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緋色の世界で  作者: 子漆器 鉄火
第1章 南方大陸進出作戦
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そして歯車は回りだす

『以上で報告は終わります』


『うん、大変よかったよ。……さ、始めよう』


『了解しました』


 受話器を置いた俺は興奮を押さえつつ、事態を見守った。新しく設立した俺の直属部隊、CIBの初仕事なのだ。







 ――マルタ王国、王城にて。


「さあ、早く来い魔導兵器よ! そしてガイツ合衆国を倒し、西のに大国を倒し、そして……ヒューニム大陸もエルガストス大陸も恐れられる最凶の大陸、北方大陸に進出してやる!」


 実際はヨークテリア大帝国ですら北方大陸に攻撃を仕掛けられないでいるのだが、そんな未来を夢見ていた。

 ジョージ1世が妄想に花を咲かせているとき、城下が騒がしくなってることに気づく。


「……?」


「へ、陛下! 大変です! トルンのあちこちで武装蜂起が起きています!」


「な、なにぃ!?」


 王は言われたことが理解できなかった。こんな小国に不穏分子がいる意味が分からなかった。

 慌てて身支度をし玉座に座る。貴族たちや宰相も冷や汗をかいている。


「陛下……如何致しましょう……」


「陛下! ご決断を!」


 目をつむり、悩ましげにしていた王は目を開けるとボソッと言った。


「……あの男を呼べ」


 ――そして協力者が現れた。その協力者を見た途端に醜い感情が沸き上がる。先程の妄想が夢物語になると思うと怒りをぶつけずにはいられなかった。


「どうしてくれる!? 魔導兵器が届いてない、武器もない、こんな状態で武装蜂起に立ち向かえるわけないだろう!?」


「……その話なのですが、魔導兵器は届きません」


「……なに?」


 そして協力者は言った。


「ただヒューニム大陸を混乱させてエルガストスの勢力圏を拡大したかっただけのようです……」


「きぃさぁまあああああ!」


「私も……私も見捨てられました!!!」


 その協力者の大声で王の怒りが弾けとんだ。


「所詮、僕のことは駒のようにしか思ってなかったのでしょうね……くそっ」


「……」


 エルガストスの手先であるこの青年を恨む気持ちが芽生えかけたが、この一言でぶつけてもしょうがないと悟る。

 王はこの青年に同情の念を覚えた。そして言った。


「一緒に逝くか……?」


 貴族たちはどよめき、宰相は顔が真っ青になっている。


「ふふっ、陛下とは美味しいお酒が飲めそうです」


 青年は爽やかな笑顔でそんなことを言った。


「奇遇だな、ワシもそう思ったとこだよ」


 王はこの青年だけは助けてやりたいと考えるようになった。


「お前だけは逃がしてやるぞ?」


 しかし、協力者は首を振った。


「裏切られる可能性がでてきたときに伝手を作ってあります。王も、皆さんも一緒にそこへ逃げましょう」


「そ、それはいったい?」


「……クルーエル社会主義共和国連邦です」


 さらに貴族たちはどよめいた。王もしばし呆然とした。


「し、しかしあの国に行くくらいならガイツ合衆国のほうが……」


「一度あの国を裏切ったのです。流石に勘ずかれてますよ」


 そこで貴族たちが騒ぎだした。


「王よ……ご決断を!」


「今はクルーエルで息を潜めましょう!」


「……」


 ――マルタ王国はダークエルフ族の武装蜂起により僅か1日で崩壊した。王と宰相、貴族は全員揃ってクルーエル社会主義共和国連邦へと亡命した。自称協力者は帰還(・・)できると安堵した。


 数日後……。


「ダークエルフに栄光あれ!! マルタ国民に栄光あれ!!」


 トルンの王城のバルコニーから5人の長老が演説を行っていた。旧マルタ王国の上流階級は皆クルーエルへ亡命したため、抑圧されていた一般大衆はダークエルフを『英雄視』するようになった。


