851.~860.
851.
SNSにUPした写真が心霊写真だと騒ぎになったた。慌てて削除したが騒ぎは収まりそうにない。ネットのって消えないんだよね、どうしよう。ソレが写り込んだ押入れを振りかえる。戸の隙間から私を見る目玉。生まれた時からいて、誰にも見えない筈なのだが、写真には写るんだねえ。
852.
枕カバーを、見たこともないどぎつい色と模様の芋虫が喰っていた。衝撃が大き過ぎて凍りつく。愛犬のテリアも吠えまくっている。カバーを食べ終えると、コバルトブルーの糸をヒュンヒュン吐いて、犬ごと三角錐の繭になった。窓から外の池に捨てたが、池からは青い煙が湧き続けている。
853.
部屋のど真ん中から石油が湧いた。昔の言葉で臭水とか言われるだけの事はある。近所の人に通報され、警察と管理人がやってくる。部屋を見て絶句。ここアパートの3階なのにね。一先ず出ましょうと言われ、僕は首を横に振る。マッチに火をつける。これで明日仕事に行かずに済むのだ。
854.
お風呂が北極になった。湯気で白く曇った浴室は暖かく、湯船のお湯も程良い熱さ。けれど白い氷が肩まで浸かった私を取り巻き、目の前でちっさいホッキョクグマがアザラシを殴り殺してお湯から引き摺りあげている。体をめちゃくちゃ痛いので潜って見るとシャチが私の肉を齧っていた。
855.
夫がぬいぐるみを妊娠させた。所謂大人のオモチャ的なものじゃなく、綿が詰まっているふかふかのやつだ。形はキリン。アフリカに生息する実在のキリン。息子のお気に入りの大きなキリンだ。陣痛に苦しむキリンのぬいぐるみを心配そうに見つめる夫。良かったわね、初の実の子だものね。
856.
彼の傷口からは花が咲く。一度嗅いだら忘れられない素晴らしい薫りと美しい色と形の花が。当然彼を傷つけ過ぎれば死んでしまう。死なない程度に傷つけ花を咲かせて収穫する。冷たく清んだ水しか飲まない彼に水を届けるのが私の役目。収穫が終わり、素肌を晒す彼を見られるのは私だけ。
857.
ナントカカントカ彗星が地球を超ギリで掠めていってから、あらゆるからくり仕掛けが意思を持ってしまった。複雑な精密機械から、子どもでも工作できるようなものまで。みな人間に親切で交通事故などのミスも減った。それにわざと使い方を間違えると、不良品として殺処分しようとする。
858.
爪を切ろうとしたら、爪切りが欠けた。よく見ると、爪は薄いダイヤモンドになっていた。翌日には毛が黒いプラスチックになった。日に日に体のパーツが無機物に変わっていく。けれど五感や動きに支障はないので、あまり気にしないことにした。困るのは爪が伸びすぎても切れない事。
859.
真冬でも花が咲き誇る奇跡の花畑が我が町にはある。四季の花が通年狂い咲くその広場を、外から来た人間はありがたがって、花を踏み花を摘み記念写真を撮る。リピーターが多く、最終的には花畑の真ん中で幸せそうに死んでいく。所持品を集めて売り払い、町と花畑の境の柵を修繕する。
860.
異星人が地球に襲来したが、三日ほど世界中で暴れた後、なぜか凄い勢いで逃げだしていった。理由はよくわからないが、助かってよかったと人類は喜んだ。再び別の異星人が襲来し、やっぱり何日か暴れて逃げ帰って行った。不定期に異星人は襲ってくるが、いつも勝手に怯えて逃げていく。




