941.~950.
941.
穴を掘る。ただ只管に穴を掘る。自分の背よりも深くなったところで掘るのをやめる。ここにもない。穴の壁に段差を作ってよじ登るのも手慣れたもの。探しているのだ。殺して埋めた妻の骨を。骨に塩をかけて燃やすのだ。恋人を作るたびに相手にとり憑き続ける妻を浄化するために。
942.
どれくらいの時が経ったのか。暑さに浮かれて海へ飛び込み、沖へ流された私は程なく意識を失った。目覚めると星空が見えた。陸?違う。首から下が硬いゼリーのようなものに埋まっている。そのうち昼になりまた夜になる。ざぶりと波が顔にかかる。あ、カモメだ。目玉をほじらないでよ。
943.
科学の発達と人類自身の進歩により、世界に完全な平和と友愛と自由が訪れて幾年。しかし太陽系外より光速を超えて襲来する「何か」に当たると殺人衝動が強制される。治療方法はない。機械が速やかにその人間を排除する。平和と友愛と自由を守るために。幼い頃からそう言い聞かされる。
944.
環境のことを考えて、洗剤をやめて自然由来のものに替えた。汚れもちゃんと落ちるし、問題ないと思っていたら、シンクの排水溝がぬめりだした。よく見るとぬめりの正体はショゴスでパニクって残っていた洗剤をぶちまけたら、ショゴスは即死した。洗剤に戻すかこのままか悩んでいる。
945.
ロボット技術が進歩し、人類は働かずとも生きていけるようになった。優秀なロボットたちが教育から犯罪抑止まで行うので、人類史上初の真の平和が訪れたとまで言われている。そんな中流行っているのが子どもロボット。我が子はロボットに任せ、失敗のない子育てを体験するのだ。
946.
夜更け、堆肥の山を見に行くと内側からもごもごと動いている。懐中電灯の丸い灯りの中出てきたのは、ゾンビの手。何体ももごもごと這い出てくる。私は喜んで家族を呼び、総出でゾンビの頭を鉈でカチ割る。死体はトラックに積んで廃棄処分する。「いやあ今年も良い肥料ができたね」
947.
大きな鉢植えでワタの木を貰った。日当たりのいい部屋の端に放っておいたら、黄色の綺麗な花が咲いて、実ができた。これが割れるとワタが出てくるんだっけ。楽しみだ。何日かたった真夜中、ふう…っと艶っぽい溜息が何度も聴こえた。朝になって見ると実ははぜていたがワタはなかった。
948.
祖父は女にも男にも老いにも若きにもモテたそうだ。ある日突然赤子の父を連れ帰って育て始めてからもモテ続けたというから凄い。父も私も特にモテない。けれど時々すれ違う人が急に傅いて祈りを捧げ始める。そして手近なものを振りまわして殺そうとする。その時必ず祖父の名前を叫ぶ。
949.
透きとおるエメラルドグリーンの海の中を、ウミネコが泳ぐ。上半身がネコ、下半身がサバ。サンゴ礁を守るために作りだされた生物兵器だ。オニヒトデはもちろん、マナーの悪いダイバーも襲って喰う。浜辺を占拠して観光客を威嚇したり、最近ではジュゴンとの交配が問題になっている。
950.
酒造りには良い水が欠かせない。豊かな水の源である山を守ってきた酒の町だが、去年山の一部を切り拓いてから、変わった。時々信じられないほど美味い酒ができるのだ。だがその酒ができた酒蔵は必ず凄惨な出来事に見舞われる。けれど酒造りはやめない。だって美味しいから。




