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第一話ー2 その男、花江幸平
西暦2164年、過去三回の経済成長と五回の大震災を経験したこの国は、年を経るごとに貧富の格差が増大し、国のいたるところにスラム街なるものも存在していた。そのスラム街の一つに今、一人の男が流れ着いた。国中をさまよい歩いているというその男の名は、花江幸平。フードをかぶり、よれよれのズボンを履いてタバコをふかすその男の前を今、一人の女が駆け抜けようとしていた。
「おい、ガキ」
幸平はその女に、ドスの利いた声で呼びかける。が、女はそれを無視して、いや、まるで聞こえていないかのように何も反応を示さずに通り過ぎた。
「おい、待てっつってんだろうが」
幸平はその女の肩に手を伸ばして掴む。
「きゃっ、い、いや、離して」
少女は幸平を認識して初めて、自分が危険なスラム街の夜にいたことを思い出したようだ。
「や、やめて。お願いします。私にはやらなきゃいけないことが」
「うるせぇ、ちょっと黙れ」
幸平は女の怯えように、なにかこの女が勘違いをしていると気が付き、
「別にお前を犯そうとかは微塵も思っちゃいねぇ。ただ、聞きたい事があるだけだ」
と言った。