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覚醒 後編

愛梨の顔に血が付着した。

顔に付いた血を手でゆっくりと拭い取り、手に付いた陽平の血を見る。

「なに…これ…」

さっきまで手を引っ張っていた陽平にゆっくりと視線を移す。

腹部は男の腕が貫いていて、陽一は貫かれたままの状態で全身の力が抜けたまま立たされていた。

一歩後ずさりする。

声が出ない。

男は腹を貫いている反対の手で陽一の肩を抑え、貫いていた腕を勢いよく引き抜く。

陽一の体は少しの間立っていたが、膝がゆっくりと折れうつ伏せの状態で地面に倒れた。

「汚い血ついちまったぜ」

ポケットからハンカチを取り出し、顔についた返り血を拭き取るとその場で血がついたハンカチを投げ捨てる。

「さてメインデッシュをいただこうか」

男は愛梨に目を移し、にやける。

愛梨は恐怖から動けなかった。

男がゆっくりと近寄ってくる。

しかし、何某に足を引っかかったのか足が止まった。

男の足元を見ると腹部を貫かれ倒れたはずの陽平が男の左足を右手でつかんでいた。

「愛…梨に…近づく…な…」

陽平の言葉に力はなく、途切れ途切れにそう漏らしす。

「ちっ、汚いゴミが俺にさわんじゃねーよ」

陽一の手を振り払い、蹴り飛ばす。

体は宙を舞い、床に落ち転がる。

体が全く動かない。

視界もかすみ始めだんだんと意識が遠のいてゆく。

もう声を出すことも困難だった。

男が愛梨に近づいてゆく、そこで意識が途切れた。



声が聞こえる。

女性の声だ。

この声はどこかで聞いたことのあるような気がした。

それがどこだったかは覚えてはいない。

陽一を呼ぶ声は少しずつ大きくなり、ついに耳元ではっきりと名前を呼ばれ目を覚ます。

目を覚ますとそこはどこまでも白い世界だった。

「ここは…」

夢で見た世界だ。

前と違うのは自分の足が白い世界の地についている実感があると言うこと。

異変に気づく。

貫かれたはずの腹部が元に戻っていた。

それどころか傷1つ負っていない。

一体どうなっているのか理解が追いつかない。

「待っていましたよ」

不意に後ろからさっきまで聞こえていた声が聞こえ、一瞬ビクッとなりながらも勢いよく振り返る。

そこには夢で見たときと同じ女性の姿があった。

確か名前は『アリス』そう言っていた気がする。

「ふふ…。すでに願いは決まったようですね」

笑いながらそう言う。

彼女の言っていることが陽一によくわからなかった。

「ここに来る前に強く思ったことがあるはずです。それがあなたの願い。」

強く思ったこと…。

確かにある。

だがそれは生きていなければ意味のない願いだ。

確信はなかったが自分はもうすぐ死んでしまうような気がしていた。

「あなたはまだ死んでいません。そして願いを叶えれば死ぬことはありません」

「えっ?」

アリスは陽一の心を読んだような言葉を発した。

「それはどういう事だ…」

「あなたの願いを叶えるには代償として人間をやめて、吸血鬼になる必要があります。吸血鬼の力があれば異常な回復力がつき、死ぬことはほぼなくなるのです」

人間をやめれば愛梨を救うことが出来る。

陽平は迷わなかった。

「俺は愛梨を救うことが出来るのならなんだってする。たとえ吸血鬼になったとしても!」

「その願い叶えましょう」

アリスがそう言った瞬間に辺りは白く眩い光に包まれ、目を開けていることが出来ない。

そして、だんだんと意識が遠くなっていった。



「さてお嬢さん、次は君の番だ」

男は愛梨を追い詰めていた。

愛梨は背中を壁につけ、何とか逃げる事を考える。

ゆっくりと近づいてくる。どうすることも出来ない。

「安心しなよ、さっきのやつみたいにすぐ殺したりなんかしないさ」

そう言われた瞬間、愛梨の視界が滲んだ。

涙がこぼれた。

恐怖に負けた瞬間だった。

「嫌!」

考える事を止めて、こぼれる涙を拭いながらその場から走り出した。

しかし、男はそれを見逃すほど優しくはない。

男の右腕が愛梨の細い腕を捕まえる。

振り払おうと暴れるが男の力は痩せ細った見た目からは想像できないほど強く、振り払えない。

「離して!誰か助けて!」

地下空間に愛梨の声が響き渡るだけだった。

「もう少し静にしろよな」

そう言った瞬間、愛梨は勢いよく引き寄せられる。

そして、男の左手が愛梨の首を掴む。

「うるさいから少し黙ってもらうよ」

苦しい、息が出来ない。

首を掴んでいる手を外そうと両手で抵抗するが外れない。

男は片手だった手を両手にして首を掴み愛梨の体を持ち上げる。

だんだんと意識が遠くなってきた。

このまま死んでしまうと思った。

「よう…へい…」

その言葉を口から漏れるように呟いた直後、首を強く絞めていた手が緩み、愛梨は床に落ちる。

「ぐああぁぁぁぁぁー!」

男は悲鳴を上げていた。

薄れゆく意識の中でなにが起こったのか確認しようと男を見る。

男は背中から胸のあたりを腕で貫かれていた。

そして、貫いていた手は赤く光るラインが浮かび上がると男の体から煙が出始める。

「い、嫌だ!き、消えたくなぁ…」

もがき、暴れていた男は炎に包まれ灰になって消えていった。

残ったのは男を貫いてた、眼が赤く光る人物だけだ。

視界がぼやけ、はっきりとは見えず、そのまま気を失ってしまった。

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