺りを見渡すと、銃を背中に回して背負い、俺に向き直った。
どうぞどうぞと、工事現場のお兄さんバリに手を振って家に招き入れようとする俺。
だが、その横を通り過ぎようとした――刹那。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて。ありが……あ、あれ?」
「ティ、ティアラちゃん!?」
元気だった彼女は一度ふらりと一歩踏み出したのだが、膝からゆらゆら崩れ落ちるように倒れてしまった。
なんとか床へ衝突する前に抱きとめたが……やっぱキャミソールはダメだって。
これってやっぱ観賞用だよな。触るともうほんと……何度も言うけどダメだって。
いろいろ抑えるのに理性を削りまくることになる。いろいろってのは、男なら分かるだろう。
さらに、腹の調子が順調に悪くなってやがる。
早くなんとかしねーと。二重の意味で。
ぐったりとしてしまった彼女を、さながらロミジュリのクライマックスのように抱き起こす俺。ロミオの腕めっちゃ震えてるけどな。
決して彼女が重いとかじゃない。むしろ軽すぎる。震えてるってのは匂いとか、へそがやっぱり見えちゃってるのとか……ね。
もう勘弁してくれ。ある意味拷問だよ! ロミオもジュリエットの可愛さでこの世に未練なくなったから死んじまったんじゃねーの!?
「お腹……空いたぁ」
一言呟いて気絶してしまった彼女を、俺は人生初のお姫様抱っこで部屋に連れて行った。
どこ持ったら良いのか分かんないんだけど。
この危険物(いろんな意味で)どうすればいいかな。
初めまして&お久しぶりです。
蒼真晟仁です。
こちらの作品は僕が専門学生だった頃に書いた作品です。
なのでストックがあるので、新作書き終えるまでの場つなぎ的な感じで更新します笑
一応力作なので、読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願い致します!