シフォン【閉鎖的アナザーワールド】:紅い頬のアルバイター
『かえりにニアマートでニャーニャースナックのハバネロスパークリングあじをかってきてください。あと、ふうさんがいつものコーヒープリンもほしいといっていました』
娘の歩優にそうメールで頼まれた私、倉田邑は、仕事帰りにコンビニ「ニアマート」に寄っていた。
「……これだな」
目的の物を見つけ出し、レジに向かおうとしたとき。
「あぁん!? 俺がいつものっつったら、『マイルドスターク』に決まってんだろ!? 客の好みのタバコくらいさっさと用意しろってんだよ!」
「も、申し訳ありませんっ!」
「……おい、客を怒らせたんだ。タダにしろよ」
「……え?」
「当然だろ? それが、社会のマナーって奴だ。お前も店員なら、それくらいわかるよな?」
「そ、そんな、困ります!」
「いいからさっさとしろ!」
女性店員が、チンピラ風の若い男に絡まれていた。女性店員は頬を赤らめ、今にも泣き出しそうになっていた。
「……マナーのわからない奴には、お仕置きしないとなぁ…………」
「…………なら、お前がマナーモードになるんだな」
「あ? むぐっ!」
私は男の背後から声をかけ、振り向いた直後に持参していた手ぬぐいを使って素早く男の口と四肢を拘束した。男は床に倒れ、じたばたともがいている。
「んー! んー!」
「……あとの処理は任せる。それと、先に私の会計を済ませてくれないか」
「あ……ありがとうございました!」
まだこの仕事を始めて間もないのだろう。「研修中」のシールが貼られ、「江川智恵」と印刷されたネームプレートを身につけていた女性店員は、慣れない手つきで私の会計を行っていった。
そしてその頬は……まだ少し、赤らんでいた。