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「我は【魔王】である!この憎い世界を絶望の渦に変えるため!この憎い世界を滅ぼすため!神より遣わされた使者である!」
「逆らう者には地獄の苦痛と死を!従う者には永劫の安寧を約束しよう!」
俺ーーーユキムラは【魔王】になった
ものすごい力を神に授かったのがわかる!
俺は生まれ変わったんだ!
手始めに目の前にいたジャイアントスライムを素手で八つ裂きにした!
それから!ここの鉱山のクズどもを皆殺しにしてやった!
ここの監督には地獄と思えるような責め苦の末・・八つ裂きにしてやった!
それから!あの女!
将来を誓い合ったはずのあの女!
最後は貴族の男に胸を揉まれながら!ケラケラ笑いながら!俺をハメて奴隷商に引き渡したあの女!
あいつは貴族もろとも内蔵を全部引き出して殺してやった!
女は最後まで『心はいつもあなたと共にありました』とかワケのわからない命乞いをしていたから!
それはもう丹念に内臓という内臓を引きずりだして殺してやった!
全ての復讐を終え、『お前の城だ』といって神に渡された魔王城に帰ってきて一つ確信した・・
今の俺ならなんでもできる!
まずは手始めに・・・これまた神にもらった神器『永久水晶』を使って!
世界中に『俺』という恐怖を発信してやる!
ーーーーーー
「いやー。この1週間、ユキムラ君。過去の復讐を終えたと思ったら・・魔王城に戻るなり、いきなりこれですもんね~。まさに電光石火!こりゃ~相当ヤル気に満ちて・・・って!どしたんですか!」
「・・・・神技<時間逆行>。対象の世界の時間を等価で巻き戻ーーー」
「ちょ!ちょっとそこ!!何、無かったことにしようとしてるんですか!!これ、間違いなく面白くなりそうなのに!?ウソでしょ?ウソですよね?冗談キツイですよ?」
「冗談でもなんでもない・・・おい、これを見てみろ。愛しのユキムラ君の国のステータスだ」
「魔王家ーーー人口52。兵力・・1!」
「ああ」
「兵力1!1って!あっ・・ププ・・・」
「ああ、1だな」
「プププ・・・プハッ!ブワハッハッハッハッ!!これって!ユキムラ君しか戦うヤツいないじゃないですか!」
「・・・」
「アーハッハッハッハッ~~!・・・ヒィ~ヒィ~・・・フゥ~フゥ~」
「脳筋魔王、ここに極まれりだよな。・・とにかくこれは非常にまずい。非常に。最終的にはユキムラ君には滅びてもらうが」
「その過程が、大事と」
「いかにも。まずは俺の世界。東部は大小様々な国があれど・・・おおまかに分けると3国だ。3国。わかるか?」
「豊富な海資源を元に発展した海洋大国、イマガ家。不利な地形の山間部ながら優秀な人材を擁する騎馬大国、ダクダ家。そして・・豊富な農業資源を元に最も栄え最も平和的な大国、ホージョー家。」
「あとは小国は数あれど、な。とりあえずはこいつら3国に・・3国ともいがみ合う三国志ってヤツをしてもらいたいわけだ。しかしまあ・・・俗にいう第3勢力ってもんがいたほうが更に面白くなるだろう?」
「まあ拮抗・・戦況の長期化。膠着はしますよね。これがただの3国同士の争いなら。いづれ1国の勝者が出るでしょうが」
「わかってるな。そうなんだよ。それで3国同士の国境のちょうど中心点に魔王城を建てたわけだ。それも、およそ人間どもには懐かないとびっきりの狂犬を頭に据えてな。」
「3国の各国は他国に攻め入ろうにも【魔王】の脅威に兵を割かねばいけない。休戦同盟なんて結べるワケも、ない。結果的に」
「他国を壊滅させうる決定的な兵力・・は、起こせない。起こせるはずもない。天下分け目の大決戦とかな。長年にわたって小競り合いだよ。小競り合い。」
「大決戦とか聞こえはいいですけど・・1回ポッキリですもんね~。その後の平和になっていく味気なさといったら・・」
「ああ。1回見てみたい、ってのもあるがなあ。決戦は平和・・天下泰平に近づく限りなくタブーな物件だ。」
「その点小競り合いはまさに現状維持・・それも至る所で血で血を洗う小規模な争い!これを毎日見れるワケですか!ムフッ」
「お前本当に【創造と平和の女神】か?とにかくだ。とにかく。この事態は非常にマズイ。第3勢力のユキムラ君、ソッコーで滅ぼされてしまうぞ」
「いーんじゃないですか?新しく【魔王】創れば。アレだけの逸材を手放すのはちょっと残念ですが。ユキムラ君・・君のことは忘れないーーー」