 そして、長老達はこうも叫んだ。


「我が国は『マルタ共和国』となる! 共和制に栄光あれ!!」


 そして、協力者達に言われた通り宣言した。


「ヨークテリア大帝国に栄光あれ!! 彼らのもと我らは独立を果たしたのだ!」


「民の皆には旧王国の財産を平等に配布しよう!」





 長老達の後ろでは、2人の協力者が佇んでいた。







 ――ガイツ合衆国、ホワイトハウスは動揺していた。


「まずい……まずいぞ……」


 大統領ルイス・カッシュ以下閣僚も表情が暗い。

 何せ友好国であるヨークテリア大帝国の敵視するダークエルフの国家が自分の勢力圏で建国されたのだ。しかも、同盟国が消滅する形で。


「しかし、何故クルーエルなんかに亡命したのだ……我が国へ亡命したほうが身のためと思わなかったのか」


「恐らくなにか我が国に対して負い目を感じていたのでは? それが我が国に知られるのを防ぐため、というのが妥当な線かと」


「……とにかく、早くあのダークエルフどもを潰せ」


「御意」


 ガイツ合衆国はマルタ共和国を不法占拠組織とし、鎮圧しようとした。

 しかし、ここで彼らにとって信じられない報告が入る。


「大統領!」


 激しくドアを開けてきたのは諜報部の上官だった。他の閣僚から諜報部は静かに仕事するのではないのか? と皮肉を言われるがそれらを一切無視し、告げる。


「彼らはヨークテリア大帝国の支援で独立したもようです。マルタ共和国政府が宣言しています!!」


 ――ガイツ合衆国は、ヨークテリア大帝国の真意をつかむまでは合衆国軍を出動待機状態にするように指示した。







 ――一方のヨークテリア大帝国も信じられない状態であった。


「何なんだ……いったい何が起きているんだ!」


「わ、分かりません……ガイツ合衆国の自作自演の可能性もあります……」


「何が目的なんだ! 戦争か!?」


 ガルツァ1世と宰相は「とにかく情報収集を!」と指示を飛ばすが、もともとエルフ族はプライドが高く、ヒューニム大陸など人間の住む大陸には監視員を置いていなかったのだ。


「とにかく! 絶対に軍部を動かすな! 戦争になるぞ……」


 ガルツァ1世も流石に慎重にならざるを得なかった。





 その後、ガイツ合衆国とヨークテリア大帝国は抗議の応酬をして2国間の関係は急速に冷え込んだ。

 そしてマルタ共和国のトルンにて、長老達も衝撃を受けていた。


「ヨークテリア大帝国は我が国へ支援しないようです……」


 協力者が約束していたヨークテリア大帝国による支援が全く行われないというのだ。


「……ど、どうやって国民を飢えから守ればいいというのだ!」


「そ、そうだ! まずいぞ……このままでは……」


 長老達は2人の協力者を信じきっており依存度が高まっていた。だが、彼らはそこ個とに気がついていない。


「……やっぱりエルフ族は我々を見捨てるのか……」


 そして、ダークエルフ達は心のなかで憎悪の炎を燃やすが、そこに協力者達が言った。


「……我々はとあるルートで支援を呼び掛けます。かの国が味方してくれれば我々はさらに勢力強化できます」


「そ、それではどこの国が味方してくれるというのか!」


「ええ、クルーエル社会主義共和国連邦です」


 それを聞いてダークエルフ達は残念そうな表情になる。


「あんな国は危険なのでは?」


「昔に侵攻してきただろう」


 しかし、協力者は言った。


「かの国は徹底的な平等主義です。ダークエルフだからといって偏見をもって交渉してきません。一緒に支援を頼みましょう」





 ――――1か月後、南方大陸のヒューニム大陸とエルガストス大陸は衝撃が駆け巡った。


 新しく独立した国家マルタ共和国は突如、第三世界に進軍し、西側半分を占領。新占領地域を『ダークエルフ・クルーエル共和国連邦』とし独立させたのだ。そしてそこに中央政府を移転した。では、旧マルタ地域はというとそこはマルタ王国亡命政府に明け渡したのだ。そして亡命政府とダークエルフはクルーエル社会主義共和国連邦の仲裁で講話した。




 そしてマルタ王国は『マルタ社会主義共和国』と名前を変えた。




 理由は簡単だった。マルタ王国の上流階級及び王族の財産は全て民に配布されていた。そこでクルーエルに言われたのが統治機構の変革であった。

 王は世襲制の書記長、国のトップとなった。貴族はそれぞれの領地を管轄区とし、警察機構を担った。

 上流階級が国の権力者であるための苦肉の策であった。

 しかし、これによりヒューニム大陸にはクルーエル社会主義共和国連邦と同じ『社会主義国家』が2国も誕生してしまったのだった……。

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