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002

 まじくそ強いな、あのチビ。

 結局これまでシャルロッテがシュシュに負わせた傷は、不意打ち気味の最初の一撃によるものだけだ。それも衝撃波が掠めただけのことで、何ほどのダメージも与えていない。


 比べてシャルロッテの状態はといえば、動きに差し障るような直撃こそ喰らっていないものの、ちょっとした打ち身や擦り傷は体中に負っている。

 胸と腰を覆う黒革の短衣もあちこちが破れ、黒褐色の地肌がのぞいていた。

 それでもシャルロッテは不敵に笑う。


「お前だって本当は分ってるんだろ? あたしが勝つのは時間の問題だってな」

 虚勢を張っているわけではなかった。

 確かに一見して苦戦しているのはシャルロッテの方だ。

 シュシュの頬には既に血の跡もなく、白いドレスもまっさらに綺麗なままだ。綻びだらけのシャルロッテに比べれば、まるで舞踏会場にいるみたいに優雅な姿を保っている。


 だがシャルロッテの挑発に、シュシュは金色の眉をひそめただけで反論しない。

 それだけの余裕がないのだ。

 小枝のように華奢な肩が大きく息を切らせて上下している。ドレスの裾から伸びる白い足首が頼りなげに震えている。


 いくら周囲の力を取り込めようと、それを光弾として撃ち出すのは本人の体なのだ。消耗するのは必然だった。

 つまり戦いが長引けば長引くほど、体力に上回るシャルロッテが有利となる。


「けど、ただお前がへばるのを待ってるだけじゃつまらねえからな。そろそろ決めさせてもらうぜ」

 シュシュが息を吸う隙を突いて、シャルロッテは思い切り地面を蹴った。十歩の距離を文字通り瞬きする間に詰めて、未だ棒立ちの金髪少女めがけて振り上げた剣を叩きつける。


 しかし手応えはない。

 躱せるタイミングではなかったはずだ。

 なぜ、と疑問に思う間もなく、シュシュの体が掻き消える。幻影だ。

 背後に凶悪な気配が膨れ上がっていく。シャルロッテの全身がびりびりと震える。

 とてつもない霊気だった。今まで撃ち出された光弾に込められていた力を全て足し合わせてもなお届くまい。


 よける? 巨大な奔流に巻き込まれて引き裂かれるのは必定だ。

 受ける? 荒れ狂う怒涛を支え切れず圧し潰されるに決っている。


「消え失せちゃえ!」

 あくまで可憐な声音を合図に、凄まじい力が解き放たれる。

「なめるな、チビ!」

 シャルロッテは即座に振り返った。よけるでも受けるでもなく、超高密度の霊光めがけて自ら前へと突進する。


 シュシュが愕然と金色の瞳を広げた。シャルロッテは強かな笑みを刻んだ。その手の中では霊剣シュリギアが蒼白く煌めいている。

「いっけぇー!!」

 シャルロッテは一心に剣を振り下ろした。


 空間を根こそぎむしり取るような暴威の光波が真っ二つに割れていく。その間をシャルロッテは走り抜ける。もはやシュシュ・クライシュの命運は尽きた。あとは狩り従えるだけだ。

 迫りくる剣士を前に、愛らしき魔法使いはその場を一歩も動くことなく、ただすがるように胸に下げた霊珠を両手の中に包み込む。


 ゆえにシャルロッテは気付けなかった。

 シュシュの小さな掌の内で、霊珠が淡く金色に脈づいていることを。

 これまでシュシュが光弾を打ち込み、あるいは自ら足を着けた地点が同期して、円と多角形を組み合わせた図形がぼんやりと浮かび上がる。


 剣士は魔法使いを刃の間合いに捉える位置へと踏み込んだ。そこは金の光で描かれた紋様のまさに中心。

 シャルロッテは刹那の迷いもなく剣を滑らせ。

 シュシュは花びらのような唇をいとも意地悪く歪ませて。

「落ちろ」

 ひそやかに囁いた。

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