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『お断りします』
『えっ?お前・・この状況でなんでそんな強気なワケ?使い込んだんだよ?魔力鉱石。俺の居ないところで勝手に。ワケの分からない連中呼んでさ。アレ。30人とかいただろ間違いなく。それでもさ何か重大なワケがあるならまだいいよ。でもお前・・・バーベキューだったろアレ。完全にただの野外焼き肉宴会。つか器材とかどこで手にいれたの?おまけになんでちょっと残してやったぞ、みたくなってるの?初めに主旨説明したよね??奴隷買うって。奴隷買うのにはお金がいるんですよ?その辺分かってますよね??』
『全く記憶にございません』
『お前はどこの政治家だよ』
『結果的に奴隷ちゃんは買えたじゃないですか』
『ああ。底辺奴隷とやらを100人ほど、な。あんの奴隷商、魔力鉱石、10個でいいから全員連れてってくれ、と。・・ったく。どんだけボッたくってた、って話だが』
『だからお断りします』
『は?』
『わたくしは、あなたがボられるであろう未来線を予測して先手を打ったのです。それこそ断腸の思いで・・貴重な魔力鉱石を。結果的に・・・あなたはボッタクリ被害に合わずに済みました・・・ここまで言えば。わたくしの行動の意図が分かってきましたよね?』
『いや。全然分からない。完全にジャイアンの50円理論だろそれ。まあいい。いや、良くねーわ。おかげで中層の奴隷、全て買いそこなったわ。おまけに路銀がパーだ。わ・か・る?分かったらとっとと奴隷ども引き連れて帰れ』
『そんな!?冗談ですよね!?孤独なあなた一人を置いてそのような事。慈悲深いわたくしにはとても・・!』
『ハーッ・・・どっちにしろここで2手に別れる手筈だったろう?一方は神器【聖水】で安全に奴隷を引き連れ帰り。もう一方は神器【ブラックボックス】にこの国の農産物。そして種をだな。ゴッソリ詰めてから帰ると』
『だから、わたくしが農産物のほうやりますって』
『イヤ・・・お前絶対遊んで終わりだろ。それにな。お前に【ブラックボックス】渡すのトラウマなんだよ。マジでトラウマ。いいから奴隷どもの添乗員やれって。早々に病気治さないとヤバいのもいるから。水使ってくれ。水。お前=アルテミスの水みたくなってるから』
『その貴重な奴隷ちゃんですが・・道中。性奴隷として他国に『転売』する山賊に出会いでもしたら・・・チラッ・・わたくしの力ではどうにもなりませんよねえ?』
『ったく・・なんのための【聖水】だよ。つかそこでも性奴隷かよ。お前それしかないのか、っつー』
『ああ!危険な道中!例え【聖水】があろうとも・・!何が起こるか分かりませんわ!おお神よ!なんてわたくしは無力なのでしょうーー』
『・・地獄チケット』
『ムガッ!?』
『・・・あと2枚なんだろう?地獄巡りツアーまで。実は。2枚あったんだよ。ポイント券。やる。2枚とも。良かったなあ!神界に帰ったら行けるなあ!』
『ハッ!ハハーッ!この【創造と平和の女神】!必ずや!我が身命を賭け!安寧の天竺への道を!奴隷ちゃん達とともに帰りたく存じます!』
(コイツの地獄推しはなんなん?)
ーーーーーーー
『さて・・・ここで先頭のわたくしめに【聖水】を振りかけて・・』
神器【聖水】!
神界でのみ創られる幻の超レアアイテム!
【聖水】は敵意ある生物を決して寄せ付けない魔法の水だ!
さらにさらに呪いの武器に振りかければ直ってしまうオマケつき!
これはまさしく・・・幻の超レアアイテムだ!
