寝不足
朝の教室で陽一は突っ伏した状態で寝ている。
いつもなら予習をしているのだが今日だけはやる気が怒らなかった。
「どうしたの陽一?」
隣のクラスの愛梨が机に突っ伏した状態の陽一に声かける。
だが、反応がない。
「よーうーいーち?」
頭を軽くぺちぺちと叩きながらもう一度呼ぶ。
「聞こえてるよ」
突っ伏した状態のまま、眠そうな声で返事が返ってきた。
「起きてるならちゃんと返事しなさいよ」
腕を組んだ状態で少し不満げなこえで声を漏らす。
「悪い、少し寝不足気味でな」
机から顔を上げ、姿勢を正す。
堪えきれなかった大きな欠伸を手で隠し終わった後、愛梨の顔を見た。
「珍しいわね、変な夢でも見た?」
「あぁ、その通りだ」
あのおかしな夢のせいで日が昇り始める前にベッドから落ちて目が覚めてしまい、その後寝ようと思ったがあの夢のことを思い出してしまい眠りにつくことができなかったのだ。
そんなわけで寝不足に陥っている。
「まぁ、どうでも良いけどね。そんなことより新しい目撃情報を手に入れたわよ」
心配をするよりも吸血鬼の方が大切のようだ。
吸血鬼らしき人物を探し出すことは諦めていなかったらしい。
「町外れにある閉鎖された廃工場の敷地内にこの前の現場で目撃された黒いコートの人物が入っていくのを見た人がいるんだって。こんな怪しい奴が出入りしてるんだから調査するしかないわよね!」
ドンと大きな音を立てて手を陽一の机に勢いよく突き、顔の距離が近くなる。
教室の中にいた生徒が大きな音にびくっとして陽一と愛梨へ一斉に振り返り、視線が集まった。
「す、少し落ち着け」
陽一はこっちを見ている生徒を横目で気にしながらも興奮する愛梨がこれ以上接近しないように両手を前に出し、止まれと合図を送る。
しかし、愛梨の興奮は収まらず、さらにグイッと迫ってきた。
陽一は少し後ろに仰け反る。
「絶対行くからね!」
興奮状態の愛梨の声は大きく、教室にいる生徒全ての耳に入り、少しざわつく。
「分かったから落ち着け」
勢いで調査を了承してしまった。
「それじゃ、放課後に迎えに来るから調査に行くわよ!逃げずに教室で待ってなさい!」
満面の笑みである。
愛梨は楽しそうにスキップをしながら自分の教室に帰っていく。
残された陽一はこの数分のやり取りと寝不足のせいで朝から疲れが溜まり、午前の授業中に何度か意識を失ってしまい、その度に怒られ散々な1日となった。