「ダメだ。ダメ。絶対ダメ。ほら、魔王城の中にあるとびっきり純度の高い魔力鉱山の存在だ。こんなの3大国の一つが握ってみろ?」
「あー」
「そうでなくとも俺の創った魔王城自体がとんでもない代物なんだ。天下の名城にして堅城。籠城しちまえば、とても落ちる城じゃ、ない。」
「ただでさえデカイ大国が神様お手製の魔力鉱山と名城を手にする・・・おお~こわ」
「その後に待ってるのは蹂躙という名の世界統一・・ひいては天下泰平だ。そうじゃねえんだよな。ああいうのは小国が持ってこそふさわしい」
「やっぱり魔王国を大国にして~からの~サクセスストーリー!って路線は無いわけで?」
「ああ。あくまで魔王国は第3勢力。チート級の資源と城で『自国を守る分には問題ないが他国へ攻めるには人手が足りない』っていう小国だ。さすがに今の人口と兵力はマズイが・・・ユキムラも下手に色気を出さないように政治力を抑え目にしたしな。だがあれは脳筋過ぎだ。戦力が整わないうちから世界各国に魔王宣言しちゃったよ」
「わたくし達がこの1週間で創った・・魔族10人。あなたの世界では充分優秀ですが。この人数で防衛・・はさすがムリがありますか」
「ああ。いや、礼を言うよ。俺の世界なのに手伝ってもらってな。こんな事態ならなおさらだ。そしてその魔族10人は裏方で使う。さしずめユキムラ十勇士、というところか」
「と、いうと?」
「暗殺、だ。」
「暗殺・・ですか?」
「ああ。全てをひっくり返す裏技。これが一番萎える。ユキムラ君には跡取りなぞいないしな。てか新興国だしな。跡取りいようがいまいがユキムラ殺っちまえばそれで終わりだろ」
「・・!たしかに」
「・・・と他国もまずは考えるはずだ。その国々の勇者とやらを派遣しての暗殺。成功すればだが・・・たしかに手っ取り早い。コストかかんねえし、その後の『利権』も声を大にして主張できる」
「うわっ!萎えますね~」
「・・・させねえよ。俺らの創った魔族10人。これで食い止める。だから裏方だ。各国の刺客・・・勇者どもを散々殺したところでーーーようやく国々も重い腰をあげるはずだ。必ずな」
「そしていよいよ表舞台の兵を挙げての『戦争』ですね!」
「俺の計算だとその『戦争』だが・・・諜報兵による魔力鉱山の存在が各国に知れ渡るのに1週間。戦の仕度やらなんやらで・・・3週間。計、1ヶ月そこらで大国が枚挙してくるわけだ。有能な当主ならもっと早いだろ」
「1ヶ月!あっこれ・・結構マズイですね」
「で、だ。愛しのユキムラ君を守るためには。この1ヶ月で最低でも人口5000。兵力は500をキープしたい。最低でだ。・・・ムリだろ」
「アッハッハッ~!そりゃムリっすよ~ムリムリ」
「やっぱムリだよな。神技<時間逆行>。対象の世界の時間を等価で巻き戻ーーー」
「ちょっと待てーーい!」
「うおっ!」
「無かったことにするのは逃げ道!神様の悪い癖!ダメ!絶対!!リセット禁止!代償ハンパない!」
「なんなんだよ・・ったく。大体。この前天使に聞いたぞ?お前の世界でお前・・・何百回とこの時間逆行ーーー」
「ストーーーープッ!!・・・気付いてしまったんですよ。やっぱりズルは良くないって。これからは誠心誠意ーーー」
「なんなんだよそれ。やっぱ俺、使うからな。神技<時間逆行>。対象の世界の時間を等価で巻き戻す。2週間戻すか。代償に俺のこれからの『2週間』を虚無の間で過ごす」
「・・・」
「・・・」
「・・・ムフッ」
「は?えっ?発動しないんですけど?何?このパターン?ありなの?これ??」
「ムフッ。実は、実はですね。わたくし使い過ぎてですね。スキル神にスキルの概念ごと封印されちゃったんですよねえー!<時間逆行>マジ便利。ちょっと焦りました?ねえねえちょっと焦りました?」
「・・・」
「やっぱりわたくし達は似たもの同士なんですよねえ~。ダメだダメだと言われる程やりたくなるタイプ。ププ・・笑い堪えるのに必死でしたよ~今か、今かと思いながらーー」
「(コイツ、マジで殴りたい)フン・・・他にも方法はある」
「と、いうと?」
「俺が直接行くしかあるまい。人口や兵力、その辺の内政をだな。それにな。元はといえば俺の責任でもある。【魔王】の認識の違いが悪い目にでた。具体的な兵力などを確保してから魔王宣言しろ、と強く言うべきだった。・・・自分のミスは自分で取り返すか。まあ見ていろよ」