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シフォン【閉鎖的アナザーワールド】:姉妹百合カプと幼女と七五三

「こんにちは〜」


 ゆうさんが扉を開けると、受付の女の人が笑顔で挨拶してきた。


「予約していた、倉田くらただ」

「あっ倉田くらたさんですね。お待ちしておりました。本日は、七五三のお写真を撮るということで」

「ああ」


 すっかり空気も冷えて秋も終わりが近づいてきた今日。わたしは、ゆうさんとふうさんと一緒にわたしの七五三の記念写真を撮りに写真屋さんへ来ていた。


「それじゃあ、まずは娘さんの衣装合わせから始めますね。……こんにちは。お名前、言えるかな?」


 受付に立っていた女の人が、しゃがんでわたしに聞いてきた。


「……倉田歩優くらたふゆ

歩優ふゆちゃんね。何歳かな?」

「……七歳」

「しっかり言えてえらいね〜。じゃあ、これからお姉さんと一緒にお着替えしよっか」

「……」



 ◆



 一着目は、真っ赤な生地に金色の模様が入った着物。


「いやぁ〜ん、チミが歩優ふゆちゃんねぇ〜! 超CUTEでSO可愛いじゃな〜い! すっごいワシのタイプなんだけどぉ〜! ……じゃあじゃあ、そこの白ぉ〜い壁の前に立ってくれるかしらぁ〜ん? チミのVERY-VERY素敵なお顔をカメラに見せてあ・げ・て?」


 青いモヒカン……のおじいさん……(?)に誘導されて、わたしは背景になる白い壁を背にしてふわりと立った。おじいさんはカメラを構え、ニコニコしている。


「じゃ、まずはい・ち・ま・い・め! ちょっと眩しいかもぉ〜ん」


 フラッシュがたかれて、わたしは光に包まれた。


「ん〜ステキ! もう一枚いくわよぉ〜ん!」


 再び、まばゆいフラッシュ。


「いやぁ〜ん!」


 もう一度、フラッシュ。


「ああぁ〜ん、最っ高っ! ばっちりよ! 次の衣装、イっちゃいましょ!」



 ◆



 二着目は、ひらひらのレースがたくさんくっついた白いワンピース。


「いいわよぉいいわよぉ〜! もっともっとチミのSMILEをカメラに見せてちょうだい!」


 おじいさん(?)に言われた通り、今のわたしが出来る程度の笑顔を作った。そしてそのすぐあとに、何度もフラッシュに包まれる。


「……親がこんなでも、綺麗な笑顔だな」

「……きっと、器用なお姉ちゃんに似たんだよ」


 両親が、おじいさん(?)の横でそう言っているのが聞こえてきた。……別にわたしも、笑いたくて笑っているわけじゃない。「笑って」と言われたから。


「あああぁんっ! チミの輝きで、ワシの頭の中がゲシュタルト崩壊寸前よ! どこまでワシを萌えさせる気!?」


 おじいさん(?)のテンションは、下がることを知らない。


「それじゃあ次ね! 次はお母さんと、おと…………おと?」


 おじいさん(?)は両親を見た途端、まるで石像のように固まってしまった。


「……」

「「……」」

「……」

「……」


 その場にいた、おじいさん(?)、ゆうさんとふうさん、受付の女の人、そしてわたしの五人全員の動きが、停止した。


「……おと…………お母さんね! 二人とも、お母さんなのね! 完全に理解したわ!」


 この静けさを変えたのは、おじいさん(?)だった。


「最後は三人揃って、お写真撮りましょ!」


 おじいさん(?)はすぐに調子を取り戻して、なにか言いたげなゆうさんとふうさんをわたしの両隣に立つように誘導した。


「イっくわよぉ〜〜ん!」


 わたし達三人は、まばゆいフラッシュに包まれた。

 わたしはカメラの方を向いていたから、両親がどんな表情をしていたのかはわからない。

 白い光、白い輝き。わたしはそれに、以前見た白い棒の反射を重ねた。


『世界が滅びかけるようなことになっても、君は君のままでいる自信があるか?』


 白い棒を持った、あの女の人の言葉が、ふとよみがえる。

 わたしはあの言葉の意味がわからなかった。そしてそれは、今も変わらない。

 わたしはわたしだし、わたしのままでしかいられない。わたしが、わたしのままでいることで、両親が喜んでくれるなら。


 わたしは、わたしのままでいい。

 わたしは、わたしのままがいい。

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