じーっ・・・
『そいえば。コレ。どんな味がするんでしょうね?孤高の美食家たるわたくしとしましてはやっぱり気になりますよねっ』
コクッコクッコクッ・・・
コクッコクッ・・・
コクッ・・・
ーーーーーーー
『てか2枚とか無いんだけどな。ま大丈夫だろ。ったく・・こっちも腹空かしてるのに勝手にバーベキューで盛りやがって・・』
「ようっ!そこのアンちゃん!スワ国地産の小麦を使ったホカホカのパンだ!」
『ほう?』
「オマケにこのチーズがとっておきでね!栄養満点!保存食によし!携帯食によし!今ならパンとあわせてーー」
『・・・そこまでのモノだというなら。何故そのまま売るという愚行を?』
「なにっ?」
『例えばこのパンだ。この平べったい丸いパン。コレに先のチーズを乗せたらどうなる?』
「なん・・だと」
『それだけならまだいい。ああ、そうだな・・このパンとこのチーズ。一緒に焼いたらどうなる?チーズはパンの上でウレシそうに・・・トロけてしまうだろうなあ!?』
「!!」
『理解出来たか?それでは応用の話だ。肉だよ肉。それに野菜・・ポテトでも、いい。チーズの上にさらに乗っけるんだよ。そして焼く。こんがりと、だ』
「そんなことが・・いやしかし・・たしかに理論上可能だっ・・!」
『肉の油。野菜の旨味。そしてチーズの甘さがハーモニーとなって絡み合う、と来たもんだ。食べた人はどうなってしまうことだろうなあ!?』
「あなたは・・・神か?食の神・・様?」
『クク・・ここまでの叡智を授けてやったんだ・・・ここにあるパンやチーズの1個くらい・・いいだろ?』
「2つで250センになります」
『はい?』
「2つで250セン」
『・・・』
「その代金・・私が払わせてもらおう」
『っ!あんたは・・!』
「探したぞ・・」
・・・
『ハァー。しかしねえ。あんたには一杯食わされたよ。忠犬ハチ公だなんてとんでも無い。立派な策士じゃねえか』
「ハチ公・・?と、とにかくすまないっ・・!騙すつもりは無かったんだ!」
『ええ?クロエさんよ?姫さんは重病の身だったなんて聞いてないぞ。オマケにーー』
「そ、その件だ!ここに来たのはっ!・・改めて礼を言わせてもらうっ!あの時は姫様を思うが故、少しでも不利な情報は【魔王】殿に隠そうとしてだな・・」
『・・まあ病の件はぶっちゃけどうでもいいんだ。治したからってユスったりする気もねえよ。ただなあ。それ以外、だよ』
「それ以外・・?」
『あの姫さん。当主の娘じゃねーだろ』
「!!」
『あー。俺は魔族・・みたいなもんだからな。不思議な力で分かってしまうんだよ。ソイツの生業というか・・職業をな。いやまあ。コレも考えようによっちゃあ大したコトでもないか』
「全て・・・分かっているんだな」
『話せよ』
「元々姫様は・・スワ国の巫女であった。神に仕える風の巫女。当然平民の出だ。親の顔など見たこともない。私は・・姫様が産まれたその時からお側に仕える『神官戦士』として使命を全うしていた・・」
『スワ姫ってたしか20だよな?うわお前・・20年間かよ』
「なんにも変えがたい最高の20年間だ。そして節目の10年目。姫様が10の時・・当主のスワ様から養女の話があってーー環境が一変したんだ」
『だ、ろうねえ』
「本来私の役目は10年・・姫様が養女となる10年目で終わりだった。しかし姫様は一緒に来いと頑なに・・・フフッ。大人しい姫様があの様に意固地になったのを見るのはアレが初めて、だ。」
(そりゃあ、そうだろ)
「その時私は誓ったんだ。この先・・死ぬまで姫様に仕えようと!こんな私を必要としてくれてることが何より。何よりも嬉かったんだ!」
『おーお。麗しき美談だねえ!』
「な、なんとでも言え。とにかくお前には感謝してるんだっ!半年前から重い病を患って回復の目処も立たない矢先にこの出来事だっ!感謝してもしきれない!」
『・・終わりか?』
「えっ?」
『全て、って言ったよな?俺が全て分かっている、と。だから、終わりか?』
「あ、ああ。とにかくここに来たのは。お前に改めて感謝の意をーー」
『ーーーお前。なんにも分かってないじゃないか』
「・・・なにっ?」
『まさかまさかとは思ったけどな・・・ああ策士とか言ってスマンな。やっぱお前。ただの忠犬だ。忠犬ハチ公』
「私が姫様を分かってない、だと?」
『ああ。それもひどく致命的なトコロをな。まずな・・なんて言ったらいいのか・・・スワ家に来てからの姫様は。なにか変わった様子は無かったか?』
「特にはないが?ああ変わったと言えば私だな。姫様のために騎士団を結成したんだ。桜華騎士団を。姫様は家族が増えたと・・喜んで下さったよ!時には姫様を交えてだなーー」
『・・・ハァー。いいか?よく聞け。これから俺がいうことがただの杞憂なら、いい。キチガイの戯れ言とでも思ってくれ。だが、これから言う事が事実だとしたら・・・』
「なん・・なのだ・・?」
『姫さんな・・恐らくだが・・・その・・クソッ・・何て言えばいいのか・・身体を・・・まあヤリまくってたと思うんだよ。あの華奢な身体でな』
