シフォン【閉鎖的アナザーワールド】:悲しい姉妹の娘
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わたしの家族は、いつも何かから隠れるように暮らしている。
「……じゃあ、そろそろ行ってくる。楓、歩優」
「……待ってお姉ちゃん。……はい、お弁当」
「……ん、悪い」
「……また、感想聞かせて…………」
「ああ、いいぞ」
「……邑さんも、お仕事気をつけてね」
「……ああ。……いってきます」
「「いってらっしゃい」」
わたしと楓さんがそう言うと、邑さんはわたし達の頬に優しくキスをして、お仕事に行った。邑さんは、学校の「ようむいんさん」をしている。難しいことは、よくわからない。
わたしの名前は、倉田歩優、六歳。倉田邑と、倉田楓の娘。わたしは「邑さん」と「楓さん」と呼んでいる。だって、どっちも「お母さん」だから。
「……歩優」
「なに? 楓さん」
「これから、洗濯しようと思うんだけど……手伝ってくれる……?」
「……うん。一緒に、やろう」
◆
「……楓さん。……それ、畳み方違う」
「……?」
「これはこうして……こう」
「……ありがとう、歩優」
「……うん」
楓さんは、あまり家事が得意ではない。服の畳み方もそうだけれど、料理も。今朝、楓さんが邑さんにお弁当の感想を求めていたのも、自分が作ったおかずのどこがどう美味しくなかったのか、アドバイスをもらうため。
「……お前ら、うるさいぞ。静かにしろ」
「……」
「……」
「……ったく。ガキがガキ産んでんじゃねぇよ、クソが」
「……」
「……」
「……麻子さんも、一緒に洗濯物…………」
「あ?」
「……なんでも、ない」
「はっ」
わたしのお婆さん……、倉田麻子はそう言ってわたし達を威嚇すると、またテレビゲームを始めた。
「……ごめん……なさい」
「楓さん……?」
「……お母さんにも、お姉ちゃんにも、迷惑かけるってわかってたのに…………。それでもわたしは、お姉ちゃんと繋がっていたくて……」
「楓さん……」
「……耳障りだ。今すぐその口を閉じろ」
「……」
「……」
楓さんは……よく、泣いていた。
わたしは、そんな楓さんの背中を撫でることしかできなかった。