学校
陽一が自分のクラスで予習をしていると後ろから誰かに肩を叩かれる。
振り返った瞬間、細長くキレイな指が頬に当り、動きを止められた。
「おはよう、ツインテール女子が大好きな陽一君」
「愛梨~、挨拶の中に余計なことは含めるのは止めないか?あと、この指を退けてくれ」
笑顔で立っている愛梨は指を退けてくれない。
「で、今日は何のようなんだ?」
頬を指でつつかれたまま、用件を聞く。
「最近起きてる変死事件どう思う?」
どうやら、今朝のニュースでやっていた変死事件について聞きたいだけのようだ。
「どうと言われてもな。朝、姉ちゃんと吸血鬼かもなって話してたくらいかな。もちろん冗談だぞ」
朝のくだらない話をそのまま伝えた。
その話を聞いた愛梨はすぐバカにはすることはなく、なぜだかわからないが少しにやけているような気がする。
本当はその理由をなんとなく分かっていたが分からないことにしようとしたのだ。
「その話、案外当たってるかもよ?」
にやけていたのは、やはり吸血鬼が原因のようだ。
「その事件の第一発見者がね、救急車を呼ぼうと携帯を取り出した時、近くにもう1人、人がいたんだけどその人は不気味に笑って歩いて行っちゃったんだって」
なるほど笑ったときに鋭い歯が見えたんだな。
勝手に話の内容から吸血鬼かもと言い出す根拠を予想した。
多分ほとんどの人間が予想できる内容だ。
これだけで吸血鬼かもと言い出すのでは本当に存在していたとしても、本物の吸血鬼に会えることはないだろう。
とりあえず、愛梨が話してるので黙って聞くことにした。
「その人は黒いコートを着てフードを被ってたんだって。すごく怪しいと思わない?」
予想外の内容だった。
黒いコートを着てフードを被っていただけで吸血鬼かもなどと言い出したのだ。
それだけで疑われるのならこの世界ののどれくらいが吸血鬼になるのだろうか。
「それだけか?」
つい言葉が出てしまう。
「それだけだよ?」
愛梨はなぜそんなことを聞いてくるのか理解していないようだ。
「放課後、吸血鬼探しに行くから手伝ってね」
「断る」
しゃべり終える前に言葉を被せて断った。
「まぁまぁ、そう言わずに手伝ってよ。放課後また来るから
待っててね」
こちらの拒否を無視して、ポケットから封筒を取り出し、置いて行く。
「ほんと人の話を聞かないやつだ。さて、あいつがおいていったこの封筒の中身はなんなんだかな」
とりあえず、愛梨が置いていった封筒の中身を確認する。
のり付けされた封筒の口を開けると中には手紙と数枚の写真が同封されていた。
『この封筒に入ってる写真は今回の報酬だと思って受け取ってね』
手紙の内容はそれだけだった。
同封されていた写真を見てみると愛梨のツインテール姿が写されている。
日付からすると去年の夏に撮られた物のようだ。
最後の写真を見た瞬間、陽一は顔を青くし、固まってしまった。
「な、なんであいつがこの写真を持っているんだ…」
その写真には幼いときの陽一とひかりが写されていた。
写真の陽一はなぜかスカート姿でひかりに髪の毛を結ばれている。
昔の陽一はひかりに着せ替え人形のようにされることが多く、2人の親が思い出に写真に残していたのだ。
「まさか、手伝わないとこれをばらまくとか言い出すんじゃ…」
渡された封筒は報酬などではなく、ただの脅しの材料だと気づく。
とりあえずこの写真を誰かに見られる前に机の奥に入れる。
陽一は放課後になるまで写真を誰かに見られるんじゃないかと怯えながら過ごし、その日はほとんど自分の席から動けなかった。