「!?」
『姫さん、男とかいたのか?』
「おのれ!姫様を愚弄するかっ!!姫様にかような者、いようはずもないっ!!いくら使者殿でも言っていいことと悪いことがあるぞ!」
(あの禍々しい因果だもんな。好き合っている同士ならあんないびつな形になるはずもない・・)
『愚弄してねえ。事実を客観的に述べているだけだ。決定的だったのは・・『アルテミスの水』だよ』
「あの・・妙薬の事か?」
『処女神アルテミス。なんの神かって『狩猟』と・・『貞潔』だ。この『貞潔』ってのがカギでな。かの女神から作られしアルテミスの水は。処女が飲むとこの世のモノとは思えないほど美味に感じ・・・相反する・・まあビッチだよな。ビッチが飲むと苦く感じる代物なんだ』
「で、でたらめだっ!そのような世迷い事!妙薬口に苦しというだろう!」
『例外も考えたんだ・・病状による症状だとか・・・それこそ姫さんにタブーな過去があって・・そういう経験があったのか?と。だがあの・・・お前も見ただろ?姫さんが薬飲むとこ。あの異様な苦がりようだ。これは明らかに・・『日常的にヨロシクやっていた』だ。姫さんビッチなんだよ。お前の姫さんビッチ』
(それに神薬に限って味覚が馬鹿になることはないしな)
「ウソだっ!ウソだウソだウソだっ!」
『あーただのビッチなら全然カワイイもんだがな。ここからが問題だ。大問題。あんなキレイな姫さんが、だ。縁組の話なんて今まで無かったんだろ?弱小国のスワ国でさ。20になっても、だ』
「何が言いたい・・姫様は・・お身体が弱い故・・」
『その身体とやらが悪くなってからのダグダ家との急な縁談だ。オカシイだろこれって。今まで義理のオヤジさんは・・・溺愛してるから縁談を事前に断っていたんだろう?溺愛してるなら・・重病になってからの縁談とかどう考えてもオカシイ』
「弱小国は・・大国の申し出を断る術を持た・・ない」
『・・と、当主に言いくるめられたか?性欲血気盛んなダグダ家の当主のことだ。絶世の美女さんが縁組出来る15になったら本来速攻だろが。しかしその話は無かった。今の今までな。つまり『スワ国は弱小だが大国からの縁談を断る力』はあったって事だ』
「た、多分・・隣国の関係が悪化したとかで・・・」
(それはないんだよなあ。そもそも悪化して戦争起こりそうなら。俺、この地域来てねーよ)
『極めつけは桜華騎士団だ。お前だよお前。大体お前の団体。一国のたかが姫さんごときにそんな大人数付くとかギャグだろ。軍事の観点から見ても兵力として運用しずらい・・・まあ国の穀潰しもいいとこだ。普通の国なら速攻解体だろうよ』
「なっ・・!」
『これ、ホントにただの杞憂だったら俺マジでキチガイだな。話を続けるぞ。それが今まで存続出来たのは何故だと思う?姫さんは溺愛されていたから、か?違うだろ・・・俺はこの『溺愛』ってワードがに騙された。『溺愛』を大前提に同盟の絵を描いてたしな』
「我らは・・我らは・・・!」
『ぶっちゃけて言うぞ・・・姫さんは恐らくだがな・・クソッ・・当主のオヤジに色々されてたんじゃねえか?お前ら桜華騎士団という弱味・・・おおかた『お前の桜華騎士団を潰されたくなければ・・』とかそんなふうにしてな。そして重病になった姫さんにいよいよ飽きたんだろうよ。元々溺愛なんてとんでもない。ポイッとダグダ家の縁組を飲み・・桜華騎士団は【魔王】討伐という名の解体だ。スワ国、急にダグダ家のいいなり過ぎだ』
「!!」
『姫さんを守る騎士団のハズが・・ハハッ!逆に今まで守られてたたってオチか。あーあの姫さんの事だ。間違っても口に出さなかっただろうがなあ』
「しん・・じない」
『んっ?』
「お前の言うことは・・全てでたらめだっ!そっ、そうかっ!姫様を治したのも!全てはっ!スワ家そのものを陥れる【魔王】の策略だったのだな!そっ、そうだっ!そうに違いない・・・」
『・・まあとにかく、だ。これは(俺の目指してる紛争国家の)方針と大幅に逸脱している。もっと正々堂々殺り合えって話だ。なので【魔王】国としては全面的に保護する。バックアップ。姫さんにはやんわりと断られたがな・・・その気がありゃ魔王国への亡命。お前ら共々直ぐにでも受け入れるつもりだ。もちろん姫さんも含めて。』
「そうに違いない・・違いない」
『・・あの姫さん、あのままほっとくと近いうちなんかしでかすぞ。お前らに関わる何かを。それくらい・・その・・強い決意ーー』
「あ、悪魔めっ!」
『は?』
「ま、まやかすなあ~!まやかすなあ~!悪魔めっ!悪魔めっ!悪魔めぇ~!!」
ダダダダダッ・・・!
ダダダダッ・・・!
ドテッ!
『・・・』
「・・・」
ムクッ!
ダダダッ・・・!
『いなくなったか・・しかし悪魔って。俺、いちお神だぞ』
カァ~ッ
カァ~ッ
『チッ・・手には食いかけのパンか。あのハチ公に奢ってもらったパン。杞憂ならどれだけいいかよ。しかし事実ならな。お前しか説得出来る奴はいないんだよ。20年連れ添ったお前しかな。あのかったい『決意』の姫さんを説得出来る奴はこの世に・・・お前しかいないんだ』