シフォン【閉鎖的アナザーワールド】:ふゆの温もりを感じて
私の目の前には、白い杖をついて歩く一人の少女。その少女を驚かせようとして、私は一気に距離を詰めた。
「しぃ〜いぃ〜なっ! だ〜れだ?」
「いや明梨だろ? その声でその呼び方してたら、さすがに『目が見えなくても』わかるわ」
椎名にそう言われて、私はゆっくりと椎名の目を覆っている自分の手を放した。
「うーん、バレたかー」
「嘘つけ。敢えてわかりやすく言ってるくせに」
「そこまでわかってたんだ〜」
「当然。……もう、いいのか?」
「…………うん。もう、いいや。邑様には、妹さんや娘さん、それにお母さんがいる。純粋な意味で、愛情を分かち合える家族がいる。邑様は、幸せになってくれたから。……だから、見守るのも今日で終わり」
「そっか。……そんじゃ、あの二人に……佐久間茜と桜田明日菜にそのことを報告しに行くか。…………にしても物陰からあの家族を見てたとき、明梨泣いてたんじゃねーの?」
「なんでわかったの!?」
「いやホントに泣いてたのかよ」
「も、もう……行くよっ!」
呆れる椎名の手をとって、私達は未来へ歩きだした。川を渡る、そんな未来へ。
「…………体の抵抗力を弱めて寿命を縮めるつもりでタバコ吸ってたら、まさか失明するとは思わなかったわ」
「私は肺がんだもーん」
「いやどっちもどっちだろ」