大国復活の影で
ヒラーカズ・マーカが3ヶ年計画を推進していた過程は、ある者にとっては幸せを、ある者にとっては不幸を、ある者にとっては死をもたらした。
では、3ヶ年計画によりどのように変わっていったのか……。
―――――クルーエル社会主義共和国連邦唯一の港であり、シェスティアに続く第二都市『ハバロスティア』。ここは準不凍港とも言えるぐらい、氷に閉ざされる期間が短い港だった。
その都市の中央広場では都市労働者が中央から派遣されたクルーエル共産党の高官を囲うように集まっていた。
これから、『3ヶ年計画』とやらの発表がある。それを聞くためだ。
「都市労働者諸君! 我が国が更なる高みへ目指すために同志マーカ書記長が道筋を示してくださった。よく聞け!」
「……」
都市労働者は皆絶望していた。いくら働いても上がらない給料、過去の南方大陸進出失敗により'世界一位'とも言えた国家は今や衰退の一途を辿っていた。
今さら変わるわけない、そんな雰囲気が蔓延していた。
「これより中央が管轄する官営工場を強制的に増やす。具体的に言うと大工場を5つ増設し、人員が余っている工場から何名かずつ移動してもらう」
「……っ!」
人口5億に対して国家主導の官営工場や官営農場の数は圧倒的に不足していた。そのため、GDPは低下の一途をたどり、しまいには一人辺りの仕事量が1時間で終わるという有り様。社会主義国では失業者は出せないので、壊滅的な賃金低下と物資不足に悩まされていた。
その上、中央ではリーダーシップを張る人材がおらず、しまいには15歳の少年が書記長となり、いよいよこの国は終わりかと思われた。
そこに、先程の工場の強制拡張の話である。物資不足の改善と余剰している労働者の生産性をあげるに当たって必要な政策を行い始めたのだ。
誰もが希望に満ちた。『幸福』が訪れると……。
―――――生き残ったものだけが『幸福』を手に入れた。
一から作る工場拡張の過程で不確立的な新技術を無理矢理導入したため、事故が多発した。
新設工場が爆発した、毒ガスが噴出した、公害が発生した、設計ミスで建物が崩壊した……その他にもたくさんのことで死者が続出した。
しかし、その事故による損害を圧倒的に上回るペースで新設工場が増設され成功を納めていった。
社会主義市場に行けば統一価格で物資が溢れて行き、やがて物資は全て値段が下がっていった。
さらに『国民統一車』なるものが作られ配布された。それを生産する官営会社は『フォルテ・ルリア』と名付けられた。
ちなみに、その会社は『統一国民車』を生産する一方で、新兵器の開発もしていた。伝統的な兵器生産会社は全て解体、統合された後にフォルテ・ルリアの傘下に入れられた。
そうして出来上がったのが『0試作車』である。
装備は100mmカノン砲と6mm機関銃2丁を搭載した上に2つの50mm砲を搭載した多砲搭戦車である。
……一言で言えば失敗である。重装甲にした上に砲搭を2つも載せたため、フォルテ・ルリアのもつエンジンのノウハウをいかした強馬力エンジンが活かせなかった。
そこで、2つの副砲搭を無くして傾斜装甲にしたのが『1試作車』である。この戦車こそ素晴らしい性能を誇るMC-1のほぼ完成形である。ここから砲の口径を122mmまで上げたのが『MC-1』となった。
しかし、問題となったのは前面の傾斜装甲の部分に使われる特殊合金、そしてそもそも『国民統一車』や『MC-1』の大量生産に必要な資源や動かすのに使う石油などは、いったいどうやって調達しているのか……。
――――シベリア開発特区は地獄だった。辺り一面に広がっていたツンドラ平原はいまやコンクリートで固められ、希少資源や油田、鉄鉱石の鉱床を採掘し『巨万の資源』を生み出す大元となっていた。
これらの開発がなければそもそも工場の拡張や、兵器、物資の大量生産は不可能だ。
しかし、ツンドラ気候に閉じ込められたこの平原を開発するのは普通では出来ないが、それを可能にしたのが『犯罪者』の強制徴用だ。重大犯罪者から政治犯、軽犯罪者まで全てをシベリアに投入したのだ。
……中には無罪とされる政治犯もここへ送られた。容疑が掛かればすぐにシベリアへと送られる。シベリアは恐怖の象徴となっていった。
「お、おい! 大丈夫か!?」
「……ぐぅ……」
とあるシベリア従事者が凍傷と疲労により倒れてしまった。それも今から平らに整地する穴のなかでだ。
「おい! しっかりしろ!」
「……」
「くそ……くそ! しっかりしろ! いま助けるからな!」
こうして疲労から亡くなっていくのはシベリアでは日常茶飯事であった。
「まってろよ、いま上に運び出すからな……」
「その必要はない、さっさと出てこい52番。この穴を埋めるぞ」
「な……! まっ待ってください。彼はまだ!」
その様子を見ていた労働党の高官は冷たく言い放つ。
「動けないそいつを運び出して治療をする、この過程で失われる時間は誰が責任をとるのかね?」
「……そ、それは……それは俺がっ!」
「馬鹿者め、お前の価値など1秒の時間分もないわ。従わぬならお前ごと埋めるぞ。この後も偉大なる書記長がお決めになった行程があるのだ」
「……お、俺のことはいい……早くでて……いけ」
「……トム……」
「さっさとこい! 52番!」
「……ごめんな」
そして、52番の囚人が上がったあとその土地は綺麗に整地された。
――――――こうして多数の犠牲を払った結果、外界へと進出する力を得た大国が誕生したのだ。