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019

「もっと深刻な疑惑が出て来たのはここ何年かのことだ。ちょうどその頃に怪しげな占い師を家に引き入れてる。見た目からすると外国人らしいが、身許は全く不明だ。悪魔崇拝の儀式でもやってるんじゃないかなんて与太話もある。しかし君らの存在を考えると、案外真実に近いのかもって気もするな」

 蜷川は陽虎とシャルロッテを交互に眺めた。一括りにされるのは陽虎としては心外だ。


「ついでに言うと、この家に住んでた女子高生が二年前に行方不明になってる。両親は一年前に離婚して引っ越した。容疑者はまだ捕まっていない」

 表情こそ淡々としているものの、声には苦々しい響きがある。蜷川の話を聞いてもシャルロッテは意外と慎重だった。


「けどもし本当にそのなんとかって奴のとこに術士がいたとしたら、あたしが探りに行ったらすぐにばれるぜ。遠隔で霊鬼を飛ばしてくるってことはそれなりの相手だ。その場でなし崩しに戦いに突っ込むのはちょっとな。やるなら事前にちゃんと気合入れておかねえと」


「悪いが俺も偵察の役には立てそうにない。現状で捜索令状を取るのは不可能だ。屋敷の中は調べられない。それに俺は向こうに面が割れてる。屋敷の使用人とかに聞き込みしようとしても警戒されるだけだ」


「そしたらお前らってことになる」

シャルロッテは晴日と櫻子に視線を向けた。

「お前らのどっちかに陽虎を憑ける。それならたぶん簡単には気付かれない。今の陽虎は霊体だから、変な霊波があれば感じ取れるだろうしな」

 少女達は顔を見合わせ、ついでそれぞれ立候補を申し出た。


「それなら妹のわたしが」

「わたしがやる。小学生に危ない真似はさせられないもの」

「俺に拒否権は……ないよな、やっぱ」

 陽虎はすぐにあきらめた。他ならぬ自分のために妹と幼馴染みが体を張ってくれようというのだ。未体験ゾーンに踏み込むことにびびっている場合ではない。


「それで俺はどうすればいい。全力で体当りでもするのか?」

 これまでの経験からすれば、普通に触れたぐらいでは当り前に弾かれてしまう。他の人間の中に入り込むには特別な手段が要るはずだ。


「もっと簡単さ。口と口を合わせて陽虎が深く息を吹き込むだけだ」

「なっ」「やっ」

 陽虎と櫻子は同時にこめかみを引き攣らせた。

「アホか、そんなことできるかよ!」

「ちょっと、それどういう意味よ。こっちこそお断りよ、陽虎の馬鹿」


「じゃあやっぱりわたしですね。相手がおにぃならそのくらい別に気にすることもないですし。しかも本物の体じゃなくて幽霊ならなおさらです」

「却下よ。晴日ちゃんはもっと女の子としての自覚を持ってね。えっとシャルロッテさん、他に方法はないんですか?」

「ある。けどそっちの方が面倒だぞ」

「いいから教えてください。頑張ってちゃっちゃとやっちゃいますから」

「おい、実際に頑張るのって俺になるんじゃないのか」


「まあそうかな。交尾しろ」

 櫻子は液体窒素で瞬間冷凍されたみたいに沈黙した。陽虎も咄嗟に反応できないでいる中、シャルロッテは気安く説明する。

「要は己の霊気を相手の中に注ぎ込めばいい。息の形にするのが簡単だけど、精でもいける。どっちにしろ霊体のかけらには違いないからな。ああ、マラを口で吸わせるってやり方もあるか。いちいち股ぐらに突っ込むよりは手っ取り早いんじゃないか?」


 陽虎は爆弾を解体するみたいにそろそろと櫻子を見た。同時に櫻子もこちらに顔を向け、しかし視線がかち合う寸前、しゅばっと逆側に背けてしまう。

 やがて軋む空気に押されたみたいに、櫻子は言った。


「じゃ、じゃあ口で」

 陽虎は仰天した。

「えっ、それってお前が俺にフェ……」

「ばっ、馬鹿、違うわよ! 口と口でって意味に決まってるでしょ! こんなの人工呼吸みたいなものじゃない。いいわよ、やってやるわよ!」

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