861.~870.
861.
幼い頃から悪夢を見る。様々な化け物に殺されるのだ。自分の脳味噌が創り出すもののために不眠になった私は、化け物たちを粘土細工やぬいぐるみにしては壊して自らを癒した。ふとしたことで人目に触れ、素晴らしい造形と話題になった。これから初の展覧会。何度も、夢で見た光景だ。
862.
バリバリの仕事人間だった父が、パワハラか何かが原因でひきこもりになってしまった。精神科にも通っていたが、耐えきれなくなったらしい。少し休んでもいいのではと見守ることにした。食事を届けに部屋へ行く。布団の中で父は丸くなっている。肉色の完全な球体。毛布をかけなおす。
863.
レモンやスポドリを甘く感じたら、疲れているらしい。ナトリウム不足なので多く摂り入れる為に味覚が変るのだという。初めてベッドを共にする恋人にふざけて噛みついた時、とても甘かった。あまりに美味しくて食い千切り、一晩で全部食べてしまった。不足してたんだから仕方ないか。
864.
幼い頃押入れにオバケがいると信じていた。祖父母と母は取り合わなかったが、父は黙って頷いてくれた。長じるにつれ子どもの妄想に付き合ってくれた父に感謝したが、違った。父は見えていたし、私の妄想ではなかった。戸の間から伸びる無毛の手が我が子を掴んで引き込もうとしている。
865.
「はい!来年は酉年ということで、初夢にはこちら!シャンタク鳥ー!」やたら楽しそうに拳を突き上げるニャルラトテップの背後にばっさばっさと化け物が降りてくる。初夢は今夜じゃなくて明日見るんじゃなどと言ってる場合じゃない。初日の出を見る為には死に物狂いで逃げるしかない。
866.
皆が当然のように待っていた初日の出が昇ってこない。月は沈んで昇った。いつまで経っても太陽だけが昇らない。地球はどんどん寒くなる。世界は大パニックになり暴動が起き戦争状態になった。一週間後何事もなかったように太陽は昇ったが日の出をありがたがる人類はもういなかった。
867.
見たこともない美しい鳥が、ベランダにいた。知的な眼差しがパジャマ半脱げで寝惚けて口の端に涎の跡がある私を見ている。何かを納得したように頷き、孔雀のよりも豪奢かつ荘厳な尾羽を靡かせ飛び去っていった。足元に悪臭を放つ原形質の使い魔が擦り寄ってくる。私はこの子で良い。
868.
定期的に回ってくるゴミ集積場の掃除当番。それで最近気付いたが、猫の集会場でもあるらしい。いつもは夜、帰宅時に見るのだが、たまーに変な時間に臨時集会が開かれている。今日掃除に行ったら手紙を貰った。猫からだ。「からすよけの おりを つけるべき」最近の議題だったのかも。
869.
電線に烏が一羽とまっている。糞でも落とされたら堪らないと道の反対側へ。そこには雀が数羽いる。ちゅんちゅん。ひひひ。ちゅん。ふひひひひ。囀りに混じる不快な含み笑い。百羽近い雀に取り囲まれていた。ひひひひ。ちゅん。咄嗟に見上げると、烏が痛ましげにこちらを見ていた。
870.
退屈だったので海を荒れさせて、大勢人間の乗った船を沈没させた。海の中にいろんなものが―船の破片、積み荷、人間たちが撒き散らされてとても楽しかった。またやろっかなと思っていると船が。でも嵐を起こす前に船上から色とりどりの花が投げ込まれて、きれいだった。またやろう。




