犠牲を無駄にしないために
―――――リースの話を聞いたあと、俺は気絶してしまったようだ。執務室の布団の上で目が覚めた。
「……」
気分はあまりよくない。リースの話を思い出す度に身震いする。そうしていると、また頭痛がしてくるように感じて頭を押さえた。
そんなときにリースがやってきた。
「……」
「リース……俺は……俺は、どうすれば……」
「……ふふっ」
突然俺の様子を見ていたリースが微笑んできた。
「……何がおかしいんだ。何がおかしいんだよ!」
「いえ、ただ……私の、いえ、クルーエルの主たる御方が人間だったことに安心したのです」
「……」
「私はあなたの命令で辛くても、苦しくても国のためと思い、残虐なことをしてきました。そのお陰もあり、この国は過去の栄光に近づきつつあります。しかし、そんな命令を下す15歳の少年に私は恐れを抱きました。怖かったのです」
「リース……ごめん。シベリアとかで脅してしまって」
「ふふっ、ただの世間知らずの人間だっただけですね。……いいでしょう! これからもサポートを続けますよ!」
俺はその言葉を聞いて、俯いてしまった。俺には書記長たる資格があるのか? 俺には国を率いてくだけの素質はあるのか?
そんなことを考えるとリースの言葉に対する返事は自然と固まっていた。
「リース、俺は、俺は書記長をやめ――――」
「させませんよ」
俺の言葉は最後まで紡がれなかった。リースは最初の頃のように冷たい目を俺に向けていった。
「こんな中途半端で、辞めさせませんよ。あなたが国を強大化すると信じて労働党の方々は動いたのです。あなたは戦争に勝つために沢山の犠牲者を生んだのです。彼らの努力、彼らの犠牲を無駄にさせるわけにはいきません。18歳だからって、責任から逃げて言い立場じゃないんですよ。甘ったれたこと抜かすなら貴方を殴ります。シベリア送りでも結構、あなたには書記長を辞めさせません」
「……あ、あ……」
俺は目から溢れる涙を止めれなかった。ナタ・ナスキフスキー初め沢山の人々に迷惑を掛けた。その上で強大な国家を俺の命令で作り上げたのだ。俺が、俺が彼らの犠牲を無駄にするようなことをしてどうする!
「リース……」
「泣いていますが、良い顔つきになりましたよ、書記長!」
「……これからは出張件数を増やす。現場を見なければ……あと、首脳級階段は俺が出よう」
「素晴らしいことです。書記長自ら動くのですね」
そしてリースは問いかけてきた。
「では、書記長。改めまして御命令を!」
「……ダークエルフ・クルーエル共和国連邦に相互安全保証条約と、そしてトライ半島の30年間の租借、そこに軍の駐留と海軍基地と造船所の建設許可を申請してくれ!」
――――――ダークエルフ・クルーエル共和国連邦、首都アラモスでは長老会の面々が顔を綻ばせていた。
「ほ、本当にこの内容で良いのですか!?」
「ええ、我々はさらに貴国との関係を深めたいと考えております」
『クルーエル社会主義共和国連邦=ダークエルフ共和国連邦安全保証条約』
1.クルーエル国、またはダークエルフ国に敵国が現れ、戦争状態へ突入した場合、もう一方はその国を支援することを約束する。
2.早急な支援を可能にするため、トライ半島をクルーエル国が租借地とし30年で50億ペール支払うとする。
3.ダークエルフ国は旧式となったクルーエル国の兵器をライセンス生産権を獲得する。
「ええ! ええ! もちろんいいですとも!」
「では、このように本国には通達しますね」
こうしてクルーエル側の外交官を担当したのがコルサコフ・ネフースキである。彼は内心ほくそえんでいた。
(これで赤軍がヒューニム大陸に常駐できる。あとはトライ半島に海軍基地を建設するだけだ)
クルーエル社会主義共和国連邦は順調に不凍港を得ようとしていた。しかし、それをよしとしない国家から妨害されるとは夢にも思っていなかった。
資料として地図を作りたいのですがいかんせんどう作れば良いか分からず……早めに用意できればなあと思ってます。