始まりはゲームから
※内容を大幅に改編しました。
――東京都 某所――
「ふう……」
仕事から帰ってきた俺、広間 平和は24歳の新人サラリーマンだ。平凡な人間……周囲からはそう思われている。
いや、実際は普通だ。仕事成績もこれと言った功績を挙げていないが、失敗もしていない。
そんな俺でも誇れる特技はある。
それは俺が中学からやっているゲーム、『WORLD WAR YOU』、通称WWYと呼ばれる第一次世界大戦から第二次世界大戦をモデルとした戦略ゲームだ。これは自分が作った国家で他国、つまり他プレイヤーが作った国家と対戦すると言うものだ。
そして自慢と言うのは高校生のときに、このゲームの世界トーナメントで初の3連覇したのだ。圧倒的な戦力を揃え、強力な機甲師団と大量の歩兵で蹂躙するのが俺の戦い方だ。
ところで、その世界大会の決勝の相手はいつも同じだったのだ。その相手と言うのが中学からの親友、金本 翼というスタイル抜群、モデル級の美少女だった。ひょんなことから彼女もWWYのプレイヤーであることを知った。毎日学校からかえってはWWYを二人でプレイした。戦うときは互いに真剣勝負になるよういつも賭け事をした。ある日はジュースを、ある日はブランド鞄を、ある日はモデルガンを……。
だが、'ある日'から翼は変なことを言うようになった。あの日のことを今でも鮮明に思い出す。
―――それは、学校帰りのことだ。
『ねえ、今日の賭け事はどうするの?』
『う~ん、俺は来週の宿題をやってもらう、かな』
『ふ~ん、そう。……私はあなたの童貞を頂く、でどうかしら?』
『はあ!?』
あれから翼は毎回俺の童貞を奪うことを目的に挑んできた。
正直、翼は美少女だしあげてもよかったのだが、他に付き合っている女の子がいたので勝つために工夫を重ねていった。
そんな中、俺は国家体制選びを変えるか迷った。このゲームは最初の国家体制を選べるのだが、勝つのなら資本主義、自由主義が一番だ。
しかし、俺は共産主義を毎回選んでいた。なぜなら、資本主義は……今の世を見て、貧富の格差があるのを見て、何となく嫌だった。本当に何となくだが……。国家社会主義も良いが、俺は徹底的な平等を信じたかった。社会主義、ひいて共産主義は人間が発展しきったとき、初めて成立すると言われているが俺は発展途上でも成立すると信じたかった。なので、ゲーム内では恐怖政治体制を敷いて国家中枢による統制を行う。ゲームだけなら……再現できるのだ。
そうして俺は共産主義を選ぶのを信条としてきた。今さら変えられないと思い、その体制下で工夫を凝らし、遂に世界一へと輝いたのだ。
そうして、俺に付けられた異名は『緋の王』だった。
一方の翼はというと体制は毎回変えてきた。あるときは宗教国家、あるときは自由主義国家、あるときは国家社会主義国家……しかし、どれも大国まで成長したくさんのプレイヤーを薙ぎ倒して俺に向かってくる技術力は半端ではない。
そうして畏怖された彼女の異名は『大国の傀儡師』と呼ばれた。
しかし、彼女は俺に勝てなかった。彼女は俺と付き合いたかったらしいが俺には彼女がいる。実は中学からお付き合いしている女の子はいまだに続いているのだ。
そうして翼は病んでいった。俺への執着心がとんでもないことになっていた。
しかし、2ヶ月ほど前から彼女は勝負を挑んでこなくなった。
あきらめたのかな、と感じた俺は安堵と少しの寂しさを覚えつつ仕事とWWYの日々を送っていた。
――そうして、また今日もWWYを起動したときだった。
「ん?」
メッセージが来ていた。久々の翼からのメッセージだった。
しかし、内容は理解できないものであった。
―――――――――
Tubasa(10-5*21:17)
ねえねえねえ、私達、二人きりの世界で戦おうよ、うん、それが良いよ。本当に決着つけようよ。ね?ね?ね?
カズは、私と結婚した方が幸せになれるよ?
じゃ、二人の世界へいこっか♪
―――――――――
「……何を言ってるんだ?」
確かに翼は病んでいたが、ここまで支離滅裂なことを言う奴ではなかった。
――その時だった。PCの画面が黒くなり、ぽっかりと穴が開いた。そこから段々と白い光が室内に入ってきた。やがてその光は部屋を埋め尽くそうとするほど強くなった。
「な……なんだよ……これ……」
慌てて立ち上がり画面に背を向けて走り出す。部屋はアパートなので玄関はすぐそこだ。
そして玄関のドアノブに手をかけた。
しかし、そこで体が動かなくなった。
突然のことに俺は反応できない。視界が白くなり意識が遠くなっていくなか、女の子の声がした。
『戦って、私のものにしてあげる♪』
そして俺の意識は暗闇に落ちた。
―――――
「う……」
目が覚めると真っ白な空間にいた。遠くに壁があるのかも判断できない、天井もあるかわからない、不思議な空間だった。
「え……?」
そこには、机とその上にパソコンが置いてあったのだ。
しかも、俺のパソコンだった。
「……」
俺はそれをじっと見つめた後、恐る恐る近づいた。
――――――
WWY
国名:クルーエル社会主義共和国連邦(U.C.S.R)
首都:シェスティア
人口:5億7200万人
GDP:8070億ペール(=$)
軍事力:世界1位
備考:北方にある大陸国家……………。
―――――――
「こ、これって……」
俺が最後に参加した世界大会で作った国家の最終形態だ。何故こんなデータが……?
すると、目の前でWWYがデータの初期化を始めた。
―――――――
WWY
国名:クルーエル社会主義共和国連邦(U.C.S.R)
首都:シェスティア
人口:5億1021万人
GDP:******
軍事力:******
備考:過去の威光にすがる大陸国家。
―――――――
国家データがバグって見えない……。備考も意味がわからない。しかし、これはやっぱり俺が作った国家に違いない。
すると、WWYは新たなメッセージを出してきた。
―――――――
元首名を入力してください
__________________
《OK》《CANCEL》
※OKを選択した30秒後に転生版WWYを開始します。
―――――――
注意事項を読んで即効でcancelを押そうとした。しかしいくらクリックしても反応しなかった。
……ここから出るにはなにか行動しなければならない。
そう感じた俺は、昔から馴染んでいるプレイヤー名を入力した
元首:ヒラーカズ・マーカ
そして、ふと思ったことがある。今までは指先のみで国を運営してきたのに、転移ということは自分の力で国家運営しなければならないということかと考えると億劫な気持ちになった。
――――そんなことを感じつつ、意識が薄れていった。
――とある世界で壮大な実験が行われた。人間は全て平等と言う巨大理念による国家建設だ。やがてその国家は世界に影響を及ぼす大国となった。その国家を建設し、強力な指導をしたのは恐怖政治の創始者となり赤地に黄色の星を左右縦の辺に3個ずつ、上下の辺に5個ずつ置いた国旗が翻る超大国、クルーエル社会主義共和国連邦、通称U.C.S.Rの初代書記、同志ヒラーカズであった。
人々は彼と彼の国をこう呼ぶ……。
『緋の王が治める国、緋色の平等』
これは日本のサラリーマンが独裁者となり、世界を席巻するまでの戦記である。彼はどこに向かいどの道を選ぶか……神のみぞしる。