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シフォン【閉鎖的アナザーワールド】:帰る場所

 私、倉田邑くらたゆうは、星花せいか女子学園という私立の中高一貫校で用務員として勤務している。やることも多いし、決して楽な仕事ではない。……けれど、私は働かなければならない。大切な家族のために。



 ◆



 とある事情から、私は母子家庭のもとで過ごしてきた。一時期は妹と険悪な関係になってしまっていたが、妹の純粋な心で、私は少しずつ前を向くことができた。いつしか、私と妹は姉妹という関係を超えた域にまで発展していった。


 そんな、ある日のことだった。


 世間で、奇妙な熱病が蔓延した。それは、女性にのみ感染し、発症した女性は、高熱が出たあとに自身が肉体関係を持った女性との子どもを妊娠する、というものだった。しかし、ニュースや新聞ではあくまで噂程度にしか捉えられていなかったため、その熱病に対しての理解が広まることもなく、次第に落ち着いていったその熱病もやがて都市伝説として消え去ろうとしていた。


 そんな折、妹のふうが、私との子を妊娠した。私もそのことを妹から聞いた時は驚いたが、妹が体に違和感を感じ、母の助言もあって既に産婦人科で確認してきたという。


『お姉ちゃんに、今まで以上に迷惑をかけるかもしれない。けれどわたしは、お姉ちゃんの子どもを産みたい。お姉ちゃんと、もっと繋がっていたい』


 この妹の言葉に胸を打たれ、私はひとつ、覚悟を決めた。


 苦痛との激闘の末、妹は元気な女の子を産んだ。妹の案を尊重し、子どもの名前は「歩優ふゆ」になった。


 それから、妹は少しずつ変わっていった。今までは私がやっていた家事を自らするようになったり、色気が……出てきた。


 あぁ。子どもを産むと、人はこんなに顕著に変わるものなのかと驚いた。


 なにより。


『お姉ちゃん、おむつ持ってきて』

『お姉ちゃん、歩優ふゆのご飯の準備をしよう』

『お姉ちゃん、高い高いしてあげて』


 妹は泣き声ひとつで、歩優ふゆがなにを求めているのかわかってしまうのだ。私にもある程度予測はできるのだが、妹の言葉を聞かない限り、確証を持つことはできなかった。


 ……同じ女なのに、産むのと産まないのとでは、こんなにも違うのか。私はそう感じ、なんだかおいてけぼりにされてしまいそうな気さえしてしまっていた。


 そんな私の心を癒してくれたのも、他ならぬ妹だった。なんと言うべきか、妹には母性と表現して差し支えないようなものが芽生えていた。慈愛に満ちた包容力は、私達家族を優しく包み込んでいった。


 妹に支えられて、そしてそんな妹を私が支えて。二人三脚で……いや、私達の母である麻子あさこさんと三人で、これからも愛娘の成長を見守っていきたいと思う。


「……ただいま」


 自宅の玄関の扉を開けると、娘と妹が出迎えてくれた。私を見た妹は、安心したような表情だった。


「……おかえりなさい、ゆうさん」

「…………お姉ちゃん。今日も無事に帰ってきてくれて、ありがとう。おかえりなさい」

「……ああ」

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