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「~で・・~あるので・・~さんは・・あちらのほうに~・・」
「へい! わかりました内政奉行様。ところで道具は『コレ』をですかい?」
(ついに内政。『灌漑整備』が本格的に動き始めた)
「それは~・・のところに~・・あとこれは~・・」
「へい! わかりました内政奉行様。ところで道具は『コレ』をですかい?」
(ククク・・内政奉行の金髪美少女マリア様様よ。その小柄な体でいつまで耐えられるかな?)
「ですから~・・のところに~・・それとあと~・・」
「へい! わかりました内政奉行様。ところで道具は『コレ』をですかい?」
(ええ? 気の弱い儚き少女さんよ? ブラック企業も真っ青なくらいこき使ってやる)
「『コレ』つってんだろ!! わ・か・り・ま・す? 『コレ』です『コレ』! 耳付いてるんですよね!?」
シーーーーン・・・
「へ、へい。すいやせん・・・」
『・・・』
(な、内政は順調にしても軍事がな)
「もっとだ! 土嚢をもっと素早く積み上げるんだ! 敵さんは待ってくれないぞっ!」
「へい! 【魔王】様。ところで土嚢は『コレ』をですかい?」」
(ユキムラ君・・【魔王】自ら調練。暗殺の観点から出来れば避けたかったがーー)
「そんなんじゃヤラれてしまうぞっ! 『土嚢積み』をあなどるなっ! 時に生死を左右することにもなるんだっ!」
「へい! 【魔王】様。ところで土嚢は『コレ』をですかい?」」
(狂ったように打ち込んでやがる・・何かを必死に忘れようとしてるのか)
「そうじゃないっ! いいか? こうやるんだっ! これを素早くやるんだっ!」
「へい! 【魔王】様。ところで土嚢は『コレ』をですかい?」」
(【魔王】はたしか『統率』92。調練に使うには贅沢過ぎる数値だが。今のアイツを止めることは・・)
「出来たな」
「へへっ。出来ましたね」
デーーーーン・・・
『うん・・こ?』
「君はっ・・! ハハッ違うよ違う。これは『土嚢積み』だよ?『土嚢積み』の調練」
『お前。今『出来た』って言ったよね?たしかに言った』
「ーーー【魔王】様。【ダグダ国】より使者が参りました」
「『!!』」
(ついに来たか! しかし早すぎる・・!)
「ーー分かった。すぐ行く。君も・・来てくれ」
カラカラカラ・・・
カラカラ・・・
魔王様のオォ おな~り~
「お初にお目にかかる。【ダグダ国】の使者『カンスケ』と申す」
「そうなんだ。あの大国【ダグダ国】ねえ? でさあ何? 早速国ごとくれちゃったりするのかなあ?」
「なっ・・・!」
「見れば手ぶらだし・・大国の使者さんがだよ? ありえないでしょ。だったら・・降伏かなあ?って」
「言わせておけばっ・・!」
「【ダグダ国】も対したこと無さそうだなあ? こんな疲れたオッサン出してきて。降伏するんならまあ。オッサンは奴隷として使ってあげるよ」
「・・・!」
「でさあ結局何?」
「スゥーーー・・」
「?」
「・・今すぐ【ダグダ国】に降伏せよ。悪いようにはせん。つまり属国だ」
「呑むと?」
「呑む呑まないではない。お主の国を見た。ヒドイ有様だ。まるで子供か何かが道楽で作った国。国として成り立っていない」
「ふうん・・で?」
「今ならまだ間に合う。我が国に従え。我が国ならお主の持つ『魔力鉱山』もうまく運用できる」
「・・・」
「平和的に解決しようじゃないか」
ピク・・・
「平和的?」
「いかにも。この世は一つの神の名の元に平和に成り立っておった。だがお主が世界に向かって世迷い事を言い出した」
「・・・」
「滅ぼす、と。結果乱れてようとしている」
「おいっっ! 使者さんのお帰りだぞっ!」
「待てっ! お主の国は滅びるぞっ! この国の民はいいのかっ! 戦争になったら間違いなく・・すぐにだっ!」
「滅びないさ・・滅びやせやしない」
ガタッ!
魔王様のオォ~ おか~えり~
「なんだお主?貴様の主君ならここから居なくなったぞ?」
『へへ・・どうだい。ウチの魔王さんは?』
「話にならん。まだガキではないか。してあのフザけた態度だ。当主がこれでは魔王国とやらもたかが知れてる」
『へへ・・でもさあ・・アンタを殺さなかったのは評価できないかい?』
「!!」
『世界を滅ぼすって国だ。そんなトコに脅迫外交に行かされるアンタだよ。どうせ。死を覚悟していたんだろ』
「・・・」
『まあ。ガキだが捨て石には優しいってことさ』
「・・【魔王国】の評判が異常な程、いい。我が大国から人口が流出する程な。あれは・・やめさせろ」
『っ! おっさん。そこ気付くか』
(そう。山賊ども・・諜報兵による扇動工作。元々身軽で口の達者なアイツらだ。人口増加に非常に大きな戦果。貢献)
「いずれこの国は滅びる。間違いなく、だ。滅びた時にこの国の民の行く末を思うと・・忍びない」
『流石は【ダグダ国】。人材は豊富らしいな。しかし・・おっさんみたいなヤツが捨て石になる程充実してるのか?』
「・・・失礼する。外交は失敗に終わったと我が主に伝えねば、な」
ーーーーーー
「あんな感じで・・良かったのだろうか?」
『ん? ああ。いいんじゃねえの?』
「俺は・・本当にうまく出来るのだろうか」
『他国の『脅迫外交』が来た、ってことはだ。いわば『戦争』の前段階。ウチはもう準備整ってますよーいいんですかー的な、な』
「勝たないといけない・・」
『お、おいおい? いつもの能天気な【魔王】さんはドコいったあ? アハハなるほど! とか言うトコロだろっ! ここ』
「誓ったんだ」
『ん?』
「ヨウコさんに誓った。この美しい国を守るって」
『・・・』
「ハハ・・世界を滅ぼすはずの【魔王】が。滑稽だろう? あの時は自分の手に入れた力に多分。酔っていたんだ・・」
『今は?』
「・・世界は滅ぼさないといけない。それは今も変わらないよ。でも」
『でも?』
「俺はこの国に来て。十勇士から始まり流浪の人達まで・・初めて。人の温かさを知ったんだ」
(初めて・・か)
「守るはずの俺がみんなに守られていた。【魔王】にだって『優先順位』くらいあってもよいだろ?」
『まあいいんじゃねえの? で、本音は?』
「憎らしいっ! 殺したいっ! ヨウコさんをあんな目に合わせたフーマがっ! 悔しいっ・・! 悔しいっ!! ヨウコさんに何も出来なかった自分がっ! こんな世界ならっ! こんな世界ならねえっ! 無くなってしまええっ!」
『・・・』
「なにも出来ない【魔王】だ! 情けないよ。やるせないよ。ウッウッウッ・・」
『おい・・だいじょうーーハッ!』
(チッ・・クソッ! 本当にこの国にいると自分を惑わせる・・!)
『泣くな』
「ウッウッ・・?」
『泣いたら神様とやらが助けてくれるのか? 他国がついに動いたんだ。つまり軍略の時間だ。ヨウコさんを忘れろなんて言わないがな』
「・・・」
『わかるだろ? 彼女は自分で・・命を賭してまでお前と居る方を選んだんだ。この美しい国にな。彼女の選択肢を間違ったみたく言うな』
「・・・早速軍議を開くよ。軍師としてのお前の初仕事だ」