シフォン【閉鎖的アナザーワールド】:粗暴な祖母
わたしのお婆さん……麻子さんは、いつもテレビゲームをして過ごしている。
ずっと居間のテレビを占拠しているから、わたし達親子は携帯電話のテレビ機能を使うか、寝室のテレビを使っている。
今日も麻子さんはムスッとした表情で、ゾンビと戦うゲームを次々とクリアしている。
「……邑さん」
「どうした、歩優」
お仕事がお休みでわたしとつみきで遊んでくれている邑さんに、ふと思いついたことを聞いてみた。
「どうして、麻子さんはいつもゲームをしているの」
「……昔……私と楓が小さかった頃、ひどく傷つくことがあって、それ以来なにもしたくなくなってしまったんだ」
「……なにも?」
「……ああ。前は、あんな感じじゃなかったんだ」
そう言って、邑さんは麻子さんを見つめた。
「……慰めてくれる人は、いなかったの?」
「それは…………」
邑さんは、わたしの質問に答えづらそうだった。
「……お母さんが傷ついた引き金が、わたしとお姉ちゃんだったから」
その質問には、洗い物をしている楓さんが答えてくれた。
「……お爺さんは?」
「…………」
「……お母さんも、お姉ちゃんも、会いたくないから、だめ」
「わたしの、ひいお爺さんとか、ひいお婆さんは?」
「……みんな、もう死んでる」
「……そうなんだ。……写真とか、ある? どんな人達か、見てみたいから」
「……私から見て父方の方は無いが、母方の方なら……。ほら、この二人だ」
邑さんが見せてくれたのは、古い新聞の「すくらっぷ」……だった。
「……読めない」
「漢字が多いから、歩優はまだ読めないだろうな」
まだ六歳のわたしには、記事のタイトルにある「長」という字しか読むことができなかった。ほかにも小さく「大」とか書いてあって読めそうなところもあったけれど、難しい言葉が多くて、中身は理解できなかった。
「……おい」
そんな話をしていると、麻子さんが画面を見つめたまま話しかけてきた。
「昔の話なんかしてんじゃねぇよ。胸くそ悪い」
「…………ごめんなさい」
「……悪い」
「……………………ごめんなさい」
わたし達親子は、みんなで謝った。
「……麻子さん」
「……」
「……麻子さん」
「……んだよ」
「……一緒に、ゲームしてもいい……?」
「……一回だけだぞ」
わたしが振ってしまった話題だから、わたしが終わらせることにした。
立ち上がろうとするわたしに、邑さんが「悪いな。この話は今度ゆっくりしよう」と書かれたメモをそっと渡してくれた。